47 / 92
47
しおりを挟む
「私はどうしたいんだろう…」
キメルを見送った後、ソータは鏡を見つめていた。どう見ても15歳とは思えない小さな体が恨めしい。サラに言われたことをソータは思い出していた。生きているなら間違えることもあるし、間違いに気が付いたら選択を変えられる、ソータからしたらこんな考え方は目から鱗だった。
「ソータ、入るぜ」
コンコンとノックされて声がかかる。ソータは知っている気配に振り返った。そこにいたのは神であるシンラだ。人々はシンラを気まぐれが歩いていると評するのだ。人を自分の気分次第で助けたり助けなかったりする。そんな神としてシンラは人々の間で知られている。だがそんな面も愛されている。神というよりマスコットのような愛され方をしている稀有な神だ。
「シンラ様!ご無事だったのですね!」
シンラは困ったように辺りを見回して、じっとソータを見つめた。
「あー、なんか大変なことになってたみたいだな。俺はちょっとあちこち見て回ってて、ソータがここに来てるって聞いて慌てて来た」
ソータはシンラの傍に寄り添った。シンラがそれに赤くなる。
「そのお話、詳しく聞かせてください!」
「う…あ、ああ」
シンラは本当にあちこちを見てきたらしい。西北の戦争のことは辛そうにポツポツ話した。ソータは途中でお茶を淹れてシンラをもてなした。シンラも沢山話して喉が乾いていたのだろう。熱いお茶をちびちび飲みながら話し続けた。
「あの、シンラ様はタイタンっていう組織を知っていますか?」
「…知っている。ソータみたいな可愛い女の子は近づいちゃいけない、絶対に」
「実は…」
ソータはシンラにキメルのことを話した。
「兄貴がそんなことを…星時計…か」
シンラは何かを知っているらしい。
「星時計ってなんですか?」
ソータが尋ねると、シンラはバッと立ち上がった。
「キメルの兄貴がソータに話さないと決めたなら俺からは話せねえ。兄貴なら大丈夫。ソータは兄貴をただ待っていればいい」
シンラが早々に立ち去ってしまい、ソータは落胆した。こんな時、自分が勇猛な男性だったらキメルは自分を頼ってくれたかもしれない。
だが、ないものねだりをしても意味がない。
「星時計…一体何なのでしょう」
ふ、とソータはハンガーにかかっていた制服の胸ポケットに何かが入っているのに気が付いた。取り出すと星型の時計である。ぜんまい式の凝った造りの時計だった。
「まさか、これが?いつの間に?」
先程キメルに会った時だろうか。キメルは今頃どうしているだろう。もし万が一のことがあったらどうしようとソータは居ても立っても居られなくなった。自分はキメルを信じている。その言葉に嘘や偽りは一切ない。だが、キメルがもし死んでしまったら?ソータは星時計を手に走り出した。
「パペ!パペ!!起きてる?お願い、返事して!」
ソータが向かったのはパペの部屋である。
「ソータナレア様、どうされましたか?」
「これ…見て」
「アンティーク…でしょうか?」
パペも壊さないようにとそっと星時計をソータの手から持ち上げる。
「ちょっと見てみますので、ソータナレア様はそこに掛けてください」
パペにベッドを示され、ソータはそこに座った。パペは拡大鏡を使い、中を見ている。
「すごく凝った作りですね。良く出来ています」
「キメルがこれを置いていったの」
パペがソータを見つめた。何かあったのかと問う視線にソータは事情を説明した。
「タイタン…そいつらがキメル様を…」
「私も詳しくは分からないの。シンラ様にはタイタンに近付いちゃいけないって言われてしまった。でも私、今すぐキメルに会いたい」
「ソータナレア様、落ち着いてください。キメル様は強いでしょう?正直に申し上げますと、キメル様は幻獣ではありませんよ」
「え?」
ソータはパペの顔を見つめた。今までずっと不思議に思っていたがようやく頭の中で不明瞭だったピースがカチリとハマったような気がした。
「キメルが幻獣じゃない?じゃあ…」
「はい。かなり格の高い神です。ソータナレア様のお傍にいたかったと言っておられました」
「キメルは本当に私を大事にしてくれて」
「はい。存じておりますよ。他の神々が、キメル様ばかりソータナレア様を独り占めにしてずるいと文句を言っておられました」
ソータはそれに顔が熱くなった。
「き、キメルは私を子供みたいに思って…!」
「それはないですよ」
パペが静かに言う。
「ソータナレア様、あなたはキメル様の心を射止めたのです。次は貴女が自覚しなければ…」
「じ、自覚って…」
「慌てなくて大丈夫ですよ。そんなソータナレア様だからキメル様は貴女を選んだのですから」
「…パペって大人だね」
「私など取るに足りません」
パペはしばらく時計を拡大鏡で見ていた。
「この時計には、なにかのからくりがあるみたいですね」
「からくり?」
「はい、時計の中に何かが入っています」
この短時間の間にパペはここまで見抜いてしまうのだからすごい、とソータは思う。
「それってお宝?なのかな?だからキメルを狙ったのかも」
「キメル様は相手を撹乱している最中でしょうね。ソータナレア様にこれを預けている時点で時間稼ぎをしようとしているのでは?」
「キメルは反撃の機会を窺ってるってこと?」
「そうなります。何か勝算があるのかもしれません。ただタイタンに関する情報が少なすぎて」
パペがふと固まった。ソータはどうしたのだろう、とパペの顔を覗き込む。
「シヴァ様より情報が共有されました。タイタンはかなり過激な組織のようです。人を神の名のもとに洗脳しそれを受け入れられない人を殺めている」
パペの言葉にソータは気分が悪くなった。
「西北の神々はそれを望んでいるのですか?」
「神々は現在、何かの力によって封印されているようです。もしかしたら操られている可能性も視野に入れないと」
「そんな…」
「とにかく星時計を隠しましょう。これがタイタンの手に渡ればろくでもないことが起きる。そんな気がします」
「うん、でもどこに?」
パペは頷いた。
キメルを見送った後、ソータは鏡を見つめていた。どう見ても15歳とは思えない小さな体が恨めしい。サラに言われたことをソータは思い出していた。生きているなら間違えることもあるし、間違いに気が付いたら選択を変えられる、ソータからしたらこんな考え方は目から鱗だった。
「ソータ、入るぜ」
コンコンとノックされて声がかかる。ソータは知っている気配に振り返った。そこにいたのは神であるシンラだ。人々はシンラを気まぐれが歩いていると評するのだ。人を自分の気分次第で助けたり助けなかったりする。そんな神としてシンラは人々の間で知られている。だがそんな面も愛されている。神というよりマスコットのような愛され方をしている稀有な神だ。
「シンラ様!ご無事だったのですね!」
シンラは困ったように辺りを見回して、じっとソータを見つめた。
「あー、なんか大変なことになってたみたいだな。俺はちょっとあちこち見て回ってて、ソータがここに来てるって聞いて慌てて来た」
ソータはシンラの傍に寄り添った。シンラがそれに赤くなる。
「そのお話、詳しく聞かせてください!」
「う…あ、ああ」
シンラは本当にあちこちを見てきたらしい。西北の戦争のことは辛そうにポツポツ話した。ソータは途中でお茶を淹れてシンラをもてなした。シンラも沢山話して喉が乾いていたのだろう。熱いお茶をちびちび飲みながら話し続けた。
「あの、シンラ様はタイタンっていう組織を知っていますか?」
「…知っている。ソータみたいな可愛い女の子は近づいちゃいけない、絶対に」
「実は…」
ソータはシンラにキメルのことを話した。
「兄貴がそんなことを…星時計…か」
シンラは何かを知っているらしい。
「星時計ってなんですか?」
ソータが尋ねると、シンラはバッと立ち上がった。
「キメルの兄貴がソータに話さないと決めたなら俺からは話せねえ。兄貴なら大丈夫。ソータは兄貴をただ待っていればいい」
シンラが早々に立ち去ってしまい、ソータは落胆した。こんな時、自分が勇猛な男性だったらキメルは自分を頼ってくれたかもしれない。
だが、ないものねだりをしても意味がない。
「星時計…一体何なのでしょう」
ふ、とソータはハンガーにかかっていた制服の胸ポケットに何かが入っているのに気が付いた。取り出すと星型の時計である。ぜんまい式の凝った造りの時計だった。
「まさか、これが?いつの間に?」
先程キメルに会った時だろうか。キメルは今頃どうしているだろう。もし万が一のことがあったらどうしようとソータは居ても立っても居られなくなった。自分はキメルを信じている。その言葉に嘘や偽りは一切ない。だが、キメルがもし死んでしまったら?ソータは星時計を手に走り出した。
「パペ!パペ!!起きてる?お願い、返事して!」
ソータが向かったのはパペの部屋である。
「ソータナレア様、どうされましたか?」
「これ…見て」
「アンティーク…でしょうか?」
パペも壊さないようにとそっと星時計をソータの手から持ち上げる。
「ちょっと見てみますので、ソータナレア様はそこに掛けてください」
パペにベッドを示され、ソータはそこに座った。パペは拡大鏡を使い、中を見ている。
「すごく凝った作りですね。良く出来ています」
「キメルがこれを置いていったの」
パペがソータを見つめた。何かあったのかと問う視線にソータは事情を説明した。
「タイタン…そいつらがキメル様を…」
「私も詳しくは分からないの。シンラ様にはタイタンに近付いちゃいけないって言われてしまった。でも私、今すぐキメルに会いたい」
「ソータナレア様、落ち着いてください。キメル様は強いでしょう?正直に申し上げますと、キメル様は幻獣ではありませんよ」
「え?」
ソータはパペの顔を見つめた。今までずっと不思議に思っていたがようやく頭の中で不明瞭だったピースがカチリとハマったような気がした。
「キメルが幻獣じゃない?じゃあ…」
「はい。かなり格の高い神です。ソータナレア様のお傍にいたかったと言っておられました」
「キメルは本当に私を大事にしてくれて」
「はい。存じておりますよ。他の神々が、キメル様ばかりソータナレア様を独り占めにしてずるいと文句を言っておられました」
ソータはそれに顔が熱くなった。
「き、キメルは私を子供みたいに思って…!」
「それはないですよ」
パペが静かに言う。
「ソータナレア様、あなたはキメル様の心を射止めたのです。次は貴女が自覚しなければ…」
「じ、自覚って…」
「慌てなくて大丈夫ですよ。そんなソータナレア様だからキメル様は貴女を選んだのですから」
「…パペって大人だね」
「私など取るに足りません」
パペはしばらく時計を拡大鏡で見ていた。
「この時計には、なにかのからくりがあるみたいですね」
「からくり?」
「はい、時計の中に何かが入っています」
この短時間の間にパペはここまで見抜いてしまうのだからすごい、とソータは思う。
「それってお宝?なのかな?だからキメルを狙ったのかも」
「キメル様は相手を撹乱している最中でしょうね。ソータナレア様にこれを預けている時点で時間稼ぎをしようとしているのでは?」
「キメルは反撃の機会を窺ってるってこと?」
「そうなります。何か勝算があるのかもしれません。ただタイタンに関する情報が少なすぎて」
パペがふと固まった。ソータはどうしたのだろう、とパペの顔を覗き込む。
「シヴァ様より情報が共有されました。タイタンはかなり過激な組織のようです。人を神の名のもとに洗脳しそれを受け入れられない人を殺めている」
パペの言葉にソータは気分が悪くなった。
「西北の神々はそれを望んでいるのですか?」
「神々は現在、何かの力によって封印されているようです。もしかしたら操られている可能性も視野に入れないと」
「そんな…」
「とにかく星時計を隠しましょう。これがタイタンの手に渡ればろくでもないことが起きる。そんな気がします」
「うん、でもどこに?」
パペは頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる
腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。
荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる