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第三章
2:花火大会
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受験生にとっては天王山の夏。けれど美久にとってはバスケ部引退の夏だった。
最後の夏は地区大会三位という、女子としては最高の成績で幕を閉じた。男子は全国大会出場を果たしベスト・エイトまで残った。これは偏にゲーム・メーカーとしての宮坂のセンスの奥深さとそれを信じたチームメイトとの結束力による。
(こうやって、花火を楽しんでいるヤツからは、想像もつかないんだが……)
ロケット花火で陣取りゲームを始めた男子たちを眺めながら、美久はやっぱり呆れていた。
夏休み最後の夜、三年の部員のみで打ち上げを兼ねた花火大会が蓮池公園で行われた。これも伝統の一つで、女子は浴衣着用が必須らしい……。ロケット花火に夢中の男子をしり目に、女子は自由に手持ち花火を楽しんだ。浴衣姿の女子部員たちが花火をするさまは、いかにも日本の夏といった感じで艶やかだった。
「梓はもう志望校決めた?」
紺地に明るい新緑の柄が映える浴衣を着て、初めて髪をアップに結い上げた美久は、色鮮やかに飛び散る花火を眺めながら隣の梓に問い掛けた。
「まさか。……多分、学区内の公立高校から選ぶと思うけど……」
「そう……」
「……。何、話したいのは、沙弥のこと?」
美久の気のない素振りに梓は苛立ち紛れに核心を突く。白地に黒のトンボ柄が、大人っぽい梓をシックに引き立てていた。一見地味に見えるその浴衣はトンボの胸部が朱に塗られていて、それがアクセントになっている。
「知ってたの?」
「……。沙弥から聞いたよ。美久が聞いた後だけど……」
美久の食いつきに梓は少し白けた様子で答えた。
「梓は……ショックじゃない……?」
「……。そりゃぁ寂しいけど、仕方ないじゃん。家の事情だし……」
「……、強いね。梓は……」
「……、どうした、どうした~? 火を見ておセンチになっちゃったか~?」
美久の背中に手を当てて覗き込むようにして茶化すと梓は黙ってその手を肩に回した。
「遠く離れても、沙弥は友達に変わりないじゃん」
梓のその言葉は固まっていた美久の心にじんわり染み渡っていった――。
ロケット花火も尽き男子も混ざって、次にネズミ花火や打ち上げ花火を始めた。噴出花火はまるでキャンプファイヤーのようで、皆しみじみ思い思いに眺めた。そして最後の締め括りは線香花火長持ちレースの開催である。四・五人のグループ毎に丸くなってしゃがみこみ、誰が一番線香花火の火の玉を落とさずに保ち続けられるかを競う、非常に地味なゲームだ。
「俺も混ぜて」
そう言って美久の隣の隙間に宮坂が割り込んできた。
(ヤバイ……。腕が触れてるんですけど……? 心臓の鼓動が、半端ないんですけど……。つ、伝わらないよね……?)
ドキドキドキドキ。小さく丸く息を殺した接近戦に美久の心の動揺は如実に伝わり、哀れ、美久の線香花火はあえなく早々に落ちた。耐え切れなくなった美久は勢い良く腰を上げた。
「あっ!!」
立ち上がった勢いで美久の両隣が巻き添えを食う。
「おい~~」
「美久~~」
宮坂と梓から抗議の声が上がる。
「ご、ごめん……」
二人に謝りながら、美久はこの時ばかりは夜の闇に感謝した。なぜなら美久の頬は真っ赤に染まっていたのだから……。
「宮坂は、スポーツ推薦で、県外の全寮制私立高校を志望しているみたいだよ」
ふと、宮坂と同じクラスになった梓からさっき教わったことを思い出し、一気に熱が引いた。
(一人で浮かれちゃって……、バカみたい、私……)
最後の夏は地区大会三位という、女子としては最高の成績で幕を閉じた。男子は全国大会出場を果たしベスト・エイトまで残った。これは偏にゲーム・メーカーとしての宮坂のセンスの奥深さとそれを信じたチームメイトとの結束力による。
(こうやって、花火を楽しんでいるヤツからは、想像もつかないんだが……)
ロケット花火で陣取りゲームを始めた男子たちを眺めながら、美久はやっぱり呆れていた。
夏休み最後の夜、三年の部員のみで打ち上げを兼ねた花火大会が蓮池公園で行われた。これも伝統の一つで、女子は浴衣着用が必須らしい……。ロケット花火に夢中の男子をしり目に、女子は自由に手持ち花火を楽しんだ。浴衣姿の女子部員たちが花火をするさまは、いかにも日本の夏といった感じで艶やかだった。
「梓はもう志望校決めた?」
紺地に明るい新緑の柄が映える浴衣を着て、初めて髪をアップに結い上げた美久は、色鮮やかに飛び散る花火を眺めながら隣の梓に問い掛けた。
「まさか。……多分、学区内の公立高校から選ぶと思うけど……」
「そう……」
「……。何、話したいのは、沙弥のこと?」
美久の気のない素振りに梓は苛立ち紛れに核心を突く。白地に黒のトンボ柄が、大人っぽい梓をシックに引き立てていた。一見地味に見えるその浴衣はトンボの胸部が朱に塗られていて、それがアクセントになっている。
「知ってたの?」
「……。沙弥から聞いたよ。美久が聞いた後だけど……」
美久の食いつきに梓は少し白けた様子で答えた。
「梓は……ショックじゃない……?」
「……。そりゃぁ寂しいけど、仕方ないじゃん。家の事情だし……」
「……、強いね。梓は……」
「……、どうした、どうした~? 火を見ておセンチになっちゃったか~?」
美久の背中に手を当てて覗き込むようにして茶化すと梓は黙ってその手を肩に回した。
「遠く離れても、沙弥は友達に変わりないじゃん」
梓のその言葉は固まっていた美久の心にじんわり染み渡っていった――。
ロケット花火も尽き男子も混ざって、次にネズミ花火や打ち上げ花火を始めた。噴出花火はまるでキャンプファイヤーのようで、皆しみじみ思い思いに眺めた。そして最後の締め括りは線香花火長持ちレースの開催である。四・五人のグループ毎に丸くなってしゃがみこみ、誰が一番線香花火の火の玉を落とさずに保ち続けられるかを競う、非常に地味なゲームだ。
「俺も混ぜて」
そう言って美久の隣の隙間に宮坂が割り込んできた。
(ヤバイ……。腕が触れてるんですけど……? 心臓の鼓動が、半端ないんですけど……。つ、伝わらないよね……?)
ドキドキドキドキ。小さく丸く息を殺した接近戦に美久の心の動揺は如実に伝わり、哀れ、美久の線香花火はあえなく早々に落ちた。耐え切れなくなった美久は勢い良く腰を上げた。
「あっ!!」
立ち上がった勢いで美久の両隣が巻き添えを食う。
「おい~~」
「美久~~」
宮坂と梓から抗議の声が上がる。
「ご、ごめん……」
二人に謝りながら、美久はこの時ばかりは夜の闇に感謝した。なぜなら美久の頬は真っ赤に染まっていたのだから……。
「宮坂は、スポーツ推薦で、県外の全寮制私立高校を志望しているみたいだよ」
ふと、宮坂と同じクラスになった梓からさっき教わったことを思い出し、一気に熱が引いた。
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