オレの番になって──異世界に行って愛猫の番にされる話

まめ

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こんにちは異世界

02 異世界で再会

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痛ったーー!!!
目の前には、金色の目を爛々と輝かせ、全身の毛を逆立てた、大きな黒い獣がいた。ぼくの胸に片足を乗せてふんばっている。
その首にぶらさがっている青い首輪と金の鈴は、昔、ぼくがネロに買ったものだ。
……ってことは、こいつって、ネロ?

いやいや、うちの子がこんなライオンみたいにデカいはずない。
ぼくはそんなことを考えながら、獣と見つめ合いながら体を起こした。
獣は、はっはっと荒い呼吸をしながら、ぶわぶわに毛を膨らませている。怒っているのはわかるけど、襲いかかってくる様子はない。

「……もしかして、ネロぉ? ネロなの?」

そう声をかけたとたん、獣は突然、頭突きをかましてきた。
ドカンと突き飛ばされ、起き上がったばかりなのに、また地面に仰向けになったぼくの上に全身でのしかかり──
顔を、ざりざりした舌で、なめまくってきた。

……なんて乱暴な。
こいつ、やっぱりネロじゃん。

ぼくは、上に乗るネロの頭を、背中を、逆立った毛並みを落ち着かせるように撫で続けた。しっぽが見たことないくらいふくらんでいて、興奮の度合いがわかる。
ネロを撫でる──怒りが収まるように、やさしく、何度も。

ネロは変わらずざりざりとぼくをなめ続け、頬が赤く腫れてひりひりと痛むころ、ようやく気がすんだようだった。
そのころには毛並みもすっかり整い、ネロはいつもの姿(大サイズ)に戻っていた。

「……君は、ネロでいいのかな……?
大きくなったからびっくりしちゃったよ。
神様に会ったの?
ぼくの元に来てくれてありがとう。
いきなり死んじゃって、ごめんね……」

ネロは返事の代わりに、ぼくの額をベロンとなめて、鼻先をそっとくっつけてきた。
二つの金色の瞳がおだやかにこちらを見つめている。
その中に宿る親愛のようなものに、ぼくはようやく、ネロの怒りの理由を理解した。

「なあ、ネロ……。もしかして、ぼくに置いていかれたから怒ってたの?
君、さみしがりやさんだったもんね。
最初から、神様に“ネロと一緒に暮らしたい”ってお願いすればよかったんだね」

ネロは言葉が通じたかのように、しっぽをびたん、びたんと地面に打ちつけた。
体と一緒に、知性もグレードアップしたのかもしれない。

ぼくにとって大きな問題──ネロの心配がとりあえず解決して、なんだか気持ちもすっきりした。
でも、ネロのことばかりで、まわりが目に入っていなかった。


──異世界転生初日。
現在の状況を、改めて確認しよう。

まず、ぼく。
服は着ている。白シャツに黒のパンツ、革靴。あれ、これって仕事服じゃないか。さすがに血のシミはない。よかった。
手足は、少し小さいかも。中学生くらいの自分だ。
顔はさわってもよくわからないけど、髪が……オリーブグリーンになってる。おお。

次にネロ。
姿は黒猫のまま。大きく、そして強そうになった。今の様子から、言葉がわかるようになったのかもしれない。

次に、まわりの様子。
今の時間は……光がうっすら青みを帯びているから、たぶん朝方。
気持ちのいい風が吹き抜ける、だだっ広い草原。ぼくとネロのほかには誰もいない。
右手には森が見える。左手は──途中から空になってる。崖があるのかもしれない。
気温は春くらいで、過ごしやすい。

今日中にしておくこと。
まず、寝る場所を探すこと。
食料や水の調達。
……あと、なにかあったかな?

「ネロは、今までキャットフードしか食べてこなかったけど、肉や魚は食べれるのかなあ?」

「がう!」

お、独り言だったのに返事がかえってきたぞ。ほんとにわかってんのかな?
それより!ネロ、"がう"って言った。
もう"ニャー"じゃないんだ……"がう"なんだ。


「じゃあ、まず寝る場所探さなくちゃな。森に入ってみようか」

「がう!」

ネロは先導するように、前を歩き、ついてこい!って感じでしっぽをぷいぷいってふった。
ぼくは少し後ろを歩いていく。
 
木の洞や、無人の小屋が見つけられるといいな。
でもこの世界の住人って、どんな姿なんだろう。
会っていきなり食べられちゃったら──それはちょっと、怖いかも。

森に生えているのは、見覚えのある広葉樹が多い。足元には、どんぐりやシイの実が落ちている。
シイの実、小さいけど美味しいんだよね。拾い集めれば、結構な量になった。

ネロについて、木漏れ日がさす森を歩いていくと、開けた明るい場所に出た。
そこには、古びた小さな家がぽつんと建っていた。
木で出来た家には、屋根や外壁にいろんな植物が絡みついていて、家全体が緑に見える。まるで絵本に出てくる家みたい。

ぼくがおそるおそる様子をうかがっていると、ネロは玄関ドアの前まで行き、こちらを振り向いた。

「がう!」

「なに?ドアを開けろって?」

「がう!」

住人がいたら、大きなネロを見てびっくりしちゃうよ。
ぼくは家に近づいて、ドアをノックしようと触れた。
すると、触れた場所から光が波紋のようにふわりと広がり、家全体が金色の粒子に包まれた。
――ようこそ、ここがあなたの家――
頭の中に、男性とも女性ともわからない柔らかい声が響いた。誰の声だろう、この世界の神様かな。あたたかな気配に、ぼくはこの世界に歓迎されていると感じ、安心して家のドアを開けた──

一歩足を踏み入れる。落ち着いた木の香りがした。間仕切りのない部屋には、ぎっしり本が詰まった本棚と、テーブルと椅子。
少し大きめのベッドがひとつ。
窓から入るやわらかな光が、落ち着いた色合いの室内に降り注いでいる。
──こういう家に、住んでみたかったんだ。

ネロは物怖じせず、すたすたと部屋の中を進み、ふわりとベッドに飛び乗ると、しっぽをぶんぶん振った。

「がう!」

……ああ、いきなりベッドに寝てる。マイペースすぎる。
この家の場所も知っていたようだし、ネロは神様からなにか聞いていたのかもしれない。

「ネロ、家のこと知ってたの?」

ネロは、あたりまえだよ!って自慢気な顔でうなずくと、しっぽでぼくをちょいちょい呼ぶ。
近づくと、ベッドの上でがばりとぼくを抱きかかえ、ざりざりと頭をなめてきた。うわ、力が強い。デカねこになったネロから、非力なぼくはもう逃れられない……

今日、ぼくは死んで、転生して、ネロが大きくなって、
不思議なことばかりで──このすてきな家をもらえるってのもありなんだ!すごい!

あと、ネロがとてもベタベタしてくる。
……これも、ありか。

ぼくは考えるのをやめて、
ぜんぶ──ありがたく受け入れることにした。

ふかふかのネロの毛に包まれて、
ご機嫌に喉を鳴らす音を聞きながら、
眠りに誘われていく。

……さすがに今日は疲れたよ。

おやすみ、ネロ。
おやすみ、異世界。

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