初恋

チギラ アキ

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第二章

3:修学旅行

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 秋、行楽シーズンを迎えた――。進学校である桜ヶ丘中学は、二年のこの時期に修学旅行を組み込んでいる。行き先は定番の広島と京都の二泊三日旅。京都では、グループ毎ではあるけれど、半日自由行動も予定されている。

(なんて素晴らしい……)

 だがその大半は、この機会に北野天満宮へ学業成就祈願のお参りに行く。

桜花生おうかせい……、本当に真面目だ。……だけど私の目的は、本場の和スイーツを食べまくることだ!)

「美久ちゃん……? 美久ちゃんっっ!」

「……!」

 目の前に沙弥の訝しげな瞳。

「もぉ~~。今の話、ちゃんと聞いてた―?」

「ごめん、ごめん。何だっけ?」

 広島へ向かう新幹線の中、愛想笑いを浮かべながら美久は駅弁のご飯をつついた。

 お天気にも恵まれた修学旅行一日目の日程は、このまま広島まで移動。そこから平和記念公園に向かい、広島平和記念資料館を見学。

 ここでは、原爆犠牲者の遺品などが展示されていて、美久にとって空想の世界でしかなかった戦争が、実体リアルさを伴って目の前に現れ、無関心でいられた自身を恥じた。

 そのほか公園内には原爆の子の像や原爆ドームなど。そこを散策する頃には日も陰って、夕焼け色に染まるドームの朽ちた壁を眺めながら、美久は今ある生命いのちに感謝した。

 その後は一日の行程を終え、本日のお宿へ――。移動の疲れもあってか、その日は寝転ぶと直ぐに就寝した。

 二日目、宮島観光にて囲われていない鹿と対面する。

(間近で見ると結構でかくて、ちょっと怯むけど、そのつぶらで澄んだ瞳が沙弥ちゃんに似てる……。って言ったら怒るかな?)

 朱塗りの柱が美しい厳島神社は、その廻廊に一歩足を踏み入れると平安雅な世界へと一気にいざなう。参拝して自由に見学後、写真を撮りまくり、お昼はかきめし弁当に舌鼓。

 午後からは新幹線にて次の訪問先の京都へ向かう。この移動はほとんど爆睡タイムだった。お陰でその夜はかなり遅くまで秘密の話に興じたのであった。

(え~~~~っっ!! お、お子ちゃまには、刺激が強すぎるぅ……)

 消灯時間をとっくに過ぎた午前零時。この時間にもなるとさすがにみんな寝静まっている。

 二日目のお宿は京都の純和風旅館で、襖を開け放してできた大部屋をクラスの女子みんなで共有した。全員分布団を敷き詰めたさまは中々壮観だった。そんな中、仲良し三人組は一つの布団に集まって、コソコソ声を潜めて、ギラギラまだ起きていた。その際、梓が一周年記念に岡部とキスをしたとしれっと告白したのだ。

「じゃぁ、私も告白しちゃう!」

(え!? どういう流れ?)

 そう続けたのは沙弥だった。

「実は……、私、一年の時から藤崎君が好きなのっ」

(何で~~!?)

 正確には「どこがいいの~~?」である。

「やっぱり~~!」

 そう言って梓は笑った。

(えっ!? そうなの?)

 一人置いてきぼりの美久。

「で、きっかけは何なの?」

 リポーター宜しく梓が突っ込む。

「……、秘密」

 豆球の柔らかな薄明かりの下では、表情がはっきりと読み取れない。

「ね、美久ちゃんは?」

「え?」

(私?)

「好きな人いないの?」

「…………」

「気になってる人とか……」

「……」

「宮坂は?」

「……!」

 梓の鋭い突っ込みに美久は固まった。

「仲良いじゃん。お似合いだと思うけどなぁ……」

「ダメだよ、アイツは……。バスケバカだし……」

 口を吐いて出たのは否定する言葉だった。

「ふ~~ん。けど、一年の時、橋本さんと噂になってたじゃん。単なるバスケバカって訳でもないんじゃない?」

(食い下がるなぁ―、梓……)

「……、宮坂君のプレーって、神業だと思う時あるよね」

 返答に窮していた美久の代わりに、沙弥が引き継ぐ。

「……あいつなら、スポーツ推薦も夢じゃないかもね……」

 梓もそれとなく話題を変えてゆく。

(夢かぁ……。将来何になりたいとか、全然ないなぁ……、私……)

「ふぅ~~……」

 三人が一斉に息をいた。そして顔を見合わせて笑った。オレンジ色の豆球の下、川の字に寝転びながら、それぞれ楽しい夢を描いて眠った――。

 そして最終日、京都でのフリータイム。メンバーは沙弥に梓、これは当然。そして岡部、これは必然。あとバスケ部の瀬名朋規とものりに、沙弥が誘った藤崎の計六人。

 この少しちぐはぐなメンバーで、しかし、女子の結束力の強さと梓が岡部を引き入れて、そして以外に残る二人の自己主張が余りなかった為、清水寺から八坂神社、そして祇園の方まで散策するコースに決まっていた。

(えっと、清水寺へは、バスで行くんだったよね……)

 方向音痴の美久は取り敢えずみんなからはぐれないようにだけ注意した。

「バスが出るまで、まだ時間あるから、俺、飲物買ってくる」

 藤崎が時計を見ながらおもむろに発言する。

「あっ、じゃぁ俺の分も……」

 遠慮なく甘える岡部を皮切りに、「俺も」「私も」と次々に声を挙げるメンバー。

「……、分かった。みんな、お茶でいいな?」

 お得意の有無を言わせぬ口調で返す。

「……、私も一緒に行くっ」

 そう言って立候補したのは沙弥だった。

「……、ありがとう」

 礼を述べた藤崎の口元には、あるかなしかの微笑みを湛えていた。

 並んで歩く2人の背中を見送りながら、残る女子二人は顔を見合わせ、にんまりほくそ笑んだ……。





(やばっ。みんな、もう戻っちゃったのか……?)

 同じバスではあるけれど、違うグループの女子についてトイレに来たのはいいけれど、美久はどうやら彼女たちを見失ってしまったようだ。

(参ったな……。どっちから来たんだっけ……?)

 その場でキョロキョロ辺りを見回す美久。その時。

(あっ!! 藤崎だ! 助かった~~)

 見知らぬ土地に一人ぼっちで、見知った顔を見つけた喜び。例えそれが自分の苦手な相手だとしても安堵感は半端なかった。

(藤崎~~っ!!)

 美久は「逃がしてなるものか」と藤崎目掛けて猪突猛進。

「良かった~~。藤崎を見掛けて……。あれっ!? 沙弥ちゃんは?」

 ほっと気を許したのも束の間、藤崎の表情に美久は凍り付いた。

(あれっ!? 何で? 私、何か悪いことしたっけ?)

 安心して緩んだ頬が引き攣った。

「……」

 藤崎は観念したかのように、ふうと一息き、「まさか高梨に見つかるとはな……」と自嘲気味に口元を歪ませた。

「え(ぇ――っ!!)」

 途中で藤崎に口を塞がれた。美久は抗議するためその手を引き剝がす。

「集合時間には、必ず戻るから」

(そういう問題?)

「みんなにそう伝えておいてくれ」

 美久に一方的に言付けると藤崎は背を向けた。

 ブチッ!

(なんて勝手なヤツなんだ!)

「待ったっっ!! 行くならちゃんとみんなに事情を説明してからにしてっ!(私をバス乗り場まで連れて行ってよ!)そうしないなら、このまま私も一緒に行くからね!」

(あれ? 私、今何か余計なことを言ってしまったような……)

「なら、俺も一緒に行ってやる」

「……っ!?」

 聞き覚えのあるその声に、美久の心臓はギュッと掴まれたように縮み上がった。振り返るとやはり宮坂だ。

「宮坂? 何でここに?」

「何でって、俺らのグループは、電車で嵐山に行く予定だから……」

 見回すと三人が立っている場所は、電車乗り場への連絡口にほど近かった。宮坂はおもむろに携帯電話を取り出すと一方的に話を進め始めた。

あつし、急な話で悪いが、俺は嵐山に行けなくなった。おそらくずっと別行動を取ると思うから、集合場所に直接向かうよ。詳しい事情は、会ってから説明する。だから、今は気にせず、楽しんでこい!」

 明らかにまだ話は終わってなさそうだった。向こうは――。されど宮坂は容赦なく電話を切り電源を落とした。

(ヤツは絶対この状況を楽しんでいる!)

 宮坂の様子から美久はそう確信した。

「そっちも一言連絡しとけよ。取り敢えず奴らが動けるように……」

「……。分かってる……」

 全部は納得していない表情かおで藤崎は岡部に連絡を入れた。

(やばっ! 私も電源切っておこう。沙弥ちゃん、ごめんっっ)

「……で、どこに向かうんだ?」

 改めて宮坂が尋ねる。藤崎は大分溜めて呟いた。

「…………、神戸」

「神戸っ!?」

 二人の声は見事にハモった。
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