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わけも分からず放り出された俺は、ここが異世界かすら分からなかった
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「んッ……」
全身から走る苦痛と共に、俺は目を覚ました。
体を起こすと、打ち付けたのであろう腰に重い痛みが走る。
「いってぇぇ~……」
頭を掻きつつ、うっすらと目を開く。同時に、視界いっぱいに様々な緑色が飛び込んでくる。
それに気づき、俺は顔を上げて周囲を見回した。
そこは、見知らぬ自然豊かな山の頂上だった。
土が見えない程、びっしりと生えた種類も分からない草花。それらは少し先の斜面も完全に覆いつくしている。
更に先を見れば、緩やかに下る斜面に沿って整然と木々が聳え立つ広大な森が広がっていた。
「どこだよ、ここ。異世界……なのか?」
痛む腰を抑えつつ、ゆっくりと立ち上がって周囲をもう一度見回してみる。
改めて見るが、そこにあるのは何の変哲もない自然の風景でしかなかった。
これほどの自然は実際目にした事はなく、地球上にこんな手付かずの自然が残ってるのかは分からないが、だからと言ってこれが異世界だという確証はない。
ここから見てる限り、地球上の植物と同じにしか見えないのだが……。
「ってか、俺、生き返ったのか?」
手を握って開いて、足を上げてブンブンと振り回し、実際に色々な感覚が正しく存在する事を確認する。
異世界に転生。
それは、創作の世界であれば割とよくある現象、なのかもしれないが、現実にこうして起こってみるとわけがわからなかった。
ただ、生きている実感が確実にある以上、それは受け入れるしかなさそうだ。
なら、ここはどこなんだ?
さっきも思った通り、ここが本当に異世界かはよく分からない。それを確認する為に、何か手掛かりはないか?
そこまで考えたところで、ふと頭に浮かんだことがあった。
ここ最近読み漁ったラノベの異世界転生モノだと、異世界だってすぐに分かるような何かが突然姿を現す事があった筈だ。空を巨大なドラゴンが飛んで行ったり、とか……。
然は急げと空を見上げて、ぐるりと一周、何か飛んでやしないかと探してみる。
しかし、そこにも見慣れた青い空が広がっているだけで、何もいなかった。ドラゴンは愚か、こんな自然豊かな山の中なら普通にいそうな鳥やら虫まで、影も形も無かった。
何だか、妙に寒い風が吹いていった気がした。
「手がかりなんもなしかよ。どうしたらいいんだ……」
ため息をつき、俺は途方に暮れた。
現時点では、ここがどこなのかすら確認する術もない。こんな場所が地球上にあるとは思えないとは言ったものの、海外とかの方ならこういう光景もありうる可能性も考えられる。海外だと、こんなに温暖なのかとか色々分からない事があるけど。もしも海外だったら、俺はどうやって帰ったら良いんだろうか?
さて、どうしたものか。
異変が起きたのはその時だ。
いきなり何かが足に絡みついた。かと思ったら、一気に天地がひっくり返り、俺の体は宙に吊り上げられる。
「え? おい、なんだ!!?」
慌ててもがき、何が起きたか確認する。見れば俺の足に、緑色の綱のようなものが絡みついていた。
なんだ、こりゃ?
まったく何が起きたかも分からなくて更にもがく。すると、俺の体が逆さづりのまま、引っ張られる。
そして、俺の目の前に巨大な植物、の形をした何かが現れた。
それは食虫植物のような形状の何かだ。それは恐ろしく巨大で、全長で言ったら優に三メートルはありそうだ。その上、虫を取り込む為の口のような部分には獰猛な獣のような強靭な顎と鋭利な牙が見え、根っこの辺りからは巨大な二本の触手が伸びている。確か、有名ファンタジーRPGのゲームとかに出てくる臭い息を吐いてくる奴がこんな感じの見た目だった気がする。
明らかに地球上にはいない、いる筈の無い化け物だ。
「な、なんだ、コイツ!!?」
突然の事態で、まったくわけが分からないが、どうやら俺はこの化け物に捕食されかけてるらしい。
そして、コイツが登場した事でここが地球じゃない事は確定だ。
ただ、今はそんな事言ってる場合じゃないのだが。
異世界来た瞬間、これかよ!!
状況の確認すらままならないまま、いきなり化け物に襲われるとか、どんだけついてないんだよ!!
何でこんなところに放り出した、あのアホ創造主!!! お陰でいきなり絶体絶命じゃねぇか!!
そんな事を考えていると、化け物はその巨大な顎を大きく開く。同時に俺の体がその口の方へと運ばれていく。
や、やばい! マジでヤバイ!
「おい、ふざけんな! 止せ! 俺は美味しくない! 碌なもの食べてないし、全然食べるところの無い、骨と皮しか無いぞ~~!!」
何とかその状況を抜け出そうと、じたばた暴れながら、足に絡んだツタを引きはがそうと試みる。
が、ツタはビクともせず、長いツタは化け物の口元へとどんどん近づき、ついに口の目の前まで運ばれた。
「くそ! やめろ!! やめろぉぉぉ~~~~~~~!!!!」
それでも何とか逃げ出そうと空中で手足をバタつかせる。が、俺の体はもう化け物の口の中にほぼ呑み込まれつつある。同時に体の真上に、鋭利な牙が俺の体に振り下ろされていく。
ああ、死んだ。
せっかくよみがえったのに、また、あっけなく。
こんなに、早く死んでしまうのか。
こんなに早く……こんなに、早く……早く死ぬ?
『早く死んじゃえよ~~~~~~!!!!』
瞬間、俺の脳裏をとある記憶が駆け抜けていった。
小中高とずっと虐められた過去。家が貧乏で汚れた古着と薄汚れたお古のランドセルで登校したせいで、貧乏な家の人間だと周囲に囃し立てられた。
それから、俺の事を皆が侮蔑するようになり、臭いだの、汚いだのと言われ、近づくなと言われ、隣同士でも机を離され……。
それにどう対応すればいいか分からなくて、俺が怒っても教師は俺が悪い事にしたりして、その内諦めてそういう扱いにも必死で耐えて頑張って、でもこちらが何も言わなかったらいつの間にか俺には何をしてもいいと、クラス全員から無視され、筆箱や教科書、上履きを隠されたり、石を投げつけられ……。
貧乏人は学校に来るな、早く死ねなどと好き勝手言われ、それから、それから……。
「ッ! ふざけんな!!!!」
その記憶を振り払うように、俺は言葉を発していた。
「どいつも、こいつも、こっちが我慢してやってりゃ、いい気になりやがって!!!! 俺が何をした? てめぇらに何をしたってんだ!!!」
徐々に声のボリュームが上がる。同時に、俺の中で激しい怒りが爆発した。
「誰が死んでやるか!!! 死んでたまるか~~~~~~~!!!!!!」
腹の底からの叫び。瞬間、俺の体から何かが拡散した。同時に足に絡んでいたツタの拘束が外れる。
自由になった体が無意識に体制を立て直し、地面へと着地する。
見れば、さっきまでそこにいた筈の化け物は、あの巨大な顎を持つ頭がキレイさっぱりなくなった足だけの状態でそこにいた。そして、頭を失ったせいで、足は徐々に茶色へと変色し、そのまま朽ち果てていく。
「え? はい?」
突然の事に状況を飲み込めず、困惑する。さっきまで、俺は逆さづりで化け物に食われかけていた筈。
それが急に拘束が解けて、化け物は頭ごと全部吹っ飛んでいた。
「……今、何が起きた?」
到着早々異世界かも分からず、そしたら突如化け物に襲われて、次はその化け物がわけも分からず吹っ飛んでいたのだ。あまりに展開が早すぎて、意味不明なのだが。分かったのはここが異世界だって事ぐらいだし、もうマジでいい加減にしてほしいのだが……。
と、困惑していたら、突然地面が激しく揺れだした。地震?と思い、何とか踏ん張って転倒を免れる。
しかし、そんな俺を囲い込むように、突然周囲の地面が盛り上がり、中からさっきの化け物と同じ奴らが何十体も姿を現した。その数、山肌を完全に埋め尽くさんばかりの大群だ。
「おい! またかよ! しかも今度は大量に湧いてきただと!!?」
異世界到着早々化け物に食われそうになって、わけ分からないまま撃退したかと思ったら、今度は大軍登場という超展開。
そのあまりの展開の速度にまるで認識が追い付かない。いくらなんでもトラブルが供給過剰過ぎやしないか?
が、そんな俺の考えなど無関係に、化け物達が俺の存在に気付き、一斉にこちらへとその巨大な体を向け、囲みを狭めようと前進を開始した。
明らかに絶体絶命。それも先ほど襲われた時よりも更にヤバイ状況だ。
「なんなんだよ、ほんとに! ふざけんじゃねぇ~~よ!」
その理不尽な状況に、俺は瞬間湯沸かし器の如く怒りを爆発させた。
瞬間、全身から黒い光のようなものが立ち上がり、全身をくまなく覆いつくした。
「えッ!!?」
またしても突然の事態に、俺は困惑した。またしてもわけが分からない事態だ。しかも、今度は外的要因じゃなくて内的要因、つまり自分に訪れた謎の変化。
本当に意味不明だ。
「なんだ、コレ? 俺、いきなりどうしちゃったの?」
と、俺が困惑している隙に、俺にゆっくり迫っていた化け物花の一体から触手が放たれた。それは矢のように迅速に、俺の体を狙ってくる。
「うぉ!!」
隙をつかれた俺はよける事も出来ず、反射的に顔を腕で庇った。
それは咄嗟の事で、どう考えてもただの気休めでしかない行為……の筈だった。
普通に考えたら、触手の一撃は俺の体をぶつかった腕ごと吹き飛ばしていただろう。だが、触手が腕に、いや腕から発しているオーラに触れた瞬間、根本から一瞬で消滅したのだ。
「はッ?」
その光景に、俺は思わず間抜けな声を上げる。またまた意味不明な事態。
――ッ、ギャァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!
それは化け物も同様だったか、触手が消えうせた瞬間は何も気付かぬ風だったが、一瞬の後、その巨大な顎を大きく開け、苦しんだように絶叫した。
けたたましい化け物の悲鳴。その不快な音に耳を塞ぎつつ、何が起きたのかを俺は考える。
激しい怒りが爆発した瞬間に噴き出した謎の黒い光。それに触れた化け物の触手は一瞬にして消し飛んだ。
そして、つい先ほど、化け物に食われかけた時も、激しい怒りが爆発して気付いたら化け物は跡形もなく消し飛んでいた。
その答えは一つしかない。
「まさか、さっきのも今のも、いきなり出てきたこの光のおかげなのか?」
俺がそこに思い至ると同時に、周囲を囲んでいた化け物から次々と触手が伸びてきた。四方八方から延ばされたその攻撃を、俺はよける術はない。
しかし……。
光に触れた触手は先ほど同様、すべて光に触れた先端から消滅、化け物達は悲鳴の大合唱を轟かす。
それを人事のように眺めていた俺は、自分の手足から絶えず迸る謎の光に目を向ける。
その力は、何の理由か分からないが、今俺の全身から溢れ出ている。
なら、今やるべきは一つ。
「よっしゃ!!! まずはこの化け物どもを片付ける! 考えるのはそれからだ~!!!」
景気づけに思い切り叫び、俺は触手を失って苦しむ化け物の一体めがけて突進する。
「おらぁぁぁ~~!!」
そして、光を纏ったまま拳を叩きつけた。
途端、拳の先端から溜まっていた光が化け物の全身を包み込むように放出され、その光の中で化け物は跡形もなく消滅した。
「まずは一体!」
化け物を簡単に倒せた事に喝采を上げ、すぐに隣の化け物へと飛び掛かる。
「おらおら、まだまだ行くぞ!! 覚悟しやがれぇ~!!」
そのまま、駆けまわって、一体、二体と殴っては消滅させ、消滅させては次の化け物に向う事を繰り返した。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁぁぁ~~~~!!!!」
更に何体もの化け物を消し飛ばした辺りで、調子が出てきて、俺はためらいもなく突然発生した謎能力を駆使して化け物達をかたっぱしから弾き飛ばしてやった。
そして、化け物は瞬く間に残り一体となった。
「これで、ラストだぁぁぁ~~~~~~~!!!」
俺は全力で跳躍し、成す術もなく動けない化け物相手に全力の拳を叩きつける。
そして、最後の一体も黒い光に包まれ、跡形もなく消滅した。
「はぁ……はぁ……」
そうして、俺はようやく立ち止まり、荒くなった息をどうにか整えようと努める。
やった。
よく分からないけど、何とか生き延びた。
心の中で安堵すると、急にどっと疲れが襲ってきて、その場に座り込む。
当面の危機は去ったものの、また化け物が出てくる可能性もあったが、今はまだ動く気にはなれない。
とりあえず、少し休んでからどうするか考えよう。
そう思い、俺は生い茂る芝生に倒れこんだ。
全身から走る苦痛と共に、俺は目を覚ました。
体を起こすと、打ち付けたのであろう腰に重い痛みが走る。
「いってぇぇ~……」
頭を掻きつつ、うっすらと目を開く。同時に、視界いっぱいに様々な緑色が飛び込んでくる。
それに気づき、俺は顔を上げて周囲を見回した。
そこは、見知らぬ自然豊かな山の頂上だった。
土が見えない程、びっしりと生えた種類も分からない草花。それらは少し先の斜面も完全に覆いつくしている。
更に先を見れば、緩やかに下る斜面に沿って整然と木々が聳え立つ広大な森が広がっていた。
「どこだよ、ここ。異世界……なのか?」
痛む腰を抑えつつ、ゆっくりと立ち上がって周囲をもう一度見回してみる。
改めて見るが、そこにあるのは何の変哲もない自然の風景でしかなかった。
これほどの自然は実際目にした事はなく、地球上にこんな手付かずの自然が残ってるのかは分からないが、だからと言ってこれが異世界だという確証はない。
ここから見てる限り、地球上の植物と同じにしか見えないのだが……。
「ってか、俺、生き返ったのか?」
手を握って開いて、足を上げてブンブンと振り回し、実際に色々な感覚が正しく存在する事を確認する。
異世界に転生。
それは、創作の世界であれば割とよくある現象、なのかもしれないが、現実にこうして起こってみるとわけがわからなかった。
ただ、生きている実感が確実にある以上、それは受け入れるしかなさそうだ。
なら、ここはどこなんだ?
さっきも思った通り、ここが本当に異世界かはよく分からない。それを確認する為に、何か手掛かりはないか?
そこまで考えたところで、ふと頭に浮かんだことがあった。
ここ最近読み漁ったラノベの異世界転生モノだと、異世界だってすぐに分かるような何かが突然姿を現す事があった筈だ。空を巨大なドラゴンが飛んで行ったり、とか……。
然は急げと空を見上げて、ぐるりと一周、何か飛んでやしないかと探してみる。
しかし、そこにも見慣れた青い空が広がっているだけで、何もいなかった。ドラゴンは愚か、こんな自然豊かな山の中なら普通にいそうな鳥やら虫まで、影も形も無かった。
何だか、妙に寒い風が吹いていった気がした。
「手がかりなんもなしかよ。どうしたらいいんだ……」
ため息をつき、俺は途方に暮れた。
現時点では、ここがどこなのかすら確認する術もない。こんな場所が地球上にあるとは思えないとは言ったものの、海外とかの方ならこういう光景もありうる可能性も考えられる。海外だと、こんなに温暖なのかとか色々分からない事があるけど。もしも海外だったら、俺はどうやって帰ったら良いんだろうか?
さて、どうしたものか。
異変が起きたのはその時だ。
いきなり何かが足に絡みついた。かと思ったら、一気に天地がひっくり返り、俺の体は宙に吊り上げられる。
「え? おい、なんだ!!?」
慌ててもがき、何が起きたか確認する。見れば俺の足に、緑色の綱のようなものが絡みついていた。
なんだ、こりゃ?
まったく何が起きたかも分からなくて更にもがく。すると、俺の体が逆さづりのまま、引っ張られる。
そして、俺の目の前に巨大な植物、の形をした何かが現れた。
それは食虫植物のような形状の何かだ。それは恐ろしく巨大で、全長で言ったら優に三メートルはありそうだ。その上、虫を取り込む為の口のような部分には獰猛な獣のような強靭な顎と鋭利な牙が見え、根っこの辺りからは巨大な二本の触手が伸びている。確か、有名ファンタジーRPGのゲームとかに出てくる臭い息を吐いてくる奴がこんな感じの見た目だった気がする。
明らかに地球上にはいない、いる筈の無い化け物だ。
「な、なんだ、コイツ!!?」
突然の事態で、まったくわけが分からないが、どうやら俺はこの化け物に捕食されかけてるらしい。
そして、コイツが登場した事でここが地球じゃない事は確定だ。
ただ、今はそんな事言ってる場合じゃないのだが。
異世界来た瞬間、これかよ!!
状況の確認すらままならないまま、いきなり化け物に襲われるとか、どんだけついてないんだよ!!
何でこんなところに放り出した、あのアホ創造主!!! お陰でいきなり絶体絶命じゃねぇか!!
そんな事を考えていると、化け物はその巨大な顎を大きく開く。同時に俺の体がその口の方へと運ばれていく。
や、やばい! マジでヤバイ!
「おい、ふざけんな! 止せ! 俺は美味しくない! 碌なもの食べてないし、全然食べるところの無い、骨と皮しか無いぞ~~!!」
何とかその状況を抜け出そうと、じたばた暴れながら、足に絡んだツタを引きはがそうと試みる。
が、ツタはビクともせず、長いツタは化け物の口元へとどんどん近づき、ついに口の目の前まで運ばれた。
「くそ! やめろ!! やめろぉぉぉ~~~~~~~!!!!」
それでも何とか逃げ出そうと空中で手足をバタつかせる。が、俺の体はもう化け物の口の中にほぼ呑み込まれつつある。同時に体の真上に、鋭利な牙が俺の体に振り下ろされていく。
ああ、死んだ。
せっかくよみがえったのに、また、あっけなく。
こんなに、早く死んでしまうのか。
こんなに早く……こんなに、早く……早く死ぬ?
『早く死んじゃえよ~~~~~~!!!!』
瞬間、俺の脳裏をとある記憶が駆け抜けていった。
小中高とずっと虐められた過去。家が貧乏で汚れた古着と薄汚れたお古のランドセルで登校したせいで、貧乏な家の人間だと周囲に囃し立てられた。
それから、俺の事を皆が侮蔑するようになり、臭いだの、汚いだのと言われ、近づくなと言われ、隣同士でも机を離され……。
それにどう対応すればいいか分からなくて、俺が怒っても教師は俺が悪い事にしたりして、その内諦めてそういう扱いにも必死で耐えて頑張って、でもこちらが何も言わなかったらいつの間にか俺には何をしてもいいと、クラス全員から無視され、筆箱や教科書、上履きを隠されたり、石を投げつけられ……。
貧乏人は学校に来るな、早く死ねなどと好き勝手言われ、それから、それから……。
「ッ! ふざけんな!!!!」
その記憶を振り払うように、俺は言葉を発していた。
「どいつも、こいつも、こっちが我慢してやってりゃ、いい気になりやがって!!!! 俺が何をした? てめぇらに何をしたってんだ!!!」
徐々に声のボリュームが上がる。同時に、俺の中で激しい怒りが爆発した。
「誰が死んでやるか!!! 死んでたまるか~~~~~~~!!!!!!」
腹の底からの叫び。瞬間、俺の体から何かが拡散した。同時に足に絡んでいたツタの拘束が外れる。
自由になった体が無意識に体制を立て直し、地面へと着地する。
見れば、さっきまでそこにいた筈の化け物は、あの巨大な顎を持つ頭がキレイさっぱりなくなった足だけの状態でそこにいた。そして、頭を失ったせいで、足は徐々に茶色へと変色し、そのまま朽ち果てていく。
「え? はい?」
突然の事に状況を飲み込めず、困惑する。さっきまで、俺は逆さづりで化け物に食われかけていた筈。
それが急に拘束が解けて、化け物は頭ごと全部吹っ飛んでいた。
「……今、何が起きた?」
到着早々異世界かも分からず、そしたら突如化け物に襲われて、次はその化け物がわけも分からず吹っ飛んでいたのだ。あまりに展開が早すぎて、意味不明なのだが。分かったのはここが異世界だって事ぐらいだし、もうマジでいい加減にしてほしいのだが……。
と、困惑していたら、突然地面が激しく揺れだした。地震?と思い、何とか踏ん張って転倒を免れる。
しかし、そんな俺を囲い込むように、突然周囲の地面が盛り上がり、中からさっきの化け物と同じ奴らが何十体も姿を現した。その数、山肌を完全に埋め尽くさんばかりの大群だ。
「おい! またかよ! しかも今度は大量に湧いてきただと!!?」
異世界到着早々化け物に食われそうになって、わけ分からないまま撃退したかと思ったら、今度は大軍登場という超展開。
そのあまりの展開の速度にまるで認識が追い付かない。いくらなんでもトラブルが供給過剰過ぎやしないか?
が、そんな俺の考えなど無関係に、化け物達が俺の存在に気付き、一斉にこちらへとその巨大な体を向け、囲みを狭めようと前進を開始した。
明らかに絶体絶命。それも先ほど襲われた時よりも更にヤバイ状況だ。
「なんなんだよ、ほんとに! ふざけんじゃねぇ~~よ!」
その理不尽な状況に、俺は瞬間湯沸かし器の如く怒りを爆発させた。
瞬間、全身から黒い光のようなものが立ち上がり、全身をくまなく覆いつくした。
「えッ!!?」
またしても突然の事態に、俺は困惑した。またしてもわけが分からない事態だ。しかも、今度は外的要因じゃなくて内的要因、つまり自分に訪れた謎の変化。
本当に意味不明だ。
「なんだ、コレ? 俺、いきなりどうしちゃったの?」
と、俺が困惑している隙に、俺にゆっくり迫っていた化け物花の一体から触手が放たれた。それは矢のように迅速に、俺の体を狙ってくる。
「うぉ!!」
隙をつかれた俺はよける事も出来ず、反射的に顔を腕で庇った。
それは咄嗟の事で、どう考えてもただの気休めでしかない行為……の筈だった。
普通に考えたら、触手の一撃は俺の体をぶつかった腕ごと吹き飛ばしていただろう。だが、触手が腕に、いや腕から発しているオーラに触れた瞬間、根本から一瞬で消滅したのだ。
「はッ?」
その光景に、俺は思わず間抜けな声を上げる。またまた意味不明な事態。
――ッ、ギャァァァァァァァァ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!
それは化け物も同様だったか、触手が消えうせた瞬間は何も気付かぬ風だったが、一瞬の後、その巨大な顎を大きく開け、苦しんだように絶叫した。
けたたましい化け物の悲鳴。その不快な音に耳を塞ぎつつ、何が起きたのかを俺は考える。
激しい怒りが爆発した瞬間に噴き出した謎の黒い光。それに触れた化け物の触手は一瞬にして消し飛んだ。
そして、つい先ほど、化け物に食われかけた時も、激しい怒りが爆発して気付いたら化け物は跡形もなく消し飛んでいた。
その答えは一つしかない。
「まさか、さっきのも今のも、いきなり出てきたこの光のおかげなのか?」
俺がそこに思い至ると同時に、周囲を囲んでいた化け物から次々と触手が伸びてきた。四方八方から延ばされたその攻撃を、俺はよける術はない。
しかし……。
光に触れた触手は先ほど同様、すべて光に触れた先端から消滅、化け物達は悲鳴の大合唱を轟かす。
それを人事のように眺めていた俺は、自分の手足から絶えず迸る謎の光に目を向ける。
その力は、何の理由か分からないが、今俺の全身から溢れ出ている。
なら、今やるべきは一つ。
「よっしゃ!!! まずはこの化け物どもを片付ける! 考えるのはそれからだ~!!!」
景気づけに思い切り叫び、俺は触手を失って苦しむ化け物の一体めがけて突進する。
「おらぁぁぁ~~!!」
そして、光を纏ったまま拳を叩きつけた。
途端、拳の先端から溜まっていた光が化け物の全身を包み込むように放出され、その光の中で化け物は跡形もなく消滅した。
「まずは一体!」
化け物を簡単に倒せた事に喝采を上げ、すぐに隣の化け物へと飛び掛かる。
「おらおら、まだまだ行くぞ!! 覚悟しやがれぇ~!!」
そのまま、駆けまわって、一体、二体と殴っては消滅させ、消滅させては次の化け物に向う事を繰り返した。
「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁぁぁ~~~~!!!!」
更に何体もの化け物を消し飛ばした辺りで、調子が出てきて、俺はためらいもなく突然発生した謎能力を駆使して化け物達をかたっぱしから弾き飛ばしてやった。
そして、化け物は瞬く間に残り一体となった。
「これで、ラストだぁぁぁ~~~~~~~!!!」
俺は全力で跳躍し、成す術もなく動けない化け物相手に全力の拳を叩きつける。
そして、最後の一体も黒い光に包まれ、跡形もなく消滅した。
「はぁ……はぁ……」
そうして、俺はようやく立ち止まり、荒くなった息をどうにか整えようと努める。
やった。
よく分からないけど、何とか生き延びた。
心の中で安堵すると、急にどっと疲れが襲ってきて、その場に座り込む。
当面の危機は去ったものの、また化け物が出てくる可能性もあったが、今はまだ動く気にはなれない。
とりあえず、少し休んでからどうするか考えよう。
そう思い、俺は生い茂る芝生に倒れこんだ。
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