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首都
22 神子と獣人(前半周視点・後半ネロ視点)
しおりを挟むとりあえずね、ぼくはおなかが空いたので、食べ物をもらいました。
眠っていた間のぼくは、薄い光につつまれて動かず丸まっていたらしいよ。誰も触れることが出来なかったって。蛹みたいだね。
だから、教会の人たちは「羽化した!」「神子爆誕!」って思っちゃったのかな。
どうしてそんな状態になってたのかはわからないけど、加護の関係かもしれないね。
それから、周りの態度がいきなり変わって、部屋が広くなって、豪華な家具を揃えたものにグレードアップしたんだ。
教会の人が着る真っ白なローブを着せられて、金の腕輪に、耳飾り、諸々のアクセサリー。そんなものにじゃらじゃらと飾り立てられたぼくは、そのまま教皇様のところに運ばれ、神子認定を受けたよ。
行先不明のジェットコースターに乗せられたみたいで、ぼく自身ついていけてない。
うん、投げやりになっている。やってらんないよ。
それなのに、ネロに会うことはかなわないし、教会から出ることもできない――抵抗すると、隷属の首輪が締まるんだ。神子と呼びながらも、親切にしてくれるのは一部の人で、教会の上層部はぼくをいいように使うことしか考えていない。
毎日、貴族の偉そうな人たちに会わされて、加護を授けるように言われるのもうんざり。精霊たちを貴族の私利私欲のために使うなんてとんでもない。ぼく以外に精霊が見える人はいないから、それらしい動作をしてごまかしている。
教会で働く獣人たちが、少しのことで暴力を振るわれるのを見ても何もできない。一度かばったら、ぼくの知らないところでその獣人が痛めつけられることがあって、それからは躊躇してしまう。
きれいな服を着て、食べきれないほどの豪華な料理を並べられて、ふかふかのベッドで眠って、誰もが羨ましがるような贅沢な暮らし――それでも、あの家でネロと過ごした日々、食べるものが無くてりんごばかり食べてたり、塩がないって困ってたときのほうが、だんぜん楽しかった。
なにより、ここにはネロがいない。あのあたたかく愛しい存在がいないんだ。
ぼくの身の回りの世話には、数人の獣人がつけられた。教会の人の指示にぼくが従わないと、獣人が殴られる仕組みだ。
それが辛くてなんでも従っているうちに、ぼくは自分と世界の間に、少しずつ薄い膜が張っていくのを感じていた。
なにも食べたくないし、眠くもならないし、人の言葉が遠くに聞こえるし、意味もよくわからなくなってきた。
それでも、どれだけ頼んでも、ネロとは会えないままだった――
***
ある朝、オレは荷運びの仕事中、急に頭がぐらりとして道端に崩れ落ちた。オレのような家畜扱いの生き物が倒れても、荷車を外されて道の隅に転がされるだけで、この街じゃ誰も関わらない。
波のように繰り返す、急な寒気と骨がきしむ感覚。オレはこれが病ではない予感があった。
きっと身体が猫から獣人に作り変わっているんだ。ついに来たんだ。ぎりぎりと歯を食いしばりながら移動し、裏路地のゴミの間に身を隠した。
そのまま沸騰するような熱い感覚とともに、オレは意識を落とした――
――辺りが暗くなり始めた夕暮れ時。
目覚めたオレは獣人としての体を手に入れていた。
黒い耳としっぽはそのままに、人と同じところに黒い毛が残るが、体の大部分は人間の肌だった。
やけに大きくなった手を握ったり開いたりしながら、まだぎこちない新しい体を少しずつ慣らしていった。
以前、周が”獣人になったオレの絵”を描いて、盛り上がっていたのを思い出した。
あの時の周かわいかったな。でも、今のオレのこと、ネロってわかってくれるのかな。
こんな時に獣人になってしまうなんて……
本来の獣人は、人の姿と獣の姿を自由に変化させることが出来るという。しかし、成り立てのオレは、まだそのコツが、猫に戻るコツが、わかりそうになかった。
教会の集会で、広場に面したバルコニーに姿を現した周を見かけた。
真っ白で豪奢な衣装を身に纏い、心のない人形みたいに無表情で、群衆に手を振る周はきれいだけど昔とはぜんぜん違った。
なあ、周、元気なのか?つらくないか?おまえに会いたい――
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