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一章

二話・シン

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アデス国の面積の半分以上がブドウ畑だと周りの国民から揶揄されるほど、アデス国のブドウ畑は広い。アデス城で管理しているブドウ畑だけでも約300ヘクタールある。シンを中心に城の関係者数名で面倒をみている。これがなかなかの激務であることは間違いない。

「あ、シンさーん!」

「姫様も!」

シンとサーラに気安く声を掛けてくる少年たちは、料理人見習いのトマとリズである。彼らもまた城に仕えている。プロの料理人になるための勉強をしながら、城の雑務をこなす日々だ。シンとサーラも二人に手を振り返した。

「トマ、リズ、なんかあった?」

「ブドウの実が割れてるやつがあってじいちゃんたちが売り物にならないって…」

「せっかく面倒みてきたのに」

トマとリズがあーあとため息を吐いている。最近の長雨の影響だろう。シンはそんな二人に笑い掛けた。

「大丈夫。しっかり干して加工すれば売り物になるから」 

トマとリズがハッとする。

「そうですよね!パンにたっぷり入れたらきっと美味いぞ!」

「さすがシンさん!」

「僕をおだてても何も出ないからな」

トマとリズがお互いを見つめ合って噴き出した。

「シンさん照れてる!」

「姫様の前だからだな!」

「こら、二人共」

サーラはトマとリズの前に一歩進み出た。

「私にもなにか、お手伝いをさせて欲しい」

二人が神妙な面立ちになる。まだトマとリズとは知り合ったばかりだ。サーラとしては身分など関係なく仲良くなりたいのだが、トマとリズはそう思っていないらしい。二人はサーラを前にすると緊張する。それがサーラには寂しかった。

「サーラにはアデスシャインの収穫を手伝ってほしいんだ」

見かねたシンがサーラに声を掛ける。サーラはシンの後を付いていった。トマとリズもついてくるので、嫌われているわけではないとサーラはそっと安堵感を覚える。アデスシャインは緑色の実がパンパンに膨れた美味しそうなブドウだった。
ハサミで収穫するらしい。シンにハサミを借りたサーラは収穫作業を始めた。これがなかなか楽しい。手を上げていなければいけないので、もちろん疲労はするが、美味しそうなブドウをこれから出荷すると思うとワクワクする。

「サーラ様は他の国の姫様となんか違いますね」

ぽつ、とリズが呟いて、それにトマが頷いた。

「普通、姫様って金遣い荒くないです?」

サーラとしても他の国の姫がどうなのかは分からないので答えられなかった。

「まあこうやってブドウの収穫はしないよね」

シンが話に加わってくる。サーラは自分が間違っているのかと焦った。

「でもサーラはこういうお姫様なの。二人共、仲良くしたげてね」

シンがトマとリズに笑いながら言うと、二人は微笑んで頷いてくれた。
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