引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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退院したソータは今更気が付いていた。ここがセキヒであることに。セキヒにはシオウの自宅兼研究室があり、今日はみんなでそこに行くことになっている。朝食に、ソータはもりもり白パンを食べている。甘くて柔らかなパンはソータのお気に入りだ。

「ソータ、また食べられるようになって良かったな」

「はい。食べないと体が持たないのです」

エンジが笑う。

「ソータ、人探しは出来てるのか?」

ソータはこくん、と頷いた。

「不思議なことに皆さん、中央都市の出身のようで。僕の占い、本当テキトーだなって思っています」

「いやいや、それでもソーちゃんはアオナのリーダー?に相応しいと思える人を見つけてるじゃん」

「はい、その通りなのです。全て神のご加護なのです」

「ソーちゃんはやっぱり聖女なんだな。そういう真っ直ぐなとこ可愛い」

「かわっ!」

ソータは顔を真っ赤にした。何故か自分の周りの男性は自分を可愛いだとかお嫁さんにという。異性どころか人間に免疫のないソータは毎回困ってしまう。

「僕は男なのですよ、レント様」

「無理でしょ、それは…」

レントがため息を吐く。

「無理じゃないのです。僕は一人の少年としてこの任務をやり遂げてみせるのです!」

「うーん…」

レントが唸る。エンジが口を開いた。

「サラにはバレていたみたいだけど、なにか危ないことはなかったかな?」

ソータはそれにぎくりとしてしまう。

「さ、サラ先輩は確かにすぐに気が付いていたような?好きだって言われたし…でもサラ先輩は同性でも大丈夫って」

アワアワしながらソータが答えるとエンジとレントが天を仰いだ。

「ソーちゃん見た目も中身も可愛いんだからさ、そうゆうの男はイチコロなんだよ」

「ぼ、僕は男なのです」

「ソータ、これからは俺たちも君からなるべく離れない。君になにかあったら困るからね」

「はい…」

ソータは視線を自分の膝に落とした。なんだか叱られたみたいで悲しくなった。

「そ、ソータ?そんなに落ち込まなくても?」

「エンジ様の言う通りなのです」

「?」

ソータは持っていた白パンを皿に置いた。右手に魔力を込める。ソータの得意な水魔法である。それはある形へと姿を変えていく。顔の上半分を覆う仮面に。

「今後はこれをつけることにします。これなら少し怖いでしょう?」

「まぁなにも付けていないよりはいいのかも」

レントが頷く。ソータは仮面を嵌めた。それは自分の肌に馴染む。

「エンジ様、レント様、改めてよろしくお願い致します!」

ソータは深々と頭を下げて、再び白パンに取り掛かかった。

✢✢✢

この世界で仮面を嵌めている事は、大して珍しい話ではないらしい。中には鳥の頭の形をしたマスクをしている者もいるくらいだ。世界は広いなぁとソータは他人事ながらに感心していた。

「シオウ様の研究室はセキヒの中央にあるのですね」

「あぁ、なんでも観察がしやすいからって」

「観察?」

「詳しい話はシオウに聞いてご覧」

シオウの研究室は外から見るにこぢんまりとしていた。四角い箱のような外見の建物だ。エンジが言うには作るのが容易だからという理由があるらしい。この国はそんな建物が多かった。ソータは思い切ってドアを軽く叩いた。しばらくしてカチリ、と扉が開く。ソータは仮面を外した。説明してから嵌めたほうがいいだろうと判断したのだ。

「ソータさん、皆さん、いらっしゃい」

シオウはすごく楽しそうだった。まさに水を得た魚である。

「シオウ様、僕は今後仮面を着けることにしたのです」

「あぁ、ソータさんは可愛いからそれくらいがちょうどいいかもしれないね」

「かわっ?!」

「ソーちゃん、可愛いなー」

レントが笑う。エンジやシオウもソータを見て優しく微笑んでいた。ソータは仮面を嵌める。

「とりあえず中へ。外は暑いですからね」

シオウに招かれて中に入ると巨大な白黒の写真が壁に掛かっている。ソータは写真をちゃんと見るのが初めてだった。聖域に写真を撮るという概念はない。

「これは?」

「私の叔父が遺したものだよ。叔父は天才だと言われていたんだ。若くして亡くなってしまったけれど」

シオウが陰を感じさせる表情で言う。

「シオウ様は叔父様が大好きだったのですね」

ソータの言葉にシオウが柔らかく微笑んだ。

「うん、私を唯一受け入れてくれた人、だったからね」

シオウはソータたちに冷たいお茶を淹れてくれた。

「ソータさんはジュースを飲んだことはある?」

シオウが取り出したガラスの容器には赤い液体がたっぷり入っている。

「ないのです。ミルクに関してはベテランなのですが」

船に乗っている間、ソータは食事の度、毎回ミルクを飲んでいた。

「ソータさんの味覚の鋭さには驚かされるよ。ちょっと待ってね」

シオウが赤い液体をグラスに注ぎ、そこに瓶から炭酸水を注ぐ。それをかき混ぜてソータの前に置いてくれた。
エンジ、レントの分も作っている。グラスの氷がカランと揺れる。

「紫蘇ジュースだよ。私は少し甘めに作るのが好きなんだ」

「いただきます」

ソータは一口ジュースを飲んでみた。口の中にしゅわあっと炭酸が弾ける。ソータは驚いてしまい、思わずむせてしまった。

「炭酸、初めてだった?」

シオウが面白そうに言うので、ソータはこくこくと頷いた。

「甘くてすごく美味しいのです。少し酸っぱくて、しゅわってします」

「ソーちゃんの食レポいいね!ね、シオウ」

レントがウインクする。

「喜んでもらえて良かった」

シオウがこうして穏やかに笑っていること自体がソータには嬉しい。シオウを引き留めていたもの、それはレイモンドだったのだろうか、とソータは紫蘇ジュースを飲みながら考えていた。

「シオウ様、研究のことを聞いてもいいですか?」

「え、社会科学に興味があるの?」

「聖女たるもの、勉強は怠れないのです!」

「そうか、大変なお仕事なんだね。簡単に言うと、社会科学は人間観察が基本なんだ」

「人間観察?人を観るのですか?」

「うん、その人を取り巻く色々なことについて観察したり実験検証をするんだ。個人に対して、社会がどう関わってくるか、とかね」

「すごく難しいのです」

ソータの理解が追いつかずソータがクラクラしていると、シオウが笑った。

「私は特に神々について研究しているんだ。人と神の関わりについて、宗教の在り方について」

「神様のことを研究するなんて…」

ソータは驚いてしまった。

「もちろん、不敬なのは重々承知しているよ。でも、この世界には明らかに神が存在している。ソータさんにとっては当たり前だって思うことかもしれないけれどね」

「当たり前じゃないのですか?」

ソータは再び驚いてしまった。神の存在はソータにとって当たり前のものであり、それだけ身近なものだからだ。ソータは祈りを欠かさない。それがソータを聖女たらしめている。

「うん、ソータ。神様は普通の人の所には来ないんだよ」

「そうなのですか?!」

エンジの言葉にソータはポカン、とした。自分の当たり前が通用しない世界であることは薄々気が付いてきてはいたが、そこまでとは思わなかったのである。

「セキヒに近い島でヤム島という場所があるんだ。そこで贄の儀式が行われるらしくて…」

「贄の儀式…?」

「幼い女の子を神の前に出して生贄にするんだよ」

ソータはいよいよびっくりして、ひっくり返りそうになった。

「神は幼い命など欲しがりません!!」

「やっぱりそう思うよね!」

シオウがソータの両手を掴む。

「はい。有り得ないのです、そんな儀式」

「私はそれを止めさせたいんだ。力を貸して欲しい」

「承知なのです!」

「でもどうやって止めるんだ?」

エンジの冷静な突っ込みにシオウは黙ってしまった。

「まだ、そこまでは」

「おいおい」

エンジがジト目でシオウを見つめる。そこにソータが割り込んだ。

「僕、いい考えがあるのです!」

「本当かい?ソータさん」

「なんかあまりあてにならなさそうな…」

エンジが頭を振るとレントが笑う。

「まぁまぁ。面白そうだし聞いてみようよ」

「聞くだけならただなのですよ!」

色々言いたくなったがエンジはそっとソータを促すのだった。
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