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12-5 三好一族の脅威⑤
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ただただ呆然のメイザーレ。エイゼン国王から勇者の死罪と賠償をもぎ取るよう命じられていた彼も、まさかの自軍の崩壊とキダイ王国からの絶縁で役目を見失ってしまう。
また三重臣たちも三好仙熊の手腕に驚かされる。弟をここに招いたのは、宰相という立場上公言出来ない言葉を代わりに吐かせるためだったのだ。普段は護りに徹して手堅く見えるが、好機と見れば強引にもっていく。正に豪腕宰相である。
動揺を続けるメイザーレ。だから、神太郎は仕方なく助け舟を送る。
「だから俺は言ったんだ。エイゼンはてっきり詫びを入れに来たんだと、親父との仲立ちをお願いしに来たんだとね……」
その助言で、特使もやっと自分の仕事を理解した。
「宰相殿! ど、どうか、勇者殿をお止め下され! 三十万のエイゼン国民のために、何卒お願い申し上げます!」
「父に願うことは出来ますが、聞き入れてもらえるかどうか……。そちらの被害から考えて、相当怒っているようですしな」
仙熊とて父を止められる確証はない。
「親父は気紛れで人を殺すような人間じゃない。……いや、時々殺すかもしれないが、殺す相手は大抵自分を不機嫌にさせた人間だ。原因を知らなければ収めることも出来ないだろう」
更に神太郎もそう忠告すると、メイザーレはとうとう観念し、あらましを伝える。
「お、王子はエイゼンの都市ヌルールを訪れていました。そこは広大なチューリップ畑があることで有名で、王子もそれを観賞しに訪れていたのです。そこには勇者殿もおりました。勇者殿はそのチューリップ畑の絵を描いていたそうなのですが、王子一行が偶然その前に陣取ってしまい、視界を防いでしまって……」
「……」
「勇者殿はどくよう申し出たのですが、王子は自分が優先だと引かず、そのまま口論に至りました。やがてそれはエスカレートし……」
「……」
「王子は勇者殿につい『ハゲ』と口走ってしまったのです……」
「そりゃ殺されるわ~。ハゲは駄目だよ、ハゲは。本人が今一番気にしていることなんだから」
それは神太郎も納得の原因だった。
「割り込みの上に他人を侮辱するなんて、どういう教育をしているんだ。ただ、親父も王子の首だけで収める気だったと思うぞ。でも、そちらが軍なり魔術士なりを動員してきたから、キレちゃったんだろうなー」
「どうすればお許し願えるか?」
「エイゼン国王が自ら父の元に赴き、詫びるしかありますまい。私も勘弁するよう書状を書きますので、それを渡すと宜しい。……それで収めてくれればいいのだが」
仙熊が今出せる答えは、残念ながらメイザーレを安堵させられるものではなかった。
すると……、
「じゃあ、俺が直接親父たちに会って止めてくるよ」
神太郎がそう申し出る。彼がこんな面倒なことを受け入れるのは意外なことだった。だが、息子が直接仲立ちしてくれるというのなら、メイザーレもやっと安堵を得られるというもの。
「弟御殿、お願い出来るか!?」
「任せておけ。いやぁ、実はそのチューリップ畑が見たくなってさ。ちょっと行きに寄ってくるよ」
たとえ、それが序で気分だとしてもだ。
「せめて帰りにしろ」
そして、仙熊のツッコミで締められる。
その後、神太郎の派遣はバルディアラン王の承認の下ということなり、両国の会談は閉幕するのであった。
カザルビンの苦々しい面持ちを残して。
会談後、王宮の応接室に場所を移したカザルビン、マーベッツ、ハインバイルの三重臣は、重苦しい雰囲気の中、酒を嗜んでいた。
「あれは我々への脅しだな」
「脅し?」
カザルビンのぼやきにマーベッツが問い返した。
「勇者のキダイ王国との繋がりは、陛下への恩だけだ。つまり、我々キダイ貴族に対しては、何ら憚りはしないと言っている。もし、自分たちに害を及ぼすようなら、エイゼン王国のように容赦はしないと、三好仙熊は脅しているのだ」
「それでは三好家の独裁を許すことになる。この国が乗っ取られるぞ」
「それどころか、連中はこの国を……いや、この世界すら滅ぼしかねないだろう。手遅れになる前に止めなければ」
「しかし、どうやって?」
「大きく仕掛ければ相手に反撃の口実を与えてしまう。少しずつ削らなくてはな」
そして、カザルビンは治安局長のハインバイルにそれを振る。
「ハインバイル侯爵。勇者の次男、三好神太郎は北衛門府の衛士で、そなたの治安局の管轄だ。どうにか出来ぬか?」
「熟慮しよう。三好神太郎については前々からマークしている」
ハインバイルはそう控えめに答えた。前に千満への暗殺を防がれたこともあって、神太郎のことは警戒している。慎重に事を進めたかった。強大な敵を相手にするには、暴力以外の策を弄さねばならない。そして、彼らにはそれが可能な組織力があった。
最後にカザルビンは説く。
「各々方、気を引き締められよ。三好一族を人間と思ってはならぬ。人間界に溶け込んでいる分、魔族より厄介だ」
それは真実であろう。魔族を滅するほどの力を持ちながら、自分たちのすぐ傍に潜む彼らは魔族以上の脅威だ。勇者たちを味方にしているうちは心強いかもしれないが、彼らは気まぐれ。今は友人のように振舞っているが、少しでも気を許せばこの世界の人間たちは従属を強いらされる。
そして、カザルビンはこの世界の代弁者かのようにこう断言した。
「勇者こそ、この世界に混沌をもたらす悪魔なのだ」
―三好一族の脅威・完―
また三重臣たちも三好仙熊の手腕に驚かされる。弟をここに招いたのは、宰相という立場上公言出来ない言葉を代わりに吐かせるためだったのだ。普段は護りに徹して手堅く見えるが、好機と見れば強引にもっていく。正に豪腕宰相である。
動揺を続けるメイザーレ。だから、神太郎は仕方なく助け舟を送る。
「だから俺は言ったんだ。エイゼンはてっきり詫びを入れに来たんだと、親父との仲立ちをお願いしに来たんだとね……」
その助言で、特使もやっと自分の仕事を理解した。
「宰相殿! ど、どうか、勇者殿をお止め下され! 三十万のエイゼン国民のために、何卒お願い申し上げます!」
「父に願うことは出来ますが、聞き入れてもらえるかどうか……。そちらの被害から考えて、相当怒っているようですしな」
仙熊とて父を止められる確証はない。
「親父は気紛れで人を殺すような人間じゃない。……いや、時々殺すかもしれないが、殺す相手は大抵自分を不機嫌にさせた人間だ。原因を知らなければ収めることも出来ないだろう」
更に神太郎もそう忠告すると、メイザーレはとうとう観念し、あらましを伝える。
「お、王子はエイゼンの都市ヌルールを訪れていました。そこは広大なチューリップ畑があることで有名で、王子もそれを観賞しに訪れていたのです。そこには勇者殿もおりました。勇者殿はそのチューリップ畑の絵を描いていたそうなのですが、王子一行が偶然その前に陣取ってしまい、視界を防いでしまって……」
「……」
「勇者殿はどくよう申し出たのですが、王子は自分が優先だと引かず、そのまま口論に至りました。やがてそれはエスカレートし……」
「……」
「王子は勇者殿につい『ハゲ』と口走ってしまったのです……」
「そりゃ殺されるわ~。ハゲは駄目だよ、ハゲは。本人が今一番気にしていることなんだから」
それは神太郎も納得の原因だった。
「割り込みの上に他人を侮辱するなんて、どういう教育をしているんだ。ただ、親父も王子の首だけで収める気だったと思うぞ。でも、そちらが軍なり魔術士なりを動員してきたから、キレちゃったんだろうなー」
「どうすればお許し願えるか?」
「エイゼン国王が自ら父の元に赴き、詫びるしかありますまい。私も勘弁するよう書状を書きますので、それを渡すと宜しい。……それで収めてくれればいいのだが」
仙熊が今出せる答えは、残念ながらメイザーレを安堵させられるものではなかった。
すると……、
「じゃあ、俺が直接親父たちに会って止めてくるよ」
神太郎がそう申し出る。彼がこんな面倒なことを受け入れるのは意外なことだった。だが、息子が直接仲立ちしてくれるというのなら、メイザーレもやっと安堵を得られるというもの。
「弟御殿、お願い出来るか!?」
「任せておけ。いやぁ、実はそのチューリップ畑が見たくなってさ。ちょっと行きに寄ってくるよ」
たとえ、それが序で気分だとしてもだ。
「せめて帰りにしろ」
そして、仙熊のツッコミで締められる。
その後、神太郎の派遣はバルディアラン王の承認の下ということなり、両国の会談は閉幕するのであった。
カザルビンの苦々しい面持ちを残して。
会談後、王宮の応接室に場所を移したカザルビン、マーベッツ、ハインバイルの三重臣は、重苦しい雰囲気の中、酒を嗜んでいた。
「あれは我々への脅しだな」
「脅し?」
カザルビンのぼやきにマーベッツが問い返した。
「勇者のキダイ王国との繋がりは、陛下への恩だけだ。つまり、我々キダイ貴族に対しては、何ら憚りはしないと言っている。もし、自分たちに害を及ぼすようなら、エイゼン王国のように容赦はしないと、三好仙熊は脅しているのだ」
「それでは三好家の独裁を許すことになる。この国が乗っ取られるぞ」
「それどころか、連中はこの国を……いや、この世界すら滅ぼしかねないだろう。手遅れになる前に止めなければ」
「しかし、どうやって?」
「大きく仕掛ければ相手に反撃の口実を与えてしまう。少しずつ削らなくてはな」
そして、カザルビンは治安局長のハインバイルにそれを振る。
「ハインバイル侯爵。勇者の次男、三好神太郎は北衛門府の衛士で、そなたの治安局の管轄だ。どうにか出来ぬか?」
「熟慮しよう。三好神太郎については前々からマークしている」
ハインバイルはそう控えめに答えた。前に千満への暗殺を防がれたこともあって、神太郎のことは警戒している。慎重に事を進めたかった。強大な敵を相手にするには、暴力以外の策を弄さねばならない。そして、彼らにはそれが可能な組織力があった。
最後にカザルビンは説く。
「各々方、気を引き締められよ。三好一族を人間と思ってはならぬ。人間界に溶け込んでいる分、魔族より厄介だ」
それは真実であろう。魔族を滅するほどの力を持ちながら、自分たちのすぐ傍に潜む彼らは魔族以上の脅威だ。勇者たちを味方にしているうちは心強いかもしれないが、彼らは気まぐれ。今は友人のように振舞っているが、少しでも気を許せばこの世界の人間たちは従属を強いらされる。
そして、カザルビンはこの世界の代弁者かのようにこう断言した。
「勇者こそ、この世界に混沌をもたらす悪魔なのだ」
―三好一族の脅威・完―
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