男の娘、愛doll始めました!

はやしかわともえ

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大学生活が始まって、初めての日曜日。
翡翠は街に必要な物を買いに出掛けていた。

初回の授業のほとんどはこれからの授業の概要の説明が主だった。楽しそうな授業たちについにまにましてしまう翡翠である。
勉強は嫌いではない。当然、翡翠の専攻は農学だ。
祖父が将来畑を全て譲ってくれると約束してくれている。そこで農業のノウハウを叩き込んでやるとも。厳しいが、優しい祖父のことを翡翠は幼い時から慕っていた。

何故、東京で農業の勉強をするのかとよく問われるが、以前高校で授業をしてくれた教授と縁あって仲良くなり、彼のゼミに入りたいと翡翠は希望したのだ。
教授から、まずは大学生になれるよう勉強を頑張れと言われた。翡翠はそれを実行したのだ。
入学式の日挨拶に行くと、待っていたよと歓迎された。それもまた嬉しかった。

歩いていると、向こうから黒いキャップを目深に被った若い男性に思い切りぶつかられた。
翡翠は彼との体格差によろけて転んでしまった。
こうゆう時、体が小さいと不利だ。向こうも慌てたように翡翠を抱き起こしてくれた。

「ごめん!大丈夫?」

「あ、はい」

あれ?と翡翠は思った。

「あの、芸能人の…ひと…ですよね?」

彼は翡翠に向かって、しーと人差し指を唇の前に立てる。やはりそうらしい。翡翠はそこで名前を思い出した。
彼の名前は「境大輔」だ。確か人気若手俳優である。

「ちょっとゲームの予約だけ行こうかなって抜け出してきた。本当はセリフ入れなきゃなんだけど」

詳しい事情は分からないが、彼はどうやら急いでいるらしい。
ゲーム、と翡翠は思った。

「俺なら大丈夫です。あの…急いだほうがいいんじゃないですか?」

翡翠が心配させないように笑うと、彼は頭を下げて走って行った。
東京にいると、芸能人にも会えるのかと、なんだか得したような気持ちになる。

買い物を済ませた翡翠は、喫茶店に入っていた。冷房が効いた店内で飲む冷たいカフェオレが美味しい。一緒にクリームチーズが挟まったベーグルも頼んでいた。
温めてもらったので、もちもちして美味しい。
チーズの塩味がベーグルの甘さと合わさっている。これはまたリピートしたいと翡翠は思った。
今日は晴れていて、長袖だと少し暑い。
翡翠は人より日に弱いので夏でも長袖だ。
そのことは事務所にも伝えてある。

夕方から、またライバーの仕事がある。
今日はボイストレーニングだ。
みっちりやるからと脅されている。

翡翠がベーグルを食べていると、スマートフォンが振動した。どうやらラインが来たらしい。
画面を確認すると、相手は真綾である。
彼女が翡翠にラインのやり方を教えてくれた。

メッセージを読むと、どうやらソーシャルゲームのお勧めをしてくれているようだと分かる。

「まーちゃんって結構オタク…」

思わず小声で呟いてしまった。
真綾の勧めてくれたゲームの中には、翡翠が聞いたことがあるものもあった。
共通しているのは、キャラクターが沢山いる点だろうか。あらゆる種族の美男美女が勢ぞろいしている。
今まで、あまりゲームの経験がない翡翠である。
真綾に、「ちゃんと教えてね」と強めな顔文字を添えて返信した。

真綾からはスタンプが返ってくる。
「任せておけ」というボイス付きのイケメン屈強キャラだ。
翡翠は思わず笑ってしまった。

あんなに華奢で可愛らしい真綾がこんな強そうなスタンプを買っているギャップが可笑しかった。

「そろそろ行こうかな」

ゆっくりカフェオレを飲み干した翡翠は事務所に向かうためソファから立ち上がった。
外を見ると雨が降っている。
勢いから通り雨だろうと分かる。だが、今は時間が惜しい。
翡翠は雨の中、駅に向かって走り出した。
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