ヴァルドとローゼの長い冬

はやしかわともえ

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おまけ③(小話集)

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・ローゼの家族

「ローゼの家族のこと、聞かせてもらっていい?」
「僕も聞きたいです!」
ある日の夜、ヴァルドとコニーにせがまれて、ローゼは頷いた。
「僕には年の離れた兄様が3人いてね、皆、優しいんだ。一番上の兄様には妻子がいるよ。姪はまだ赤ん坊で、無邪気なものさ。それでね、義理の姉様や兄様たちは僕に沢山お菓子を買ってくれるんだ」
「ローゼ、お兄さんたちから可愛がられてるんだね。気持ちはよく分かるけど」
ヴァルドが苦笑する。自身と重ねたのだろう。
「兄様たちの中でも真ん中の兄様は特に剣技の名人でね、王城の騎士隊に所属しているんだ。しかもなかなかの二枚目でね、ファンも多いんだよ」
「あ、僕、見たことありますよ!握手会の行列」
「なんだそれ?」
ヴァルドが怪訝そうにする。
「兄様、知らないんですか?最近、騎士隊のファンのためにイベントが開催されてるんですよ」
「アイドルかよ…」
「僕もいつか握手会してみたいなー」
コニーが目を輝かせている。
「あぁ。コニーならきっとファンが沢山できるよ」
ローゼがそう請け負うと、コニーがぱあっと笑顔になった。
「ですよね!」
「お前ね、すぐ調子に乗らないの」
「はーい」
ローゼは続けた。
「一番下の兄様は学問に通じていてね。薬の研究をされているんだ」
「すごいね。野菜に負担の少ないよく効く農薬の開発してくれないかな」
「兄様、欲張りはよくありませんよ?」
「モノづくりには欲がないと」
ローゼはいよいよ2人のやりとりに吹き出してしまった。
「ヴァルドもコニーもなんでそんなに息ぴったりなんだい?」
「だって」
2人が同時に言う。
「こいつには/兄様には、負けたくないから!」

・プレゼント
「ローゼ、どれにしよう?」
クラシア伯爵家で、明日行われるお茶会のためにヴァルドとローゼはローゼの家族に送るプレゼントを街に探しに来ている。ローゼが最初に選んだこの店では主に、革製品を取り扱っている。ヴァルドはありとあらゆる革製品を前に既にお手上げ状態らしい。ローゼにこう尋ねてきた。
「革製品は長く使うほど艶と味が出るからね。この財布なんてどうかな?兄様たちは自分で金銭を取り扱う機会も多いしね」
ローゼが示したのは革で作られた長財布だ。名刺も入れられる。
「ローゼ、素敵なの見つけたね。ローゼのお母さんやクラシア伯爵様はどうしよう?確か、お義姉さんと姪子さんもいるんだっけ?」
「大丈夫。僕にはちゃんと考えがあるんだよ」
「頼もしい」
ローゼは金のことなどまるで気にしていない。生まれてからあって当たり前の生活をしてきたからだ。ヴァルドが金を持っていることもローゼはよく分かっている。2人は街にある店をあちこち見て回った。
「これを包装していただけますか?」
こうして無事、全ての買い物は済んだ。
結局、ローゼは両親には揃いの湯呑み。義理の姉には革で出来たポーチ。姪には犬のぬいぐるみを選んだ。
「喜んでもらえたらいいな」
「大丈夫。2人で頑張って選んだもの」
ヴァルドとローゼはお互いを見て笑い合った。

・狗

コニーは1人、山中を全力で疾走している。今日の午前中、怪しい動きをする集団を見掛けたと通報があったからだ。その通報を受けて騎士隊も動いている。主に王城周りや街の警備などにだ。騎士が立っているだけでも民にとっては安心に繋がる。しかも人気のある騎士だと特別だ。
「殿下!」
コニーは声を出さず頷いた。山中で待機していた騎士5人と無事合流出来た。その中にはローゼの兄サムスもいた。
「何か変化は?」
コニーの言葉に騎士らが頷く。
「ありません。奴らはあの小屋に潜伏しているものと思われます」
コニーはしまったと慌てて小屋に向かった。騎士たちも付いてくる。
「やられた…」
小屋内にはもう誰もいなかった。床に敷いてあった藁を捲ると地下につながる穴があった。どうやらここから逃げ出したようだ。
「殿下、どうしますか?」
「二手に分かれよう。サムス、僕と一緒に来てください」
「承知しました」
「殿下、自分も…」
コニーは首を振った。
「この地下通路、多分ですが出口が数カ所あるはずです。それを探ってください」
「はっ!」
コニーは地下通路に繋がる縄はしごを降り始めた。サムスが上から付いてくる。はしごから身軽に飛び降りたコニーは地下通路を走り出した。サムスもまた同様だ。騎士隊とコニーはよく一緒に訓練をしている。表向きはコニーの王子としての剣技の嗜みだが、実際は国の狗としての訓練だ。中には数日間をかけてのかなり厳しいものもある。もちろん民たちはそれを知らない。
「音が聞こえます」
「…はい。何者かの足音ですね、男が3名います。私たちに気が付いたようです」
コニーはサムスの優秀さに思わず笑んでしまった。
「殿下?」
「なんでもありません。急ぎましょう」
コニーはなるべく足音を立てないようスピードを上げた。

「おいおい、なんで走る必要がある?騎士隊をまんまと出し抜けたってのによ」
「黙れ。狗が追ってきてるんだ」
「犬ころなんざ怖くねえや」
「黙れと言っている…!」
彼らは転々と街を巡り、強盗殺人を繰り返している。手口はかなり強引なものだ。夜中、寝静まっている家に押し入り寝ている家人を殺害。それからゆっくり物品を物色するという、とても許されないものだった。
今回も本来であれば2人で動いているはずだった。だが、今日はもう1人いる。
(こいつ、本当に使えねえな。身体はやたらでかいうえに人を殺るのに躊躇しやがる)
相棒は先程からその男に黙るように指示しているが聞き入れる様子もない。男は歯を食いしばった。誰かが地下通路に入る音が聞こえたからだ。相棒もそれに気付いたのだろう。こちらを見て頷く。
「おい、走るスピードを上げろ」
「はぁ?無理だよ。今だってやっとだってのに」
「声量を落とせ。狗が来ている」
「また狗かよ」
いっそこの男を切り捨ててしまおうかと思ったが、この男は自分たちのボスの甥なのだ。ボスはこの甥を偉く可愛がっている。簡単に殺せば、自分たちの命が危うくなる。
(くそっ…)
心の中で悪態をつくが、足音は確実に近づいてきている。しかも前からも気配があった。
「おい、取り囲まれたぞ」
「くそっ、途中の出口も見つかっちまったか」
そんなはずはないと男は汗で濡れる拳を握った。この地下通路は今まで一度も見つけられたことがない。それだけ過酷な場所に出口を配置している。だが実際はどうだろう。こうして取り囲まれている。
「く、やるしかねえ…!」
相棒が勇み得物を構えた。いくら取り囲まれたとはいえ、突破できない人数ではない。だが男の脳裏によぎるのは狗の存在だった。気付けば鋭い爪で切り裂かれ食いちぎられているという。男は悪い想像を振り払った。自分も武器を構える。
「なんだってんだよ、まった…」
ぶしゃっと何かが弾けたような音に、男たちは何も反応できなかった。自分の身体がぬるぬるした何かで濡れている。血液だと男は思った。
(一瞬だった…これが狗の仕業だったのか)
辺りは薄暗く周りはよく見えない。だが、自分たちは手練れだ。ある程度であれば戦える自信があった。相棒の気配を感じ、男は気を落ち着けた。まだ自分たちの負けが確定したわけじゃない。勝負というものは一瞬で決まる。
「どりゃあ!!」
武器を振り上げた瞬間、血飛沫が飛び散った。

「姉様ー」
コニーはローゼに抱き着いている。兄であるヴァルドがいればまず殴られるが、気にするコニーではない。
「どうしたんだい?今日は甘えん坊さんだね」
ふふ、とローゼに笑われコニーは頬を膨らませた。
「そうなんです。怖い夢見ちゃって」
「おやおや。人に話せば見なくなるからもう大丈夫だね」
「ローゼ姉様大好きー」
(姉様、本当は夢じゃないんだ。嘘をついてごめんなさい。僕の手はすっかり汚れているけれど、姉様を守れるならなんだってするよ)
コニーは今日も戦う。国の狗として。


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