85 / 92
85
しおりを挟む
「ソータ、どう思う?」
ソータを背に乗せてキメルは空中を疾走している。二人きりになるのは久しぶりだ。
「うーん、技術の漏洩はよくないけど、世界に広めた方がもっと技術が研鑽されるんじゃないかな?」
「あぁ、俺もそう思う。龍の里の爺共は俺の爺と同じで頭がカチコチなんだろうよ」
「キメルのお祖父様はまだ物わかりが良かったような気が…」
「爺は爺だ。とりあえず中央都市に向かうぜ。魔剣を扱う店が出来たって前にロニが言ってたからな」
「そんなお店があるの?」
「どうも露店らしいんだ。あちこちを転々としているらしい、なんだか怪しくないか?」
「怪しい」
「ソータ、飛ばす。気を付けろよ」
「うん」
キメルは更にスピードを上げた。
✢✢✢
「ソータ!お帰り!」
キメルとソータは中央都市の教会にいた。フレン、ロニ、パペが出迎えてくれる。中央都市の復興は神々と人びとの力により、随分進んでいる。
「あ、えーと、ただいま」
なんだか照れ臭いが安心する場所に帰ってきたという感覚は悪くない。
「キメル様の力が以前より強くなっていますね」
パペが表情を変えずに言う。
「あ、やっぱりそうなんだ!俺の気のせいじゃなかった!」
「ロニはそういうのも分かるようになったんだな」
偉いぞとフレンがロニの頭を撫でる。
「あのね、ロニ。魔剣のお店のこと、教えてもらっていい?」
ソータの言葉にロニが元気よく頷く。紙を取り出してさらさらと中央都市の地図を描いている。
「この店、曜日によって店を出す場所を変えているみたいなんだ。あと、中央都市以外にも支店があるって自慢された」
キメルとソータは顔を見合わせた。
「魔剣の実物は見たことあるか?」
「え?ないよー。すごく高級品だから本当に買える人にしか見せないとか言ってさ。けちんぼだよね」
むうう、とロニが唇を尖らせる。
「支店の場所は分かるか?」
「うん、ちゃんと地図を見たから覚えてる」
「すげえな、ロニ」
フレンが呟いて、ロニがてへ、と照れ笑いした。
ロニが支店の場所も地図に書き込んでくれる。
「よし、今日は中央都市に店を出してるみたいだな。とりあえず突撃してみるか」
「一体何があったんだ?」
フレンの疑問も最もである。
「実は…」
ソータが真龍族の揉め事について話した。
「技術の授受に関しては本当に難しいからなあ。真龍が絡んでるとなると、結構面倒なことになるんじゃ…」
「俺もそうは思うんだが、ルーゴにドラゴの面倒を看てもらってるからな」
「キメルらしいな」
ふは、とフレンが笑う。
「じゃあ俺たちはその店に行ってみる」
キメルが人型になった。ソータはこの姿のキメルを見ると、なんだかソワソワしてしまう。キメルであることは分かってはいるのだが、まだ慣れない。
「ソータ行くぞ」
「う、うん」
キメルの後をソータは追い掛けた。
「ソータ、どうした?俺が怖いのか?」
オロオロしだしたキメルにソータは視線を合わせられなかった。
「こ、怖いんじゃないよ。キメルがかっこいいからドキドキして」
「ソータ」
キメルがソータを抱き締める。わ、とソータは小さく叫んだ。
「お前にはもっとかっこいい俺を見てもらいたい」
「うん」
ソータが笑うと、キメルがソータの頭を撫でる。
「よし、行くぞ」
二人は店へ急いだ。確かに言われていた場所に露店がある。二人は建物の陰からその店を窺った。
「キメル、私が中を見てこようか?キメルは真龍とつながりがあるものね」
「でも危なくないか?」
ソータはとん、と胸を叩いた。
「私が強いってキメルは知ってるでしょう?」
「でも…」
「キーメールー、私を信じないのー?」
「いや、そんなことは…」
じゃあいいよね、とソータは笑った。
「すぐ戻って来るからそこにいてね」
「あぁ」
ソータは露店に駆け寄った。
✢✢✢
「らっしゃい」
ソータが露店に入ると薄暗い。香を炊いているのか甘い匂いが充満している。ソータは迷わずカウンターに向かった。そこにいたのは顔にペイントを入れた男である。
「魔剣を見せて頂けませんか?」
「魔剣は高級品だからね。金が先だ」
ふうむ、とソータは考えた。自分は残念ながら金をろくに持っていない。ソータは交渉してみることにした。
「僕はまだ見習いなのでお金はありませんが、将来には魔剣を所持したいと思っています」
「ほう。君は魔導士に見えるけれど?」
「確かに僕は魔法の方が得手ですが、魔剣は魔力次第で色々な戦いが出来ると知りました」
「よく魔剣の特徴を知っているようだ」
店主が機嫌良く笑う。
「いいだろう、君の後学のために見せてあげよう」
店主が指を鳴らすと魔剣の入った箱たちが並ぶ。
ソータは気を張った。真龍の気配を探る。
「僕は真龍族の造ったものが欲しいのです」
「ふうん、なかなかお目が高いね。君が一人前になるより先になくなってしまうんじゃないかな」
「どういうことでしょうか?」
「真龍族の技術者は減っているだろう?私はこの間二本仕入れたが、魔剣としてギリギリというレベルだった。あぁ、そうだ。代わりに文句を言ってきてくれないか?」
ここだよ、と渡されたのは名刺だった。ソータはそれを受け取る。
「ありがとうございます。あの店主様のお名前は?」
「ラコスタだよ」
「承知致しました。その魔剣ですが、取り置いていただくことは可能ですか?」
「…まあ、構わないけれど」
「ありがとうございます。また報告に参ります」
ソータは店を後にする。
ソータを背に乗せてキメルは空中を疾走している。二人きりになるのは久しぶりだ。
「うーん、技術の漏洩はよくないけど、世界に広めた方がもっと技術が研鑽されるんじゃないかな?」
「あぁ、俺もそう思う。龍の里の爺共は俺の爺と同じで頭がカチコチなんだろうよ」
「キメルのお祖父様はまだ物わかりが良かったような気が…」
「爺は爺だ。とりあえず中央都市に向かうぜ。魔剣を扱う店が出来たって前にロニが言ってたからな」
「そんなお店があるの?」
「どうも露店らしいんだ。あちこちを転々としているらしい、なんだか怪しくないか?」
「怪しい」
「ソータ、飛ばす。気を付けろよ」
「うん」
キメルは更にスピードを上げた。
✢✢✢
「ソータ!お帰り!」
キメルとソータは中央都市の教会にいた。フレン、ロニ、パペが出迎えてくれる。中央都市の復興は神々と人びとの力により、随分進んでいる。
「あ、えーと、ただいま」
なんだか照れ臭いが安心する場所に帰ってきたという感覚は悪くない。
「キメル様の力が以前より強くなっていますね」
パペが表情を変えずに言う。
「あ、やっぱりそうなんだ!俺の気のせいじゃなかった!」
「ロニはそういうのも分かるようになったんだな」
偉いぞとフレンがロニの頭を撫でる。
「あのね、ロニ。魔剣のお店のこと、教えてもらっていい?」
ソータの言葉にロニが元気よく頷く。紙を取り出してさらさらと中央都市の地図を描いている。
「この店、曜日によって店を出す場所を変えているみたいなんだ。あと、中央都市以外にも支店があるって自慢された」
キメルとソータは顔を見合わせた。
「魔剣の実物は見たことあるか?」
「え?ないよー。すごく高級品だから本当に買える人にしか見せないとか言ってさ。けちんぼだよね」
むうう、とロニが唇を尖らせる。
「支店の場所は分かるか?」
「うん、ちゃんと地図を見たから覚えてる」
「すげえな、ロニ」
フレンが呟いて、ロニがてへ、と照れ笑いした。
ロニが支店の場所も地図に書き込んでくれる。
「よし、今日は中央都市に店を出してるみたいだな。とりあえず突撃してみるか」
「一体何があったんだ?」
フレンの疑問も最もである。
「実は…」
ソータが真龍族の揉め事について話した。
「技術の授受に関しては本当に難しいからなあ。真龍が絡んでるとなると、結構面倒なことになるんじゃ…」
「俺もそうは思うんだが、ルーゴにドラゴの面倒を看てもらってるからな」
「キメルらしいな」
ふは、とフレンが笑う。
「じゃあ俺たちはその店に行ってみる」
キメルが人型になった。ソータはこの姿のキメルを見ると、なんだかソワソワしてしまう。キメルであることは分かってはいるのだが、まだ慣れない。
「ソータ行くぞ」
「う、うん」
キメルの後をソータは追い掛けた。
「ソータ、どうした?俺が怖いのか?」
オロオロしだしたキメルにソータは視線を合わせられなかった。
「こ、怖いんじゃないよ。キメルがかっこいいからドキドキして」
「ソータ」
キメルがソータを抱き締める。わ、とソータは小さく叫んだ。
「お前にはもっとかっこいい俺を見てもらいたい」
「うん」
ソータが笑うと、キメルがソータの頭を撫でる。
「よし、行くぞ」
二人は店へ急いだ。確かに言われていた場所に露店がある。二人は建物の陰からその店を窺った。
「キメル、私が中を見てこようか?キメルは真龍とつながりがあるものね」
「でも危なくないか?」
ソータはとん、と胸を叩いた。
「私が強いってキメルは知ってるでしょう?」
「でも…」
「キーメールー、私を信じないのー?」
「いや、そんなことは…」
じゃあいいよね、とソータは笑った。
「すぐ戻って来るからそこにいてね」
「あぁ」
ソータは露店に駆け寄った。
✢✢✢
「らっしゃい」
ソータが露店に入ると薄暗い。香を炊いているのか甘い匂いが充満している。ソータは迷わずカウンターに向かった。そこにいたのは顔にペイントを入れた男である。
「魔剣を見せて頂けませんか?」
「魔剣は高級品だからね。金が先だ」
ふうむ、とソータは考えた。自分は残念ながら金をろくに持っていない。ソータは交渉してみることにした。
「僕はまだ見習いなのでお金はありませんが、将来には魔剣を所持したいと思っています」
「ほう。君は魔導士に見えるけれど?」
「確かに僕は魔法の方が得手ですが、魔剣は魔力次第で色々な戦いが出来ると知りました」
「よく魔剣の特徴を知っているようだ」
店主が機嫌良く笑う。
「いいだろう、君の後学のために見せてあげよう」
店主が指を鳴らすと魔剣の入った箱たちが並ぶ。
ソータは気を張った。真龍の気配を探る。
「僕は真龍族の造ったものが欲しいのです」
「ふうん、なかなかお目が高いね。君が一人前になるより先になくなってしまうんじゃないかな」
「どういうことでしょうか?」
「真龍族の技術者は減っているだろう?私はこの間二本仕入れたが、魔剣としてギリギリというレベルだった。あぁ、そうだ。代わりに文句を言ってきてくれないか?」
ここだよ、と渡されたのは名刺だった。ソータはそれを受け取る。
「ありがとうございます。あの店主様のお名前は?」
「ラコスタだよ」
「承知致しました。その魔剣ですが、取り置いていただくことは可能ですか?」
「…まあ、構わないけれど」
「ありがとうございます。また報告に参ります」
ソータは店を後にする。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
追放された元聖女は、イケメン騎士団の寮母になる
腐ったバナナ
恋愛
聖女として完璧な人生を送っていたリーリアは、無実の罪で「はぐれ者騎士団」の寮へ追放される。
荒れ果てた場所で、彼女は無愛想な寮長ゼノンをはじめとするイケメン騎士たちと出会う。最初は反発する彼らだが、リーリアは聖女の力と料理で、次第に彼らの心を解きほぐしていく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる