引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

文字の大きさ
42 / 92

42

しおりを挟む
ソータがこの学校に来てから、もう10日が経過している。

「ソータナレア様、このたまご、何が生まれるの?」

 子どもたちはすっかりソータに懐き、慕ってくれるようになっていた。

「…真龍?かな?」

 言っていいものかどうか判断できず、それでもソータが呟くと、子どもたちが一斉に後ずさった。

「ソータナレア様、真龍のたまごを預かってるの?」

 召喚術士の少女はキミカといった。

「すげえ!さすがソータナレア様!」

 興奮気味に言うのはエンテイである。体の大きさと得意な炎魔法を生かした豪快な攻撃を特徴としている。

「真龍の赤ちゃん…?」

 ユメがぽつりと呟いた。活発なキミカとは真逆の大人しい少女である。だが、彼女に秘められた能力は高い。

「生まれたらどうするの?」

 コタロウが尋ねてくる。ソータもその質問は最もだと頷いた。

「まだはっきりとは分からないけれど、まずは無事に生まれてきてくれれば…」

 ふとソータたちは気が付いた。教室の外で誰かが言い争っているのだ。それを仲裁する声も聞こえてくる。何事かとソータたちは教室から出た。

「ソータとピクニックに行くくらいいいだろう!」

「ソータナレア様はお忙しいのです!」

 言い争っているのはパペとハ・デスだ。それをサラがまあまあと宥めている。キメルは沈黙を貫いていた。

「ピクニック…ですか?」

 ソータが声を掛けると、ハ・デスが振り返り、得意そうに言った。

「ソータ、この僕とピクニックに行けるんだ!嬉しいだろう!!」

「皆で行きたいのです!」

「え」

 ソータの言葉に皆も固まる。

「ソータナレア様、いいのですか?」

 パペが尋ねてくる。

「もちろん!絶対に楽しいのです!私、お弁当を作ってみたかったの!」

「ソータの作った弁当か…」

 サラが楽しそうに笑う。

「人間、お前の分はない」

「こら、キメル。意地悪はよくないよ!」

 ソータがキメルを叱るとしゅんとする。サラが笑った。

「よし、俺も手伝うよ、弁当作り!」

「私にもお手伝いさせてください」

 パペもすかさず言う。

「でも、どこにピクニックに行くの?」

 ユメの言うことは最もだ。中央都市は今、ほとんどが崩落してしまっている。

「大丈夫なのです。飛空艇をシヴァ様からお借りしましょう」

 パペにソータが目線で問うと、彼が頷いてきた。

「もちろんそれは構いません」

「あら、楽しそうね」

「シヴァ様!」

 ふらり、とシヴァが現れた。どうやらずっと話を聞いていたらしい。

「皆でピクニックに行こうと話していたのです」

「あらぁ、いいじゃない!それなら原石を探してきてくれる?」

「原石…ですか?」

 原石をもつ魔物がいることにはいる。つまりシヴァは子どもたちに実戦を経験して欲しいと思っているということだ。

「この子たちも随分強くなったし、すぐ集まるわよ。とりあえず100個お願いね!じゃ!」

 シヴァは言いたいことだけ言うとすぐいなくなってしまった。

「100個も集まるか?」

 ハ・デスが首を傾げている。パペが口を開く。

「それならトタン鉱山に行ってみましょうか。ツルハシで鉱脈を掘れば戦闘だけでなく、原石を入手可能です」

「トタン鉱山って火山だよね!」

「初めて行くな!」

「皆さん、当日のためにしっかり準備をしましょう」

「はい!!」

 ソータの声掛けに子どもたちが元気よく返事をする。こうして休みの日にピクニックに行くことが決まったのだった。

 ✢✢✢

「ソータナレア様、おはようございます。いよいよ明日ですね」

 朝、着替えて部屋を出るとパペがいた。毎日こうなので、ソータも慣れてきている。

「おはよう、パペ。これ」

 ソータは冊子をパペに手渡した。

「これ、ピクニックのしおりですか?」

「うん、鉱山には危険な魔物がいるから注意事項をまとめてみたの」

 パペがしおりをパラパラと捲り始める。

「わかりやすいですね。ソータナレア様、さすがです!」

「おやつを今日の放課に皆で買いに行きたいんだけど、時間あるかな?」

「もちろんお供します!」

「俺も行く」

キメルがいつの間にかソータのすぐ後ろを歩いていた。

「良かった」

ソータたちは食堂を目指した。最近ソータは、素揚げの野菜がたっぷり載ったカレーライスにハマっている。肉は食べられないが野菜ならなんでも食べられる。このメニューはソータの一番の大好物だった。

「ソータナレア様、おはようございます。今日もいつもの?」

厨房には数人の女性たちが働いている。聞いてきてくれたスタッフにソータは笑って頷いた。

「はい!カレーライスを頂きたいのです」

食事を摂りながらソータたちは中央都市の現状について話し合った。人は脆い部分もあるが、それに負けない強い意志を持つ者も多い。復興のため、あちらこちらからボランティアも来ているようだ。抉られていた道が少しずつ整えられ、舗装されてきているのをソータも見た。

「すごいですね!確実に中央都市が復興してきてます」

「ソータナレア様を目当てに来る神々が物資を持ってやって来るんです」

パペが困ったように言った。ソータもえ?と固まってしまう。

「私に会いに?」

「ソータの前聖女は神々に優しかったからな。いつも誰かが遊びに来ていたよ」

「おばあさまが…キメルもそうなのですか?」

「俺は小さいソータを守るように言われた。ソータは活発だったからあちこち走り回って転んで泣いていた」

「は、恥ずかしいのです」

「ソータナレア様はお転婆だったんですね」

パペが言う。彼の表情は相変わらず無表情だったが、その声音には優しさが入り混じっているような気がする。

「おはよう、ソータ」

「サラ先生、おはようございます。あ、これを渡しておきますね」
 
ソータは立ち上がってパペに渡したものと同じ冊子を差し出した。

「お、しおりか。懐かしいな。ソータが作ったのか?」

「はい。トタン鉱山は危険な場所なのです」

「そんなにか?途中までバスが走ってるんじゃ…」

サラの言い分は間違っていない。

「私たちが向かうのはトタン鉱山の奥なのです。魔物がうろついていますから」

「それ、もうピクニックじゃないな?」

サラが笑う。

「ま、いいや。行ってみようぜ」

「僕にもしおりをくれ!」

ハ・デスが泣きながら詰め寄ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる

腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。 荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま! 聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。 イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか? ※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています ※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...