真実のひとつ

はやしかわともえ

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ロイヤル

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パソコンのキーボードを叩きながらあたしはちらり、と壁に掛かっている時計を見た。
もうすぐお昼だ。
その前にこの仕事を終わらせてしまいたい。
今日も絶賛労働中だ。

冬が来たと思ったら、もうすぐ春になる。
時が経つのはあっという間だな。

(夏が来るのもあっという間なんだろうな)

そしたら、葵のバンドの全国ツアーがまた始まる。
今年も行きたいなぁ。
キーボードを叩きながらぼんやり思う。

(そういえば新しいシングル出るんだった)

今日の帰りにCDショップを覗こうと決意する。
ちゃんと予約しないと特典がもらえない。
あたしの双子の兄、葵はヴィジュアル系バンドのベーシストをしている。
妹のあたしから見ても彼はかっこいい。
あたしは隠れて大ファンだったりする。

「アカリ、お昼どうする?外行く?」

隣から声をかけてきたのは同期のミユキだ。
今日はお弁当を持ってきている。

「あたし、お弁当なんだ」

「じゃあ食堂行こっ」

あたしは頷いた。ミユキはどちらかといえば、派手目な印象があるのに、実際は誰よりも真面目だ。偉いと思う。
ミユキが大盛りの天ぷらうどんを運んできた。
二人でいただきますをする。
ミユキがつるつるうどんをすする。
あたしもおかずのトマトを箸で掴んだ。

「ねぇ、アカリ?お兄さんのCD聞いたよー」

「どうだった?」

あたしが作った訳じゃないけど、気になる。

「うん、よかったよ。あたし、音楽詳しくないけど聞きやすかった」

そう言ってもらえると嬉しい。

「帰ったらアオにいっとく。
喜ぶよ」

「お兄さんがイケメンってうらやましいー」

「でしょー」

「あ、そうそう」

ミユキはぽんと手のひらを叩いて、顔を寄せてきた。どうしたんだろう?
ミユキは小さな声で言った。

「ねえ、新しく入った子のこと知ってる?」

「社長の息子さん、だったっけ?」

あたしが言うとミユキは頷いた。

「そう、その子。コネもそうなんだけど、結構仕事もできるって噂」

「へー」

あんまり噂とか興味ないなあ、とあたしは聞き流した。

「まぁウチの部署とは接点ないしね」

あたしはふと思いついて笑った。

「もしかしてミユキ、その子がタイプ?」

「ち、違うわよ!!」

真っ赤になって否定するのが可愛い。
彼氏かぁ、とあたしはぼんやり思っていた。
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