男の娘、愛doll始めました!

はやしかわともえ

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上京

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「すごい、高い建物がいっぱいある!」

流れ行く窓の外の景色に興奮して、一人で叫んだ瞬間、ガタゴトと電車がひどく揺れて、慌ててそばにあった手すりを、原 翡翠はら ひすいは力いっぱい握り締めた。
危うく車内で転びそうになった。
たまたま周りに人がいなかったのが幸いだった。もしいたらトラブルになっていたかもしれない。翡翠は気を付けようと自分を戒めた。

まだ4月に入ったばかりたが、今日はだいぶ暖かい。昨日まで強い雨が連日続きで降っていて、思わず厚手のセーターを出して着てしまった。
この時期の寒暖差には誰もが憂鬱になる。
まさに春ならではといったところだろうか。
花粉も飛び始めるので、辛い人もいるだろう。

翡翠は明後日から大学生になる。
それを期に、数日前から都内に上京してきたばかりだ。
生まれて初めての東京は全てが物珍しく、どうしてもおのぼりさん全開になってしまう翡翠だ。
今、目指しているのは若者の街、原宿だった。自分もなにか映える写真を撮ってみたい、そんな好奇心から今日は原宿観光に行くことを決めた。天気は快晴、そしてせっかくの東京だ。楽しまなくてはもったいない。

翡翠は、今までSNSをやったことがない。
高校時代は仲の良い同級生たちとお互いに撮った写真をメールで送り合って喜んでいた。
それでも十分楽しかった。彼らとは今も連絡を取り合う仲である。みんな、就職や進学で離れ離れになってしまったが、またゴールデンウィークに地元で遊ぼうと約束している。
翡翠は今からそれが楽しみだった。
地元は自然に溢れ、広大な土地に恵まれている。一面に広がる畑や田んぼが印象的な場所だ。翡翠の祖父も農家をしている。
翡翠は大学を卒業したら、地元に帰ろうと決めていた。

車内の案内ガイダンスが流れ始める。
間もなく原宿駅に着くようだ。
便利だなぁと翡翠はぼんやり思った。

翡翠は窓ガラスに映る自分を見つめた。
好きな歌手の真似をして脱色して染めたアイボリーの髪。そして欠かせない、グレーのカラーコンタクト。服装は白いトップスにベージュのロングカーディガン。下は黒い細身のデニムを履いている。
靴は歩きやすく、青のスニーカーだ。
持ち物は、革製の茶色のショルダーポーチ。
160センチと男にしては小柄なのが気になるが、それも自分だと受け入れられるくらいには成長したつもりだ。


今日は自分なりにバッチリ決めてきたつもりだったが、なんだか気が引けてきてしまう。
原宿は翡翠にとって、それだけ重要な場所だ。

原宿には自分が大好きな、「可愛い」がいっぱいある所だと聞いている。
翡翠は幼い頃からとにかく可愛いものに目がなかった。
運良く、そんな翡翠を否定する人は周りにはいなかった。むしろ両親などは進んで可愛い物を買ってきてくれるくらいだった。
おかげで翡翠は真っ直ぐ育った、と自分では思っている。

いよいよ原宿の駅に着き、電車を降りる。翡翠以外にも何人か乗客が降りた。
ホームに出ると、まず人の数に驚く。
やはり東京は違う、と翡翠は高揚した気持ちになる。改札を出て、翡翠は目的にしていた竹下通りを目指すことにした。最近、ガラケーからスマートフォンに乗り換えたばかりだ。
まだ使い方が怪しいが、なんとかマップアプリを開く。立ち止まって道を確認すると、竹下通りまであまり離れていないようだ。ふと温かい風が吹いてくる。
それは翡翠を応援してくれているようだ。

翡翠は人の流れに乗ってホームを歩き出した。
最初は上手く流れに乗れずに迷惑そうにされることもあったが、もう大分慣れてきた。

東京はどこに行っても歩いている人がいる。
翡翠がここ数日で学んだことだ。
自分がもともと住んでいた場所ではとても考えられない。
竹下通りも同じくらい、いや、それ以上に人で賑わっている。
翡翠は辺りをきょろきょろしながら歩いた。いかにもオシャレですという店が立ち並んでいる。

「あ、綿あめ!」

カラフルな綿あめが映えるから流行っていると以前テレビの特集で放映されていたのを思い出す。
翡翠はふらふらーとその店に近付いた。

「あの」

「?」

カラフルな綿あめをじっと見ていると、後ろから急に声を掛けられて翡翠は振り返った。そこにいたのは、この場所に似つかわしくないグレーのパンツスーツを着た女性だった。キャリアウーマンが自分になんの用だろうか。

「ちょっと、お話いいですか?」

「え?えーと、はい」

「私、芸能事務所の者です」

名刺を差し出されて、翡翠は受け取った。
それを見ると「煌めき社マネジメント部 わたなべ りえ」とある。

「そこの喫茶店で詳しくお話しますね」

彼女が近くの店を指差しながらにっこり笑って言う。
翡翠は訳も分からず彼女の後をついて行ったのだった。
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