僕と君を絆ぐもの

はやしかわともえ

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二話

お別れ

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「なんでなんだ!」

土橋くんが机を叩く。

「落ち着けよ、まさる

土橋くんが机に突っ伏して泣いている。
その隣で航太くんが彼の背中を撫でてあげていた。ゆえるくんも困ったように彼を見つめている。

「加那先生、どうゆうこと?」

コソッとゆえるくんが僕に聞いてきたので、僕も小声で返した。

「うん、土橋くんの好きな女の子が転校しちゃったんだ」

澄香さんと話し合った結果、転校したことにして欲しい、と彼女は言った。
本当は成仏だった。
でも土橋くんを怖がらせたくないから、と彼女は笑っていた。
強い子だ。

「そうだったんだ。それは悲しいね」

ゆえるくんは本当に優しい子だ。

「あのね、土橋くん」

僕は彼に声を掛けた。

「先生、俺悲しいよ。立ち直れそうにない」

鼻をすすりながら彼は言った。
初恋だったのかな、なんて思って微笑ましくなる。

「彼女の読んでいた本知りたくないの?」

土橋くんがハッとしたように僕を見た。

「知りたいよ、先生」

僕は一冊の本を土橋くんに手渡した。
それは一人の少女が王様と一緒に国を守るストーリーの本だ。
シリーズになっていて全部で26巻まである。
未練が残るほどの面白さだ。

「これが」

土橋くんはしばらくそれを眺めて呟いた。

「俺もこれを読んで彼女の気持ちになってみる」

「うん。面白いからきっとあっという間だよ」

実は僕もこの小説を読んでいた。
大人になってからだけど、とてもわくわくしたっけ。

彼女が笑いながら、どこが面白かったか話してくれた。
オススメのスペースに、この本を置くのを忘れないようにしなくちゃ。

「澄香さんは、最初から君を知っていたようだよ」

「え?」

彼女が彼に憑いていた理由。それは元気に運動できる体を持つ土橋くんが羨ましかったからだ。
きっと一緒に走りたかったんだろう。

「それなら少しいいかもって思う。少し話せたし」

澄香さんは土橋くんにちゃんとお別れを言った。
土橋くんは告白どころか、話すのすら精一杯だったらしい。
アオハルかよ。

「先生、本当にありがとう。俺、もっと本を読むよ」

「うん、嬉しいな」

土橋くんは涙を拭いて、立ち上がった。

「じゃあ部活行くか!航太、月!」

「加那先生、またね」

三人は図書室を出て行った。
そんな姿を見ていると嬉しくなる。
仲良く元気に学校生活を送れるようにしたいな。

三話につづく。
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