僕と君を絆ぐもの

はやしかわともえ

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二話

本を読みたい理由

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家に帰るといい匂いがする。
これは。

「ただいま」

「お帰り、加那。今日は親子丼だ」

「やったー」

僕はお肉が好きだ。特に鶏もも肉が好きで唐揚げの日なんかはずっとニコニコしてられる。

「千尋も鶏肉なら食べられるね」

「ああ。たまにはな」

さすがにもも肉は無理でも、ささみや胸肉なら食べられるはずだ。

「ほら、飯にするぞ。着替えてこい」

「はーい」

僕は部屋着に着替えて、机の前に座った。
ほかほかの親子丼が目の前にある。
お店のみたいだ。千尋はどんどん料理が上手くなっている。


「すっごーい」

「だろ?小林から聞いた」

「やっぱりプロの人に習うと違うんだね」

小林さんというのは、千尋の専門学校時代のお友達だ。
今はカフェを経営しているらしい。
僕のためにゲームを譲ってくれたり、なにかとお世話になっている。

「今度小林さんのサンドイッチ食べたいな」

「ああ。そういや行ったことなかったよな」

「千尋ばっかりずるいよ」

「今度連れてくよ。ほら冷めないうちに食え」

「いただきます」

千尋の親子丼は美味しかった。
少し甘いだしと醤油のバランスが絶妙だ。

「おいしーい」

「よかった」

「ねえ、千尋?」

「ん?」

僕は考えてから言った。

「スポーツ少年が本を探したい理由ってなに?」

「はあ?」

それがずっと引っかかっていて、僕はもやもやしていた。
彼に読書なんていうイメージはないし。
いや、別に読みたいと思ってくれるのは嬉しいけど。
でもなにかあるような気がしてならない。

「超能力の出番だな。それにスポーツしていたって本を読んでもおかしくないだろうし」

「そうなんだけどね。気になるんだよ」

「加那、お前はえらいよ。毎日しっかり向き合って」

「千尋だって毎日仕事してるじゃん」

「俺さあ、フリーになりたい」

「それって今の職場を辞めるの?」

僕はびっくりして聞いた。
この間のマンションもびっくりしたのに。

「マンションだってびっくりした」

僕が言うと千尋はチラシを僕に渡してきた。


「少し今より通勤が不便になるけど、安いマンションがある。
何とか頭金払えそうだし」

千尋ってお金持ちなんだよな。

「でも賃貸だっていいよ?」

「まあそうだけど。でもセキュリティとかもっとしっかりしてるし」

千尋の意志は固いようだった。

「お前と一緒に暮らしてわかったけど、また図書館に配属されるかもだろ?」

「うん」

「それならここにしたほうが歩いて通える」

前みたいに千尋に送り届けてもらう必要がないのは嬉しいなあ。


「でもローンを組むんでしょ?」

「そりゃあな。親父から金も借りる」

途端に現実味が帯びてきた。

「僕の貯金も使っていいよ」

「いや。一応それは残そう。何があるかはわからないからな」

千尋はいつも僕のことを優先して考えてくれる。

「で、さっきの話に戻るけど」

「へ?」

千尋はにやりと笑った。

「多分女がらみだ、間違いない」


「ええ?」

明日詳しい話を聞いてみよう。
結論はそれからでいい。
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