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もうすぐ昼という頃、フレンは自宅でコーヒーを飲みながら新聞を眺めていた。ある記事を読んでいたのだ。それは謎の爆発を報じたものだった。写真もあることにはあるが、ほとんど見えない。この世界の宇宙への進出はまだ先の話になりそうだ。まあそれも仕方がない。神々が当たり前のようにいるこの世界では。
「フレンー、来たよー!」
コツコツとドアをノックしながらリヒが呼んでいる。フレンは玄関に向かった。リヒを家に入れる、その後ろからパぺがついて来た。リヒの後ろにいたらしい。
「そこでちょうどパぺに会ったんだ」
「そうか。リヒはいつものカフェオレか?パぺは珈琲でいいか?甘くていいならカフェオレにするけど」
「あ、私のことはお構いなく」
パぺの返しにフレンは笑った。
「まあそう言うなよ。俺の淹れる珈琲は美味いぞ」
「そうだよ。パぺ。苦いのが苦手な僕ですら飲めるんだから」
「で、ではカフェオレを頂きます」
フレンは頷いてキッチンに向かった。二人分のミルクを温め始める。
「ソータたち今、どうしてるんだろう。隕石のことで皆がパニックにならなかったのはよかったけど」
「本当ですね。多分今日には帰って来ると思いますよ。昨日はバタバタしましたからね」
「56号が狙ってるって言葉、謎だよな?」
フレンはパぺとリヒにそれぞれマグカップを差し出した。リヒはふうふうと息をかけて冷ましている。パぺがこくりと一口飲んで声を上げた。
「美味しい」
「だろう?俺の唯一の特技でな」
「フレン様は色々出来るのに」
フレンは笑った。ふと時計を見る。
「あ、そろそろ昼か。なんか食いたいもんあるか?俺でいいなら作るけど」
「はーい、僕トマトパスタがいい!ソーセージ多めで」
「お前はまたそれか。ハマってるもんしか食わないのやめろよな」
フレンがそう言うとリヒがむくれる。
「いいじゃん、好きなんだもん」
「パぺもそれでいいか?」
「はい。ご飯まですみません」
「良いんだよ。俺が好きでやってるんだから」
フレンが手際よく野菜やソーセージをカットし、鼻歌を歌いながら炒めているとパぺが声を上げた。
「ソータナレア様から連絡が来ました。今、聖域を出発されたようです」
「お、キメルのことだ。すぐ帰って来るな。パペ、ソータたちに昼飯は食ったのか聞いてくれるか?」
「はい」
フレンはトマトが丸ごと入った缶詰を開けてフライパンに全て空けた。ジュワアアアという美味しそうな音がしている。
「食べたけどまだ食べます、だそうです」
フレンは笑ってしまった。
「懐かしいな。アオナの聖域に勉強に行った時、食う物がなくていつも腹減らしてたよ。ソータとあちこち生えている野草を食べてみたりキノコを探したりな」
「それはなかなか過酷ですね」
パペが青ざめている。彼がこうして少しでも表情を変えてくれるのが見ていて面白い。
「とにかくソータが大変だったんだ」
「ソータナレア様が?」
フレンは思わず噴き出してしまった。今、はっきり思い出したのだ。
「ソータは毒のある草でもキノコでもなんでも口に入れちまって…」
「そ…それは」
「最終的には毒に慣れてなんでも食えるようになっちまった」
パペは口を開けたまま固まった。
「し、信じられません。あの可憐なソータナレア様が」
パペが喘ぐように言う。フレンはその様子に笑った。
「ソータは結構お転婆な子だぞ。あのでかいキメルと対等に遊べるしな」
「確かに…」
「そこがまた可愛いんだけどね、ソータは」
ふふ、とリヒが笑う。温かくて甘いカフェオレを堪能しているようだ。
「ほい、トマトパスタ出来たぞ」
「わー、待ってましたー!」
「い、頂きます」
フレンのトマトパスタは彼の得意料理の一つである。フレンはソータのように食事に特別な制限は設けていない。だからこそ食材を無駄にしないよう気を付けている。野菜の皮などはすぐには捨てず、干してから出汁を取るのに使うなどの徹底ぶりだ。
「フレンの作るご飯、あったかくて好きなんだよねー」
フォークでパスタの麺を巻き付けながらリヒが言った。
「え、確かに温かいですが…」
困惑しているパペをよそに、リヒがあーんと麺を頬張る。
「ほうひふこほじゃはふて」
「リヒー、飲み込んでから喋れー」
フレンが苦笑しながら突っ込んだ。ごくん、とリヒが麺を飲み込む。
「そういうことじゃなくて、お料理にフレンの優しい感じが入ってるって思わない?
今、僕いいこと言ったよね!流石僕!」
リヒがえへんと得意そうに言う。
「うん、リヒ。そういうとこだぞー」
「リヒ様は本当にぶれませんね」
「え!すごい褒められてる!」
褒めてはいないのだが、フレンもパペも敢えて言わなかった。リヒはこういう人である。多分もう直らないだろう。
「パペー!ただいまー!」
パペはハッとなって窓に近寄った。キメルが調度着地をするところだった。
「お、腹ペコ共が帰ってきたか」
フレンが楽しそうに笑う。
「ソータナレア様!ロニ!キメル様も!!」
パペはフレンの家を出て3人に駆け寄った。
「ご無事で何よりでした!」
「うん、また会えてよかったよ!あー、お腹空いた!!」
ロニが腹を抑えている。よほど腹が減っているのだろう。
「今、フレン様がお食事をご用意してくださってます」
「わ、フレンさんのご飯嬉しい!」
「ソータナレア様も中…」
パペは驚いた。ソータに急に抱き着かれたからだ。
「怖かった」
ふるふる、とソータが震えている。パペはソータの背中を撫でた。
「もう大丈夫ですよ」
「うん。急にごめんなさい」
パペから離れたソータはもう笑顔だった。
「フレンー、来たよー!」
コツコツとドアをノックしながらリヒが呼んでいる。フレンは玄関に向かった。リヒを家に入れる、その後ろからパぺがついて来た。リヒの後ろにいたらしい。
「そこでちょうどパぺに会ったんだ」
「そうか。リヒはいつものカフェオレか?パぺは珈琲でいいか?甘くていいならカフェオレにするけど」
「あ、私のことはお構いなく」
パぺの返しにフレンは笑った。
「まあそう言うなよ。俺の淹れる珈琲は美味いぞ」
「そうだよ。パぺ。苦いのが苦手な僕ですら飲めるんだから」
「で、ではカフェオレを頂きます」
フレンは頷いてキッチンに向かった。二人分のミルクを温め始める。
「ソータたち今、どうしてるんだろう。隕石のことで皆がパニックにならなかったのはよかったけど」
「本当ですね。多分今日には帰って来ると思いますよ。昨日はバタバタしましたからね」
「56号が狙ってるって言葉、謎だよな?」
フレンはパぺとリヒにそれぞれマグカップを差し出した。リヒはふうふうと息をかけて冷ましている。パぺがこくりと一口飲んで声を上げた。
「美味しい」
「だろう?俺の唯一の特技でな」
「フレン様は色々出来るのに」
フレンは笑った。ふと時計を見る。
「あ、そろそろ昼か。なんか食いたいもんあるか?俺でいいなら作るけど」
「はーい、僕トマトパスタがいい!ソーセージ多めで」
「お前はまたそれか。ハマってるもんしか食わないのやめろよな」
フレンがそう言うとリヒがむくれる。
「いいじゃん、好きなんだもん」
「パぺもそれでいいか?」
「はい。ご飯まですみません」
「良いんだよ。俺が好きでやってるんだから」
フレンが手際よく野菜やソーセージをカットし、鼻歌を歌いながら炒めているとパぺが声を上げた。
「ソータナレア様から連絡が来ました。今、聖域を出発されたようです」
「お、キメルのことだ。すぐ帰って来るな。パペ、ソータたちに昼飯は食ったのか聞いてくれるか?」
「はい」
フレンはトマトが丸ごと入った缶詰を開けてフライパンに全て空けた。ジュワアアアという美味しそうな音がしている。
「食べたけどまだ食べます、だそうです」
フレンは笑ってしまった。
「懐かしいな。アオナの聖域に勉強に行った時、食う物がなくていつも腹減らしてたよ。ソータとあちこち生えている野草を食べてみたりキノコを探したりな」
「それはなかなか過酷ですね」
パペが青ざめている。彼がこうして少しでも表情を変えてくれるのが見ていて面白い。
「とにかくソータが大変だったんだ」
「ソータナレア様が?」
フレンは思わず噴き出してしまった。今、はっきり思い出したのだ。
「ソータは毒のある草でもキノコでもなんでも口に入れちまって…」
「そ…それは」
「最終的には毒に慣れてなんでも食えるようになっちまった」
パペは口を開けたまま固まった。
「し、信じられません。あの可憐なソータナレア様が」
パペが喘ぐように言う。フレンはその様子に笑った。
「ソータは結構お転婆な子だぞ。あのでかいキメルと対等に遊べるしな」
「確かに…」
「そこがまた可愛いんだけどね、ソータは」
ふふ、とリヒが笑う。温かくて甘いカフェオレを堪能しているようだ。
「ほい、トマトパスタ出来たぞ」
「わー、待ってましたー!」
「い、頂きます」
フレンのトマトパスタは彼の得意料理の一つである。フレンはソータのように食事に特別な制限は設けていない。だからこそ食材を無駄にしないよう気を付けている。野菜の皮などはすぐには捨てず、干してから出汁を取るのに使うなどの徹底ぶりだ。
「フレンの作るご飯、あったかくて好きなんだよねー」
フォークでパスタの麺を巻き付けながらリヒが言った。
「え、確かに温かいですが…」
困惑しているパペをよそに、リヒがあーんと麺を頬張る。
「ほうひふこほじゃはふて」
「リヒー、飲み込んでから喋れー」
フレンが苦笑しながら突っ込んだ。ごくん、とリヒが麺を飲み込む。
「そういうことじゃなくて、お料理にフレンの優しい感じが入ってるって思わない?
今、僕いいこと言ったよね!流石僕!」
リヒがえへんと得意そうに言う。
「うん、リヒ。そういうとこだぞー」
「リヒ様は本当にぶれませんね」
「え!すごい褒められてる!」
褒めてはいないのだが、フレンもパペも敢えて言わなかった。リヒはこういう人である。多分もう直らないだろう。
「パペー!ただいまー!」
パペはハッとなって窓に近寄った。キメルが調度着地をするところだった。
「お、腹ペコ共が帰ってきたか」
フレンが楽しそうに笑う。
「ソータナレア様!ロニ!キメル様も!!」
パペはフレンの家を出て3人に駆け寄った。
「ご無事で何よりでした!」
「うん、また会えてよかったよ!あー、お腹空いた!!」
ロニが腹を抑えている。よほど腹が減っているのだろう。
「今、フレン様がお食事をご用意してくださってます」
「わ、フレンさんのご飯嬉しい!」
「ソータナレア様も中…」
パペは驚いた。ソータに急に抱き着かれたからだ。
「怖かった」
ふるふる、とソータが震えている。パペはソータの背中を撫でた。
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