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千尋×加那太

お気に入りのリュック

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「わあ、入らないよお」

ある日曜日の夜、加那が何かと戦っている。それはリュックだ。年季の入ったリュックで加那のお気に入りである。

「加那?何を入れようとしてるんだ?」

見かねて声を掛けたら、加那がふうと息を吐いた。

「工具箱」

「それ学校に必要なのか?」

思わず尋ねると首を横に振られる。

「明日仕事が終わったらそのままお母さんのお店に手伝いに行くの。だから空いてる時間プラモデル組みたいなって」

なるほどな。でも加那のリュックはすでにパンパンだ。

「リュックにそんなに何が入ってるんだ?」

「えーとノートPCと、筆箱と使う資料と教科書も」

それは全部必要なもんばかりだな。

「それなら明日、午後は抜けられそうだから工具箱とか店に持って行ってやる」

「え・・いいの?」

「加那が頑張ってるのは知ってるからな」

加那が俺に抱き着いてきた。

「ありがとう千尋、大好き」

にしても加那は昔から一つのリュックにいろいろなものを詰め込むのが好きだよな。
あれは小学一年生の時だ。加那のお気に入りのリュックに可愛らしいくまの顔を模したものがあった。
それに加那はパズルというパズルを詰めていつも持ち運んでいた。
他にも好きなヒーローの人形も入れていたな。あの頃と変わってないな。

「千尋、なに笑ってるのさ」

ムスッとした加那に尋ねられて俺は首を横に振った。

「いや、お前全然変わらないなって」

「ええ?どういうこと?」

「加那はお気に入りのリュックに物を詰めがちだなってw」

「あ・・・本当だ」

加那がハッとしたように言う。気が付いていなかったらしい。

「うーん、癖なんだろうね。つい安心するって言うか」

「なんとなく分かる」

加那は慎重な性格だから尚更だ。

「とりあえずリュックに無理に入れないでこのトートバッグも使ってやれよ」

「そう言えばあったねえ」

おいおい。

「明日は千尋も来るってお母さんに言っておくね」

「あんまり長くはいられないからな?」

加那がスマートフォンを取り出す。嫌な予感がするな。

「石田さんになんとかしてもらえるようにお願いする」

「加那!それだけはやめてくれ!あいつに借りを作りたくない」

「ええー」

「頼む」

加那はしばらく俺とスマートフォンを見比べて、スマートフォンをしまった。よかった。

「千尋けちょんけちょんに言われてるもんね」

なんでお前がそれを知っている。

「石田さんとよく話すからさ」

話してるのかお前ら。

「でも千尋が気にしてないみたいでよかった」

「いや、十分気にしてるぞ」

「そうなんだあ」

加那の返事が棒読みだった。こいつ。

「千尋、明日これ持って来てね」

「分かった」

加那のお気に入りのリュックはもう壊れかけている。なるべく早く買ってやりたいな。
またお気に入りになるようなやつを。

おわり




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