この世を恨んで焼身自殺した俺が転生、ダークフォースで八つ当たり無双!

最果ての気球

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何とか難を逃れた俺は、現状を確認する

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 それから暫く、息がようやく整ってきたので、俺は一先ずこの場を離れる事にした。
 まだ疲れてはいるものの、さっきも考えた通り、また化け物が湧いて出てくる可能性もあるし、一つの場所に留まるのは危険かもしれないから。
 とりあえず丘を下り、その先の広大な森の中へと入っていく。

 そこは、遠目に見た印象と何も変わらず、生えている木々の種類もどこかしらで見た事のあるようなものにしか見えない。ここが異世界なのは確定として、何故地球上とまったく同じ植生なのかはちょっとツッコミ入れたい気がした。
「まぁ、異世界モノのラノベとかだと、オリジナルの世界観考えるよりも、ファンタジーRPGっぽい世界観の方が受けがいいからこうなるみたいだけど。現実でもあまり変わらないのかもな。まぁ、異世界に来る経験なんて普通無いから確かめようもないけど」

 周囲に広がる森を眺めながら、そんな感想が自然と口をついた。
 現状、別の世界にやってきた感は、やっぱりあまりなかった。こうして立派な木々に囲まれ静寂に包まれていると、普通にただ森林浴に来ているような気分に陥る。まぁ、いきなりさっきみたいに地獄みたいな状況に陥る可能性もあるのだけど。あの黒い光の能力が使えるらしい事が分かったから、幾分か気も楽だけど。

 まぁ、とりあえずこうして豊かな自然の中で過ごしてるお陰で、やっと落ち着けた。突然の事の連続で、冷静に何か考える余裕なんて全くなかったさっきまでとは違い、ようやく色々思考にふける余裕もできた。
「とりあえず、ここがどういう世界なのかを知るのが先決だよな。その為に、意思疎通が出来る人がいる場所を探したいところだけど。こんな何も無さそうな山の中じゃどっち行けばいいかも分からないしな。誰かに会うまで適当に歩いてみるしかないか」

 現状を口に出し、疲れた体を動かしてそのまま歩いていく。
 とは言え、何のあても手掛かりもなくずっと歩くのも気が滅入ってくるな。何か現状を打破する方法はないか。
「異世界……異世界で俺が分かる事って言うと、異世界モノのラノベだけだけど。そうか。ああいうジャンルで使われてる何かを実行してみるってのも一つありかもしれないな」

 そう思い、歩きながら記憶をたどってみる。
 異世界モノと一言言っても、内容は多岐にわたる。古くは、古代中国とか欧州に召喚されたただの人が頑張ってそこで起こる事件とかを解決していくみたいなモノから、昨今流行りのゲーム世界っぽいモノまで色々ある。

 その中でも古いモノだと、大体はこの世界の中にいる誰かに召喚され、何かしらの役目を果たすってのがセオリ―で、人のいる場所とか召喚者が近くにいて説明してくれたりだった。
 逆にゲームモノだと、俺みたいに突然放り出されて、不思議超パワー、いわゆるチート能力を獲得して、そこからすぐ人にあって色々教えてもらったりってのが一般的か。

 現状を照らし合わせるに、ゲームっぽい世界観のラノベを参考にするのが良さげかと考え、現時点で使えそうなことがないか考える。
 ガイドっぽい人はいない。見渡す限り、無人の森が延々続いてるだけで、人の気配もまったく感じない。だから、誰かに聞くって選択肢はない。

 ほかに使えるネタはないかと色々考えてみる。チート能力に気付く過程は様々。俺みたいに使い方も分からず突然目覚めるパターンもあれば、神様から事前に教えてもらっているパターンもあったし、他にも色々。
 ゲームっぽい異世界ラノベ。ゲームっぽい。

「あ、ステータスか」
 ポンと手を鳴らし、俺は一つ思いつく。昨今の異世界ラノベでは、ステータスと呼ばれるゲームのキャラクターみたいな数値で見る事が出来た筈。実際ゲームでやる時は特定のボタンを押すわけだが、こういう場合は確か。
「ステータスオープンとかだっけ?」
 そう口にしてみる。しかし、特に何も起こらなかった。
 なるほど。これはどうやら違うようだ。なら……。
「メニューオープン。プロパティーオープン……他は、なんだったっけ?」

 それから色々と思いつく限りのコマンドを口にしてみる。しかし、結局何も起こらなかった。確か、ゲームっぽい仕様の話だとここで何もない空中にゲームのメニューコマンド窓みたいなのが浮かび上がる筈だが。
「う~ん。コイツはどうやら違うらしい。他にコマンドがあるのかもしれないけど、もう思いつかないしな」

 とりあえず、これは試すのは辞めて他を考える。
 他、何かあるあるはあるかな。異世界と言えば、チート能力。
「さっきの黒い光は、そのチートって事でいいんだよな。どういう力かとか、使い方とか全然分からないけど」

 呟き、さっきまで黒く光っていた手足を眺める。今は黒い光は消えてしまっているが、何かあったらあの能力を使えないと切り抜けられそうもない。
 どうやったら、あの力は発動するんだ?
 そう考えて、さっきの状況を思い出してみる。
「さっきは……確か。食われそうになった時は、なんか寸前で昔の嫌な事思い出して、それで無性に頭に来て……化け物が地面から湧いてきた時は、確か立て続けに起こった理不尽に頭に来て……そっか。怒りか」

 能力発動のきっかけに思い至り、俺はある事を思い出す。
「そういえば、ここに飛ばされる寸前に神が言ってたな。怒りとか恨みが力に変わるって。それがあの能力って事でいいのかな。だとしたら、怒りが爆発するとあの能力が発動するって事なのかな」
 何となく結論を出し、試しに頭にくる事を思い浮かべようと記憶をたどる。

 しかし、そこで能力発動したは良いが、それを収める手段が分からない事に気付く。
 さっきは化け物相手に能力を思うまま叩きつけ、全部を倒しきったところで光は消失した。
 もしかしたら、能力が発動してから一定量消耗する事で能力が切れるのかもしれない。
 とすると、ここで力を発動させた場合、発散させる方法が無かったら光は出っぱなしになるんじゃないか?

 実際の威力がどの程度なのかは分からないが、軽く殴っただけで化け物は塵になって消えてしまった。
 一度発動させてしまい、発散する手段がない場合、いろんなものが無駄に壊れる可能性が高いのでは?
「とりあえず、何かトラブルが起きてから試してみるか。怒りが発動のキーって事は間違いなさそうだし」
 思い直し、俺は現状使えそうな異世界ラノベからの知識を更に考える。
 異世界と言ったら、ステータスが見えたりする世界がある事と、チート能力。それ以外は……。

「あ、ハーレムか」
 ハーレムとは中東などの王侯貴族が気に入った女性を複数囲う為の高級の事が由来で、異世界転生ラノベで言うところの旅の仲間が主人公に好意を寄せる美少女や美女だらけの状況を指す言葉だ。
 ハーレムとかハーレム状態みたいに言うわけだが、それの成り立ちは大体困っている美少女を助けた事をきっかけに一緒に旅をして、その過程で好きにさせる、みたいなモノが大半。

 では、この状況でそれが何に関係するかと言えば、要するにあの手の作品の主人公は歩いていると美少女がらみのトラブルにやたらと遭遇するという事だ。
 美少女と遭遇、それ即ち、今の俺からしたら、この世界について知っている人と知り合う事が出来るって事だ。

 要するに、そういうトラブルに出くわす事が出来たら、何も分からない状況が好転する可能性が高い。今の俺にはあの妙ちきりんな黒い光が操れる。任意で急に怒るのは普通なら難しい気もするが、俺の記憶には腹の立つ事なんて幾らでも眠ってる。それを思い出して怒りに火をつけられれば、能力を発揮する事は難しくない。
 そう思い、とりあえず耳を澄ましてみる。何処かから悲鳴が聞こえてこないか。

 ………
 ……
 …
 何も聞こえなかった。悲鳴は愚か、鳥の鳴き声とか虫の羽音とか、そういうものもまったくない。
「はぁ~。まぁ、ああいう創作は展開を都合よく作る為にイベント設置してるようなものだからね。そんな都合よく誰かが助けを求めるみたいな事、現実にはないな」

 肩を落とす俺。そもそも別にハーレム求めて異世界転生したわけでもない。まぁ、創作主人公たちも最初からそういう事を狙って転生してるってわけじゃないとは思うけど。
「やれやれ。やっぱ創作と現実は違うよな。手がかりは地道に探すしかないな」

 まぁ、自分がいる場所がその手の事が出来ない、起こらない世界だってわかっただけで収穫はあったかな。
 気を取り直し、再び歩き出す。すると、俺の耳に微かな音が聞こえてきた。

 これは、川の流れ?
 そう思い、俺は走り出す。それからしばし、すぐに緩やかに流れる小川に直面する。
 更に歩み寄ると、澄んだ水の流れが涼しげな空気を運んでくる。川の水は少し離れたところから見ても透き通っており、川底すら綺麗に見通せる程だ。

 その水を見ていると、急速に喉の渇きを覚える。
「そういや、昨日から飲まず、食わずだったっけ」
 一度死んで転生しているからそのままなのかは分からないが、ひとまず水を飲んでおこうかと川に近づく。そして、顔を川面の上に持っていく。
 すると、突然澄んだ水面に見覚えのない顔が浮かび上がった。

「え!?」
 思わず目を見開き、それから強く目を擦ってから再度水面を見つめる。
 そこには確かに見覚えのない顔が再び浮かんだ。首を傾げ、何が起きたか考えると、心当たりが浮かんできた。
「この顔……よく見ると、確実に俺だな。こんな目つきの悪い奴、他にいないし。でも、なんか昔の自分を見ているような。髪もふさふさだし、やけに肌もつやつやしてる気がするし。もしかして俺、若返ってる?」

 試しに眉間に皺を寄せてみたら、間違いなく見慣れた俺の顔が現れて、確信した。
 なぜそんな事が起きてるのか分からないのだが、間違いなく若い頃の俺だ。たぶん、高校生ぐらいか。
「なんでかわからねぇが、何故か若返ったらしい。まぁ、蘇るとか普通じゃないし、これぐらいは当たり前なのか」

 もう今更何が起きても多少の事なら受け入れられてしまうようになった。まぁ、あんなおっさんの体のまま放り出されても困るし、これはこれで便利そうだ。
 などと考えて、不意に自分の精神もやけに安定している事に気付いた。精神を病み、うつ病まで発症して、感情が消えるとかいう中々イカれた状況にまで至って、生きているのもキツイってずっと思ってたというのに、今は何ともなくなっている。

 死ぬまでずっとどこかイライラして落ち着かない状態で、死ぬ寸前なんて恨み満載だった筈なのに。
 何故か考えて、鬱病というのは脳が機能不全に陥った結果、きわめて多岐に渡る病気だと医者から聞いた事を思い出した。脳の機能不全なので、俺みたいに感情が消えたりする事もあるし、動けなくなったり、食べ物を受け付けなくなって起き上がれなくなったりもするらしい。一言で鬱病と言ってもその範囲は風邪のようなものから、癌レベルのヤバイものまで幾らでもあるらしい。

 それはともかく、脳の機能が不全になるのは、脳を無理して酷使した結果だそうだ。無理して頑張り過ぎた結果、病気が発症した俺のような人間は無理に脳を働かせて動き続けたからなった。
 しかし、今の俺の体は真新しいモノなのだろう。一度完全に肉体から魂だけになった以上、今宿っている体は生前に使っていた肉体ではないというのは分かる。

 その真新しい肉体は、俺が宿るまでは脳も何も使っていない状態だから、機能不全に陥っていないのだろう。
 だったら、生前の腹の立つ記憶の数々は何処に保存されているのかは分からないのだが、ともかくこの体に移った事で俺の精神疾患は綺麗に消え去ったようだ。

「異世界に来た事で病気が治るとはな。思わぬ効能かもな」
 その意外な事実に苦笑しつつ、小川に手を入れて水を汲み一気に飲み干す。
 川の水は良い具合に冷たく、とてもうまかった。まぁ、今になって冷静に考えみたらが、この水で当たる可能性もあったからもっと慎重にすべきだったかもしれないが。

「ふぅ~。生き返るぜ」
 口を袖で拭い、俺はさて次は何処にいけばいいかと考える。
 すると、不意に見上げた空に、ドス黒い煙がもくもく立ち上っているのが見えた。
「あの煙……どう考えても、かまどの火とかじゃないよな。あの黒さは……」

 自分が死ぬ寸前に吸い込んだドス黒い煙。どう考えても、あれはよくない煙だ。
 どうやら、すぐ近くでトラブルは発生してないけど、何もないってわけでもなさそうだ。
 何となく放置するのも座りが悪いという気分に駆られてくる。昔から、他人がトラブルに巻き込まれているとどうにも放置できない気分になる。
「行ってみるか。さっきみたいな化け物が暴れてるなら、放っておけないしな」
 俺はそのまますぐに煙が上がる方角へと一心不乱に走り出した。
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