カラスの月夜

はやしかわともえ

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タイムスリップ

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なんだか額がひんやりする。俺はどうしたんだっけ?
ふと目を開けると頭に何かが載っている。なんだ?タオル?

「あ、月夜起きた」

この声は?俺は起き上がろうとしてぐらついた。

「駄目だよ、まだ無理しちゃ」

この声、話し方。もしかして?

俺はタオルを取った。視界が開ける。
そこにいたのは茉莉也だった。

「茉莉也?」

彼は笑う。
でもなんかおかしい。なんか茉莉也がいつもより大きいし。

「よく俺だってわかったね」

そう言う茉莉也はやっぱり茉莉也だった。
でも。

「茉莉也が大人になってる!」

茉莉也は笑っていた。

「月夜、君は未来にタイムスリップしたんだよ。わかる?」

「えええ」

タイムスリップってなんだ?なんで俺はこんなところにいるんだ。
一人でパニックになっているとばあさんがやってきた。

「月夜、お前さん、力を失いかけているぞ」

「ええ」

それにも驚きだ。
そこまで俺はだめになってるのか?

「もうおばあちゃん、月夜が怖がるじゃん。大丈夫だよ、俺が力を取り戻すの、手伝ってあげる」

女将さんが言ったのはこういうことだったのか。

「茉莉也、俺」

「あの時本当に悲しかったよ。月夜が俺に何も言わないでいなくなったと思ったから」

「ごめん」

茉莉也は俺に抱き着いてきた。

「月夜、大丈夫。力はすぐ取り戻せるよ」

茉莉也がこう言ってくれて本当に救われた。

「俺はどうすれば?」

「とにかく休め」

「え?」


ばあさんが俺の額にしわくちゃの手を押し当ててきた。

「まだ熱が下がらん。茉莉也、氷だ」

「わかった」

俺はまた寝かされて額にタオルと氷嚢を当てられた。

「茉莉也?」

心配になって声をかけると、茉莉也が頭を撫でてくれる。

「大丈夫。今は体を休めよう」

俺はしばらく部屋を眺めていた。
なにも変わっていない。
変わったのは茉莉也だ。

あんなにかっこよくなっているなんて。
ドキドキする。
茉莉也が側にいてくれる。
ほっとしたら眠気がやってきた。
今は眠ろう。
その方がきっと治りも早いはずだ。

(茉莉也にまた会えて嬉しい)

俺は目を閉じた。


気が付くと朝になっていた。
なにやら騒がしい。
ばたばたと茉莉也が駆け回っている。
俺はびっくりして飛び起きた。

「おはよう、月夜。今ごめん忙しい」

「兄ちゃん!早く弁当!」

「わかってる!」

俺はその光景をぼんやり眺めていた。弟くんがすごく大きくなっている。
茉莉也が大人になってるんだから当たり前だけど。
弟くんは小学生くらいだろうか。リュックサックを背負っている。

「今日、薫が遠足なんだよ」

茉莉也にコソっと言われる。
そんな大事な時に俺は来てしまったのか。
ちょっと自己嫌悪にやられていると茉莉也が俺の前にお盆を持ってきた。

「月夜はお粥ね」

「茉莉也?」

「はい、あーん」


恥ずかしい。
それでも俺は口を開けた。

お粥はすごく美味しかった。塩加減が絶妙だ。
茉莉也は料理も上手だし、本当にすごい。

「月夜、全部食べられたね。よかった」

にっこり茉莉也が言う。食欲があるし大丈夫そうだと自分でも分かった。
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