真実のひとつ

はやしかわともえ

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幸せへの道?

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一津さんとあたしはお茶をしながら、いろいろ話した。タカヤさんや新さんのこと。
やっぱり話していて感じるのは、一津さんが間違いなく女性だということだ。

「あら、もうこんな時間なんですね」

一津さんが腕時計を見て呟く。もう夕方の四時過ぎだった。

「長話をしてしまいすみません」

「そんな、楽しかったです」

あたしの言葉に一津さんは笑顔になった。
やっぱり綺麗な人だな。

「あたし、思うんです」

「?」

一津さんが首を小さく傾げて見せた。

「案外飛び込んでみてもいいんじゃないかなって」

だって一度きりの人生だ。思い切ってやって失敗したっていい。
失敗は成功の元だし。

「あたし、アオがやっぱり大好きです。
でも最近は異性というよりもっと近い存在として好きって気持ちになってきていて」

「アカリちゃん・・・」

「あたしの中でアオはやっぱりお星さまだから。ずっとあたしに元気をくれているんです。
だから一津さんも迷ってるなら飛び込んでみるのも一つの手かなって」

ぷ、と一津さんが噴き出した。

「アカリちゃんは時々すごく男らしくて惚れ惚れします」

「よく言われます」

あたしが真顔で言ったら一津さんが更に笑ってくれた。
今日、一津さんとお話してすごく分かったことがある。

あたし達って案外似ているっていうことだ。
全然違う立場の人にこんなことを言うのは失礼かもしれないけれど、やっぱり似ている、と思う。

「アカリちゃん、私、今日お話できて心が軽くなりました。
ありがとうございます」

「一津さんは新さんのどういうところが好きになったんですか?」

こんなこと、あたししか聞けないだろうから代表して聞いておく。
一津さんはしばらく考えて顔を赤らめた。
あたしの周り、乙女多すぎない?

「あ、新のことを知ったのは養成所に入ってからすぐのことでした」

そこで新さんのスピーチを聞いて、あまりのかっこよさに驚いたのだという。
分かるー。
葵もステージに立つとすごくかっこよくなるもんね。
一種の詐欺じゃないかと思うくらいだ。

「アカリちゃんはタクマさんとまたお付き合いを?」

率直に尋ねられてあたしは首を横に振った。

「あたしはまだ一人でいるつもりです。
まだアオが好きすぎるし、もっと色々楽しいことがあると思うから」

「そうですね、その通りですね」

一津さんが頷いてくれて嬉しかった。

あたしはもっとこの人のことを知りたい。
いわゆる一種のオタクになるってことだ。
でも好きなものがあるって悪くないと思う。

「アカリちゃんの人生はアカリちゃんが決めればいいんですよ」

「一津さんも、ですよ」

「はい、そうですよね」

店を出るともう暗くなっていた。

「ではアカリちゃん、また」

「はい」

あたしは一津さんを見送った。一津さんは、あたしをいつも家まで送ってくれる。
優しいなあ。

「あーちゃん!帰って来た!」

慌てて部屋から出てきたのは葵だった。どうしたんだろう?

「あーちゃん、大変!チケット当たった!」

「はい?」

あたしは思い出していた。葵に頼まれて舞台のチケットに応募していたことを。
うちにはPCというものが一台しかない。だからあたしのメールも葵が管理している。

「俺も当たったから一緒に行けるよ。席は遠いけど」

今は転売屋のことを恐れて厳しくなっているらしい。
確かその舞台って。

「ええ、もしかしてそれ一津さんが出るやつ?」

「そう。あーちゃんが興味あるって言ってたやつ」

あたしたちはひとしきり喜びを分かち合った。
なるほど、こうして推し活ってするんだ。

「あーちゃん、なんか前よりアニメに興味出た?」

「うん。そりゃ兄貴がめちゃくちゃオタクだしね」

「ですよねー」

あたし達はお互いを見て噴き出した。
あたしはどうなっても葵が一番推しだよ。

おわり
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