家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎

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10-3 姉の妹③

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 満足のいく買い物を終え、上機嫌に店を出るクレハ。荷物持ちの神太郎もお礼にとあの月給の半分もする帽子

を買ってもらい、これまた上機嫌である。

「神太郎さんのお陰でいい買い物が出来ました。きっとお義姉さまにも喜んで頂けます。そうだ、甘い物でも食

べていきませんか?」

「いいね。ビーザック通りの店はさぞや美味そうだ」

 そのクレハの提案に、彼は大賛成。早く行こうと店前に停めていた馬車に品を詰め込み始めた。

 と、その時だった。

「クレハ!?」

 どこからか聞こえてきた彼女を呼ぶ男の声。その元を探してみれば、それは別の店に入ろうとしていた貴族風

の男だった。

「ケードル・マーベッツ侯爵公子……」

 クレハも彼を見知っているようで、嫌そうに眉間にシワを寄せてしまっている。その彼が取り巻きを引き連れ

て寄ってきた。

 随分ふくよかな体型で、歳も神太郎らより少し上くらいか。仲間も五人いたが彼らも貴族のようで、ケードル

の従者というより友人のような立場に感じられた。

「これは一体どういうことだ、クレハ。何故、男と一緒にいる?」

 いきなり現れ、いきなり文句を言う謎の男ケードル。片や、クレハも強硬な態度で接する。

「貴方には関係ないでしょう」

「俺の求婚を拒んでおいてそんな男を選ぶなど、馬鹿にしている。男に興味ないなど言っておいてそれか。本性

を現したな」

「彼は私の義姉の弟です。特別な仲ではありません。そもそも貴方には関係ないことでしょう。それでは私たち

は用事があるので、ごめん遊ばせ」

 そして、彼女はその場を去ろうとした。しかし、不躾ぶしつけなケードルがそれを許すわけがない。「お

い、待て」と、その肩に掴み掛かろうとした。……が、

「やめな。レディーが嫌がっているじゃないか」

 それを防いだのは、間に入った神太郎。二人の会話からその関係も理解出来た。フラれた男とフった女だ。

「何だテメェは。そもそも誰なんだよ?」

「三好神太郎、十七歳。独身。趣味は野球拳。好きな食べ物は味噌おでん」

「ミヨシぃ? フン、勇者のところの奴か。失せろ! お前みたいな別世界人野郎にクレハは相応しくないんだよ

!」

「俺は世界一のナイスガイだ。クレハが俺と一緒にいるのは、蝶が花に引き寄せられるのと同じく自然の摂理な

んだ。諦めろ」

「ふざけんな!」

 すると、ケードルが突然殴り掛かってきた。

「ぼ、暴力はいけない」

 神太郎もいきなり暴力に訴えてくるとは思わず。拳をかわして彼をそうなだめたが、その耳には

届いていないよう。

「おい、お前らやっちまえ!」

 遂には、五人の取り巻きも含め総掛かりで襲ってきた。

 迫る無数の拳。神太郎はそれぞれの拳を丁寧に避けていくと、それぞれの鼻に丁寧に掌底しょうていを当

てていった。顔面を、それも鼻を殴られれば、大抵の人間は怯んでしまう。六人は皆、後退りをさせられ、ケー

ドルに至っては尻餅を着かされた。

「くっ!」

「もう止めておけ。怪我をするぞ」

「ふざけんな。俺がこんなことで怯むと思っていたら大間違いだぞ」

 しかし、彼らは諦めず。実力差を見せ付けても全く戦意が衰えないのは見事だった。

 だが……、

「ぐあっ!」

 結果は変わらず。彼らも今度は鼻血を噴き出させられた。

「もう止めておけ。大怪我するぞ」

 神太郎、三度目の勧告。流石に取り巻きたちは引き下がったが、それでもケードルの考えは変わらなかった。

立ち上がり、鼻血を垂らしながらまた拳を構える。

「まーだやるのか?」

 これには神太郎も呆れてしまった。ただ、ケードルの方も勝ち目がないのは分かっている。それでも彼を立ち

向かわせてしまうのは、そのプライドのせいだ。

「うるさい。俺はマーベッツ侯爵家の公子だぞ。古くから王国軍人を輩出してきた名家の出だ。お前なんぞ余所

者なんかに屈しはしない!」

「引き際を見極めることも大切だぞ」

「うおおおおおお!」

 いや、『プライドのせい』は間違った言い方だ。正しくは『プライドのお陰』だろう。彼の言う通り、その相

手に屈しない精神は褒めるべきだ。神太郎はそう考え直すと、再び攻めてきたケードルを真摯しんしに迎え

撃つ。

 そして丁寧に打ち返し、地面に大の字に寝転ばせた。

 力尽たケードルとそれを介抱する取り巻きたち。結局、ここまでしないと止めることが出来なかった。その精

神力には神太郎もこう賞賛を送らざるを得ない。

「見た目に反して、いいガッツだぜ」



 その後、場所を移した神太郎たち。彼は洋菓子店でメロンを食べながら、クレハから先ほどの事情を聞いてい

た。

「やっぱり求婚者の一人か」

「ええ、結婚の話は多く来るのですが、あの方は身体だけではなく態度も横柄で好みませんでした」

「ふーん、しかし君も美人だからなー。ああいうのは絶えないだろうね。結婚するまで続くんじゃないか?」

「困りました。けれど、へこたれるつもりはありません。私の心を奪っているのは、お義姉さまただ一人なんで

すから」

「姉ちゃんを愛してるんだね」

「はい、愛しています」

 そうハッキリ答えるクレハは、実に真剣な表情だった。これほど小姑に想われるなんて、姉は何て幸せ者なん

だろうと弟は感慨深くなる。

「それなら、安心して姉ちゃんを任せられるよ。これからも宜しく頼む」

 そして、彼は丁重に頭を下げた。

 思い返せば、神太郎は美人のクレハをハーレムの加えようとは一度も思わなかった。それはきっと、彼の本能

が彼女の本質を見極めていたからだろう。ハーレムには合わないタイプだと。

 また、姉の命令を無視してクレハに肩入れしたのも本能によるもの。恐ろしい姉に従うよりも、恐ろしい姉を

制する小姑に手を貸した方が平和になるはずだ。

 神太郎が今望んでいるのは、姉の信頼より安寧である。



 というわけで、神太郎とクレハはデザートを満喫して満足気に店を出た。

 ……すると、

「むっ!?」

 神太郎、驚愕。何と、あの男が待ち伏せていたのだ。

「まだ終わってないぞ、三好神太郎!」

 ケードルである。満身創痍且つ、取り巻きも逃げ去ったようで一人だった。それでも、彼は初めと全く変わら

ない闘志を見せつけてきた。恐れを見せない。躊躇すら見せない。言葉通り、本当に屈していなかった。

 本物のおとこである。

「何て奴だ……」

 神太郎ももう賞賛を越えて感嘆するしかなかった。ケードルの覇気の篭った拳を顔面に甘んじて受けると、カ

ウンターで放ったあごへの掌底で脳震盪のうしんとうを起こさせ気を失わせる。そして、倒れ込む彼

を優しく支えてやった。

 戦いの理由は全くもって言い掛かりであったが、神太郎は同じ男として敬意を表せざるを得なかったのだ。

「お前の名前、決して忘れはしないぜ。ケードル……ケードル……ケー……えーっと……ケードル・ナントカ」

 クレハが冷めた目で見守る中、神太郎はその敵手を称える。

 それは、彼がこの世界で初めて味わった心地の良い決着であった。


―姉の妹・完―
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