★黒猫ユウレイ集会

黒杉くろん

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泉さんと

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 黒猫はけっこう速く歩いていく。

 細い道も通るので、ちょっぴりヒヤヒヤしながらぼくは追いかけて行った。

 ゆらゆらと尻尾が揺れるので、視界に入りやすく、見失うことはない。先端が白いから、暗い視界でも見つけやすいんだ。

 チラチラと雪の降る夜。
 白い息を吐きながら頑張って歩き回るなんて、理由がなければ絶対にしなかった。
 その理由を敢行するために、足を動かしている。

 お土産を持って。
 なんだかサンタクロースみたいだな……。

「にゃー」
「うわっ、待ってって」

 黒猫が突然、壁をすり抜けて行ってしまった!

 冷たいコンクリートの質感。向こう側はまるで見えない。かじかんだ指先で触れてしまって、ひりっとした。

 ぼくは慌てて反対側に回り込む。

 さっきのぼくと同じように「うわっ」て声が聞こえてきた。
 女の人の声だ。

「泉さん!」
「……陸くん?」

 黒猫をふわふわと撫でながら、びっくりした顔の泉さんがこちらを見上げていた。

 ああ、驚いて転けたんでしょうに、真っ先に黒猫を撫でているところは、彼女も猫好きなことを表していて大変親近感が湧きます。
 テヘヘとごまかし笑いしている最中にも、ネイルが綺麗な指先は、黒猫毛皮に吸い込まれていた。

「お手をどうぞ」
「ありがとう」
「怪我はありませんか?」
「大丈夫よ。……ふふっ」
「どうかしました?」
「だって陸くん、今の喋り方、王子様みたいで面白くて!」
「……無意識に王子様みたいな対応ができてたなんてすげーって思うのと、ソレを面白いって表現される自分のポテンシャルが切ないですね……」

 ぼくは今、顔が真っ赤だろう。
 あっはっは、ごめんごめん、と泉さんが軽快に笑う。

 よかった、嫌がられてはいないみたいだ……突然に訪問したこと。

 一緒に黒猫を撫でるべく、しゃがみこむ。
 指は当然すり抜けていくんだけどね。
 黒猫は心地好さそうに喉を鳴らすんだから、不思議だな。

「急に訪問しちゃってごめんなさい」
「ん? 陸くん、わざわざあたしのとこに来るつもりだったの? 偶然じゃなく?」
「あ、えーと、はい。ユウレイに連れてきてもらったけど、ぼくがそう望んだっていうか」
「そっかー!」

 泉さんはニヤニヤ笑うと、ぼくの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
 髪の毛がもさっと乱れた気がする……。

「にひひ、黒猫っぽいよ、君! おっと、まずは心配かけてごめんね。そうよね?」
「ええ。時間になってもウチに来なかったですし……心配していました」
「ほんとごめん。急に残業になっちゃったんだ!」

 泉さんは手をパチンと合わせて、ぎゅっと目を瞑り、まさに本当に悪かったって顔でぼくに謝った。
 こうなるとこっちが慌ててしまう。

「いえ! 残業ならしょうがないです。はいこれ」
「ん?」

 ぼくは彼女の伏せた猫耳を見ていられなくなって、お土産を取り出して渡した。

 自分でも引くくらいに丁寧にラッピングされている、気持ちのこもった品だちくしょー。
 まじまじ見られると恥ずかしくなるな……。

「手作りクッキー。今日の集会のお土産にするつもりでしたので」
「わあ! ありがとう!」

 泉さんはぱあっと顔を輝かせる。

「猫型? えっ凄すぎない? 女子……?」
「冴えないリーマンで男子で二十五歳ですね」
「あっはっは、女子で黒猫で王子様~」
「もう勘弁してください!」

 泉さんは悪ノリを許容するとずーっと喋っているので、もう一つを渡して話題を逸らすことにした。

「これは?」
「今夜のおかずです」
「物言いがすけべ過ぎない? やーん」
「鯖の水煮缶を使ったお魚ハンバーグなんですけど、いりませんかそうですか」
「ダメえぇ! ください! ありがとう!」

 泉さんはぼくから隠すように、タッパーを抱え込んだ。
 その勢いに笑ってしまった。

 あっちも「えへ、ごめん」って苦笑いしている。
 からかい過ぎたって自覚してもらえたならよかったです。

「うちの企業の商品、使ってくれたんだね! あーもー美味しそう~」
「今週もお仕事お疲れ様でした。遅くまで頑張ったご褒美になりますように」
「い、癒されるぅ」

 泉さんは感激したように目を潤ませて、ぼくの手を握って、ブンブン上下に振った。

「また来週は行かせてねー!」

 泉さんと連絡先を交換する。

 行ってらっしゃいサンタさん! と、またひとつ肩書きを増やされた。


 黒猫を追いかけていく。
 好意を受け入れてもらえたから、こんな寒い日だけど、心はほっこりとあたたかい。
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