真実のひとつ

はやしかわともえ

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意外な関係

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仕事も終わって、あたしは会社から数駅離れた大型CDショップに向かった。
ここなら確か特典のブロマイドの他に、全員集合しているポスターも貰えるはずだ。

先にお金だけ払って、あたしはホクホクしながら店を出た。

(めちゃくちゃ楽しみ!)

ふと前を歩いている人を見ると、見覚えのある後ろ姿だ。ゴシックロリータの人なんてこのへんではなかなか見ない。

(もしかして、一津さん?)

もう一人、スーツを着た男の人が一緒にいる。

(マネージャーさんとかかな?)

でも、あたしはなんだか気になって二人をつけた。何もなければそれでいいんだから。

二人は近くにあった喫茶店に入っていく。
あたしもそれに続いた。
そっとそばの席にあたしは座る。

紅茶を頼んで耳をそばだてた。
衝立があるから向こうの様子は見えない。

「しつこいですよ」

声を聞いてはっきりした。一津さんだ。

「でも僕は!」

「だから、しつこいです」

(一津さん、嫌がってる?)

あたしはだんだん心配になってきた。
何かあってからじゃ遅い。
あたしは隣の席に乱入した。

「何してるんですか!」

静かな店内にあたしの声が響く。
しまったー。

「アカリちゃん?なんで?」

一津さんはびっくりしている。

「立花さん?」

あたしはスーツの男をよく見た。
ん?この人、ウチの社長の息子さん?
なんで?
なんでこの二人が一緒なの?



「ご心配をお掛けしました」

「いえ、そんな」

一津さんがぺこり、と頭を下げる。
息子さんはあれから社長さんに呼び出されたとかで、すぐに帰ってしまった。
あたしは席を移動して、一津さんの対面に座っている。

「何があったんですか?あ、話せる範囲でいいんですけど」

一津さんはしばらく考えて、こう言った。

「お付き合いして欲しいと」

「お付き合い?!」

あたしは慌てて口を抑えた。
ちょっと失礼だった。

「すみません、えと」

一津さんは優雅に笑う。

「いいんですよ。私だってびっくりです」

「あ、さっきの人、あたしの会社の人で」

一津さんは首を傾げてみせた。
あたしは順を追って話す。
一津さんにもようやくわかってきたようだ。

「アカリちゃんの会社の社長さんの息子さん。
肩書が長すぎです」

「確かに」

あたしたちはお互いに吹き出してしまった。

「でも一津さん、彼とはどうして?」

一津さんは唸る。
覚えてないくらいの出会いだったんだろうか。

「だめです、思い出せません」

一津さんは両手を上げて、お手上げのポーズをしてみせた。
可愛い。

「確か、お酒の席だったと思うんです」

一津さんは自信なさげだ。

「とにかく面倒なことになってしまいました。何故か彼とデートすることになってしまうし」

おいおい。

あたしが心の中で突っ込んでいると、一津さんはそうだ!と手を打った。
なんか嫌な予感がするけど。
一津さんは花のように笑う。

「もう先約があることにしましょう!アカリちゃんと遊ぶ約束があると!」

(なんかあたし、恨まれそうだな)
なんて思ったけれど、辛うじて口には出さずに済んだ。

「アカリちゃん、お願いします!」

一津さんがこんなにお願いしているのに、見過ごすなんてできない。
あたしは頷いていた。
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