僕と君を絆ぐもの

はやしかわともえ

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三話

なくなったもの

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「わぁ、上手ー」

最近、彼女が放課後、図書室でずっと何かを描いていたから、僕はついに気になって後ろからそれをこっそり覗いた。
漫画だ。
うーむ、背景に花が舞っているな。

「ほ、本田先生!勝手に見ないでくださいよ!」

彼女が真っ赤になって僕をポカポカ叩いてくる。残念ながら、全然痛くない。

「なんで部室で描かないの?漫研じゃないんだっけ?」

首を傾げて聞いたら、彼女はぽつっと呟いた。

「ここだと資料が沢山あるし、描きやすいんです」

「あー、なるほどー」

でもなんだか、それだけじゃないような気がしてしまうのは僕の勘違いかな?

「部室に資料ないの?」

「あ、ありますけど、みんなで使ってるから」

「へぇ」

なるほど、そう返ってくるのかー。
僕は考えたけど他の上手い質問は思い付かなかった。

「加那先生!こんにちは!」

ゆえるくんがやってきた。部活は行かなくていいのかな?

「こんにちは。部活は?」

ゆえるくんが笑う。

「しばらく行かないことにしたの。
なんか大変になってきちゃって」

「そうなんだ。そうやって判断できて偉かったね」

よしよし、とゆえるくんの頭を撫でる。

「先生と生徒、アリかもしれない!」

彼女が猛然と何かを描きだした。
なにか火をつけてしまったらしい。

「あれ?かがみさんだ」

ゆえるくんが言うと、かがみと呼ばれた女の子は顔を上げた。
眼鏡をずり上げる。

「き、桐谷くん?!」

「それ、漫画?僕も読みたいな」

彼女が体で原稿用紙を隠した。
よっぽど見られたくなかったらしい。

「ここで描いてたんだ。
今、漫研いろいろあるもんね」

「仕方ないの。私、もう帰るね」

しょんぼりしたまま彼女は帰っていった。
なにがあったんだろう?
ゆえるくんを見ると、彼は言った。

「なんかね、漫研の資料が一冊見当たらなくなっちゃったんだって。
無くしたの、かがみさんじゃないかって言われてるみたい」

「そうなの?」

彼は首を振る。

「僕にもわからない。
かがみさんはきっちりしているし、そんなことするようには思えないんだけれど」

僕にもそう感じられた。
最近ずっと彼女の作業を後ろから眺めていたけれど、雑なところが一切なかった。

道具も綺麗に大切に扱っているように見えた。

(うーん、資料かぁ)

僕はとりあえず帰る支度を始めた。
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