真実のひとつ

はやしかわともえ

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デートの約束

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「え?あーちゃん、それ大丈夫なの?」

お風呂から上がって、あたしは冷蔵庫から牛乳を出していた。
風呂上がりのこの一杯が美味い。
あたしは双子の兄貴の葵に事の顛末を話していた。

「大丈夫かはわからないけど、一津さん困ってるみたいだし」

「だって社長さんの息子なんでしょ?
会社で働きにくくならない?」

「!」

あたしはそこまで考えていなかった。
葵はそんなあたしを見て、ため息をつく。

「あーちゃん、ちゃんと一津さんに断ったほうがいいよ。一津さんだって大人なんだしなんとかするって」

「それもそうなんだけどさ」

葵の言うことは最もだ。最もだけど、一津さんのあのふんわりした雰囲気を思い出す。

「うーん」

あたしが唸ると葵はまたため息をついた。

「もういい。あーちゃんのことだからちゃんと考えてるのは知ってるし、信じてる」

さすが。よく分かっている。

「アオ、ありがとね」

後ろ姿にそう声をかけたら手を振られた。
葵も忙しいんだから、あまり邪魔はできない。
あたしは部屋に戻って椅子に座った。
スマホの画面を見つめる。

(にしても、一津さん、断れたのかな?)

あれから話し合って、先約があることを理由に断ることにしていた。
そろそろ連絡が来るはずだ。
瞬間、スマホが震え始める。一津さんだ!

あたしは電話に出た。

「もしもし?」

「アカリちゃん、困りました」

「一津さん、どうしたんですか?」

実は、と一津さんは言う。

「アカリちゃんも一緒にって言われてしまいました」

「えぇ?!」

それは想定外だった。

「私、困ってしまって」

一津さんがしょんぼりと言う。
あたしはだんだん開き直ってきていた。

「一津さん、三人で行きましょう」

「え?」

「あたしも一緒に断ってあげられます」

「アカリちゃん、ありがとう」

一津さんに日程を聞く。
次の土曜日だ。
あたしはスマホのスケジュール帳に日程を打ち込んだ。
どうやら当日は車移動らしい。
わざわざ家まで迎えに来てくれるそうだ。
それだけ聞くと息子さんはすごく優良物件のような気がする。

(一津さん、なんで嫌なのかな?)

考えたけれど、そんなことわかるはずもなく、あたしは寝ることにした。
明日も仕事だし、今日もなんだかんだ疲れた。

スマホが鳴る。
メッセージアプリの着信だ。

あたしはスマホの画面を見た。

「あーちゃん、がんば」

葵からだった。
そういえば、葵は明日から家にいないんだっけ。

「アオ、ありがと。また報告する」

返すと、葵からスタンプが送られてくる。

(頑張らなくちゃね)

あたしは今度こそ眠った。
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