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泉さんと
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黒猫はけっこう速く歩いていく。
細い道も通るので、ちょっぴりヒヤヒヤしながらぼくは追いかけて行った。
ゆらゆらと尻尾が揺れるので、視界に入りやすく、見失うことはない。先端が白いから、暗い視界でも見つけやすいんだ。
チラチラと雪の降る夜。
白い息を吐きながら頑張って歩き回るなんて、理由がなければ絶対にしなかった。
その理由を敢行するために、足を動かしている。
お土産を持って。
なんだかサンタクロースみたいだな……。
「にゃー」
「うわっ、待ってって」
黒猫が突然、壁をすり抜けて行ってしまった!
冷たいコンクリートの質感。向こう側はまるで見えない。かじかんだ指先で触れてしまって、ひりっとした。
ぼくは慌てて反対側に回り込む。
さっきのぼくと同じように「うわっ」て声が聞こえてきた。
女の人の声だ。
「泉さん!」
「……陸くん?」
黒猫をふわふわと撫でながら、びっくりした顔の泉さんがこちらを見上げていた。
ああ、驚いて転けたんでしょうに、真っ先に黒猫を撫でているところは、彼女も猫好きなことを表していて大変親近感が湧きます。
テヘヘとごまかし笑いしている最中にも、ネイルが綺麗な指先は、黒猫毛皮に吸い込まれていた。
「お手をどうぞ」
「ありがとう」
「怪我はありませんか?」
「大丈夫よ。……ふふっ」
「どうかしました?」
「だって陸くん、今の喋り方、王子様みたいで面白くて!」
「……無意識に王子様みたいな対応ができてたなんてすげーって思うのと、ソレを面白いって表現される自分のポテンシャルが切ないですね……」
ぼくは今、顔が真っ赤だろう。
あっはっは、ごめんごめん、と泉さんが軽快に笑う。
よかった、嫌がられてはいないみたいだ……突然に訪問したこと。
一緒に黒猫を撫でるべく、しゃがみこむ。
指は当然すり抜けていくんだけどね。
黒猫は心地好さそうに喉を鳴らすんだから、不思議だな。
「急に訪問しちゃってごめんなさい」
「ん? 陸くん、わざわざあたしのとこに来るつもりだったの? 偶然じゃなく?」
「あ、えーと、はい。ユウレイに連れてきてもらったけど、ぼくがそう望んだっていうか」
「そっかー!」
泉さんはニヤニヤ笑うと、ぼくの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
髪の毛がもさっと乱れた気がする……。
「にひひ、黒猫っぽいよ、君! おっと、まずは心配かけてごめんね。そうよね?」
「ええ。時間になってもウチに来なかったですし……心配していました」
「ほんとごめん。急に残業になっちゃったんだ!」
泉さんは手をパチンと合わせて、ぎゅっと目を瞑り、まさに本当に悪かったって顔でぼくに謝った。
こうなるとこっちが慌ててしまう。
「いえ! 残業ならしょうがないです。はいこれ」
「ん?」
ぼくは彼女の伏せた猫耳を見ていられなくなって、お土産を取り出して渡した。
自分でも引くくらいに丁寧にラッピングされている、気持ちのこもった品だちくしょー。
まじまじ見られると恥ずかしくなるな……。
「手作りクッキー。今日の集会のお土産にするつもりでしたので」
「わあ! ありがとう!」
泉さんはぱあっと顔を輝かせる。
「猫型? えっ凄すぎない? 女子……?」
「冴えないリーマンで男子で二十五歳ですね」
「あっはっは、女子で黒猫で王子様~」
「もう勘弁してください!」
泉さんは悪ノリを許容するとずーっと喋っているので、もう一つを渡して話題を逸らすことにした。
「これは?」
「今夜のおかずです」
「物言いがすけべ過ぎない? やーん」
「鯖の水煮缶を使ったお魚ハンバーグなんですけど、いりませんかそうですか」
「ダメえぇ! ください! ありがとう!」
泉さんはぼくから隠すように、タッパーを抱え込んだ。
その勢いに笑ってしまった。
あっちも「えへ、ごめん」って苦笑いしている。
からかい過ぎたって自覚してもらえたならよかったです。
「うちの企業の商品、使ってくれたんだね! あーもー美味しそう~」
「今週もお仕事お疲れ様でした。遅くまで頑張ったご褒美になりますように」
「い、癒されるぅ」
泉さんは感激したように目を潤ませて、ぼくの手を握って、ブンブン上下に振った。
「また来週は行かせてねー!」
泉さんと連絡先を交換する。
行ってらっしゃいサンタさん! と、またひとつ肩書きを増やされた。
黒猫を追いかけていく。
好意を受け入れてもらえたから、こんな寒い日だけど、心はほっこりとあたたかい。
細い道も通るので、ちょっぴりヒヤヒヤしながらぼくは追いかけて行った。
ゆらゆらと尻尾が揺れるので、視界に入りやすく、見失うことはない。先端が白いから、暗い視界でも見つけやすいんだ。
チラチラと雪の降る夜。
白い息を吐きながら頑張って歩き回るなんて、理由がなければ絶対にしなかった。
その理由を敢行するために、足を動かしている。
お土産を持って。
なんだかサンタクロースみたいだな……。
「にゃー」
「うわっ、待ってって」
黒猫が突然、壁をすり抜けて行ってしまった!
冷たいコンクリートの質感。向こう側はまるで見えない。かじかんだ指先で触れてしまって、ひりっとした。
ぼくは慌てて反対側に回り込む。
さっきのぼくと同じように「うわっ」て声が聞こえてきた。
女の人の声だ。
「泉さん!」
「……陸くん?」
黒猫をふわふわと撫でながら、びっくりした顔の泉さんがこちらを見上げていた。
ああ、驚いて転けたんでしょうに、真っ先に黒猫を撫でているところは、彼女も猫好きなことを表していて大変親近感が湧きます。
テヘヘとごまかし笑いしている最中にも、ネイルが綺麗な指先は、黒猫毛皮に吸い込まれていた。
「お手をどうぞ」
「ありがとう」
「怪我はありませんか?」
「大丈夫よ。……ふふっ」
「どうかしました?」
「だって陸くん、今の喋り方、王子様みたいで面白くて!」
「……無意識に王子様みたいな対応ができてたなんてすげーって思うのと、ソレを面白いって表現される自分のポテンシャルが切ないですね……」
ぼくは今、顔が真っ赤だろう。
あっはっは、ごめんごめん、と泉さんが軽快に笑う。
よかった、嫌がられてはいないみたいだ……突然に訪問したこと。
一緒に黒猫を撫でるべく、しゃがみこむ。
指は当然すり抜けていくんだけどね。
黒猫は心地好さそうに喉を鳴らすんだから、不思議だな。
「急に訪問しちゃってごめんなさい」
「ん? 陸くん、わざわざあたしのとこに来るつもりだったの? 偶然じゃなく?」
「あ、えーと、はい。ユウレイに連れてきてもらったけど、ぼくがそう望んだっていうか」
「そっかー!」
泉さんはニヤニヤ笑うと、ぼくの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
髪の毛がもさっと乱れた気がする……。
「にひひ、黒猫っぽいよ、君! おっと、まずは心配かけてごめんね。そうよね?」
「ええ。時間になってもウチに来なかったですし……心配していました」
「ほんとごめん。急に残業になっちゃったんだ!」
泉さんは手をパチンと合わせて、ぎゅっと目を瞑り、まさに本当に悪かったって顔でぼくに謝った。
こうなるとこっちが慌ててしまう。
「いえ! 残業ならしょうがないです。はいこれ」
「ん?」
ぼくは彼女の伏せた猫耳を見ていられなくなって、お土産を取り出して渡した。
自分でも引くくらいに丁寧にラッピングされている、気持ちのこもった品だちくしょー。
まじまじ見られると恥ずかしくなるな……。
「手作りクッキー。今日の集会のお土産にするつもりでしたので」
「わあ! ありがとう!」
泉さんはぱあっと顔を輝かせる。
「猫型? えっ凄すぎない? 女子……?」
「冴えないリーマンで男子で二十五歳ですね」
「あっはっは、女子で黒猫で王子様~」
「もう勘弁してください!」
泉さんは悪ノリを許容するとずーっと喋っているので、もう一つを渡して話題を逸らすことにした。
「これは?」
「今夜のおかずです」
「物言いがすけべ過ぎない? やーん」
「鯖の水煮缶を使ったお魚ハンバーグなんですけど、いりませんかそうですか」
「ダメえぇ! ください! ありがとう!」
泉さんはぼくから隠すように、タッパーを抱え込んだ。
その勢いに笑ってしまった。
あっちも「えへ、ごめん」って苦笑いしている。
からかい過ぎたって自覚してもらえたならよかったです。
「うちの企業の商品、使ってくれたんだね! あーもー美味しそう~」
「今週もお仕事お疲れ様でした。遅くまで頑張ったご褒美になりますように」
「い、癒されるぅ」
泉さんは感激したように目を潤ませて、ぼくの手を握って、ブンブン上下に振った。
「また来週は行かせてねー!」
泉さんと連絡先を交換する。
行ってらっしゃいサンタさん! と、またひとつ肩書きを増やされた。
黒猫を追いかけていく。
好意を受け入れてもらえたから、こんな寒い日だけど、心はほっこりとあたたかい。
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