真実のひとつ

はやしかわともえ

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デート

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土曜日の朝、あたしはヨロヨロとなんとかベッドから起き上がった。
昨日は急に送迎会があって、帰りが遅かったのだ。
社会人は辛い。
お酒だって大して飲めないのに、注がれれば飲まざるを得ない。上司にも気を使う。

(飲み会だいっきらい!!お金かかるし)

時計を見ると八時前だった。九時頃迎えに来てもらえるはずだ。
あたしは洗面所に向かった。

「あーちゃん、オハヨ」

洗面所に行くと葵がいた。眠そうな顔だ。
また曲を作っていたんだろう。

「おはよ、アオ。大丈夫?もう少し寝たら?」

「うん、そうする。あーちゃんは出かけるんだっけ?」

「そう。仲を引き裂きにいくんだよ」

「えぇ?」

葵が本気で驚いているようだったので、あたしは笑ってしまった。

「うそうそ、ホントはくっつけに行こうかなって」

「息子さん、そんなによかったんだ?」

葵の言葉にあたしは頷いた。

「一津さんのこと、すごく想ってくれてるし優良物件だよ?」

「へえ、あーちゃんがそこまで言うならよっぽどだね」

それからあたしはご飯を食べて、支度を整えた。もうそろそろかな。
今日はピンク色のニットのワンピに、デニムを履いた。足元もスニーカーで、動きやすさ重視だ。

玄関に向かうとインターホンが鳴った。
ドアを開ける。

「アカリちゃん、おはようございます」

今日もロリータな一津さんがいた。

「おはようございます」

あたしがそう返すと、一津さんがにっこり笑う。

「アカリちゃんがいてくれて、本当に嬉しいです。心強いですし」

それならよかった。 
あたしたちは家の前に停まっていた車に乗り込んだ。一津さんが助手席、あたしは後部座席だ。
あれ、この車、ベンツ?あまり車には詳しくないけど、そんな気がする。

「立花さん、おはよう」

タカヤさんが振り返って言った。
休日なのにぴしっとスーツを着ている。
これは本気で一津さんを落としに来ている。

「おはようございます」

「じゃあ、出発するよ」

車は静かに走り出した。
今日の日程をまだ聞いていなかった。

「あの、万願寺さん?
今日はどこへ?」

「うん、少しドライブしてみようかな」

じゃあ特に決まっていないのか。タカヤさんは少し緊張しているようだ。
大丈夫かな。

「アカリちゃん、お菓子食べませんか?飲み物もありますよ」

一津さんはなんだかんだ通常運転のようだ。
のほほんとおせんべいを食べている。

「一津、僕にも飲み物をくれないか?」

「仕方ありませんね」

一津さんがお茶のペットボトルを彼に渡している。前から思っていたけど、あまり仲良くないな。
車は市街地を走っている。
そういえばこのあたりって。あたしはふと思い出した。

「あの、ここの近くに動物園がありますよ」

「そういえばありましたね!」

一津さんが嬉しそうに言う。

「行ってみようか」

タカヤさんがそう言う。
車は動物園へ向かって走り出した。
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