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首都
21 神子誕生
しおりを挟むしばらくして、帰ってきたライとレフに、無事髪の毛を届けられたと聞いた。
ネロの反応を見ずに帰ってきてしまう二人には、ちょっと残念な気持ちもあったが、精霊は興味のないものにはあまりかまわないものなので仕方ない。
今のぼくには、話が出来る存在がとてもありがたかったし、彼らにはまだ頼みたいことがあった。
「ライ、レフ、おつかいありがとう。君たちは、ぼくと離れて遠くに行くことは出来るのかな?
あの隠れ里のミノンのところまで、お願いしたいんだ」
「あー、あそこなら簡単に行けるよ。ミノンについてる精霊――ポーの存在が道標になるから、迷うこともない」
「おつかいあるのー?」
「うん、ポーはミノンと話せるから、ぼくの言葉を伝えることが出来るよね。
内容は難しいことじゃないんだ。
ぼくが教会に連れていかれたこと。
神の台座付近には近寄らないほうがいいこと。この二つだよ。
もしミノンがぼくに会えることを期待して、北の森付近をうろついたら、人間に見つかってしまうかもしれないから。
あと、オギューさんがぼくがさらわれたことを知ったら、隠れ里のことを話してしまわないか心配になるだろうね。
ぼくは秘密は守るし、人間の味方になるつもりはないことも、伝えておいて」
「二つじゃなくて三つじゃない?」
「そうだね、伝えてほしいことが三つになっちゃったね。覚えてくれたかな?」
「はい!レフはしっかり覚えましたー!」
「じゃあ、頼んだよ。久しぶりに呼んだのに、頼み事ばかりでごめんね」
「いいんだよ!周の願いを叶えるのが、俺たちの使命だからなっ!」
「そうだよー!いってきまーす!」
すぐに彼らは姿を消した。ぼくのお願いに気を悪くすることもなく、うれしそうにはしゃいでいた。
今まで申し訳なくて、加護である彼らにあまり力を借りないようにしてきたけど、もしかしたら素直に頼ったほうが喜ぶのかもしれない。
東の空が明るんできた。夜明けを告げる雄鶏の声、街が目を覚ます時間がやってきた。
ふと、階段を上がる足音に気付く。誰かがこの部屋に近づく気配があった。軽い足取りは、どうやら女性のもののようだった。
初めて会う教会の人に、怯えて情けない姿は見せたくない。
ぼくは静かに窓辺に立ち、背筋を真っ直ぐにし、気持ちを引き締めて、見知らぬ訪問者を待った。
***
トントン、眠り続けるぼくを気づかってのことだろう。控え目なノックのあと、静かに部屋の扉が開いた。
入ってきたのは、薄茶色の耳を持つ獣人の女性だった。
女性は窓辺にぼくが立っているのに気づくと、「ひっ!」と小さく驚きの声をあげ、そのまま急ぐように走り去った。
よほど慌てていたのだろう。ドアは開け放したままだった。
半刻ほどたっただろうか、廊下を走る複数の騒がしい足音が聞こえるなり、勢いよくドアから人がなだれ込んだ。
そこには、白い衣服を纏った教会の関係者や軍服に身を包んだ兵士、さっきの女性の姿があった。
「神子様!お目覚めをお待ちしていました!」
白い服の男性が、興奮した様子で声をあげる。
彼の目は、なんらかの期待で輝いており、ぼくを神子として崇めているのがありありとわかった。
しかし、いきなりやってきて家を焼いたこと、この部屋やネロへの待遇は、神子に対するものではなかった。
「……どうして」
ぼくは怒っているんだと思う。でも、怒りをあまり表に出したことがないので、なんと言えばいいのかわからなくなった。信用してもよいのかわからない相手に、何を話せというんだ。
「ねぇ、どうして、こんな……」
ああ、感情だけは爆発しそうなほど抱えているのに、言葉の代わりに涙だけがはらはらとこぼれてしまう。
その時だった。
突然、締め切られた室内に、吹くはずのない風がひゅるりと入り込んだ。
その風――隠れ里へのおつかいから帰ってきたライとレフは、小さな渦のようにふんわりとぼくの髪を巻き上げて、両肩に腰かけた。
窓から差し込んだ朝陽が、ぼくの揺れる髪から、落ちる涙から、金色の光をこぼし、後光を背負うシルエットが浮かびあがった。
誰もが想像するだろう”神子”らしい姿が、そこに生まれた。そう偶然にして、生まれてしまったのだ。
「「「「!」」」」
誰もが言葉もなく、感嘆の面持ちで、ただぼくを見つめていた。
そして次の瞬間、部屋にいた全ての人が、ぼくの足元にひざまずいた。
こうしてぼくは、この敵しかいないだろう教会で、敬虔なる信者を少しばかり獲得してしまうのだった。
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