僕と君を絆ぐもの

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
13 / 15
三話

資料集のありか

しおりを挟む
「先生、見て!リンゴを描いてみたよ!」

放課後、ゆえるくんがスケッチブックの絵を見せてくれた。
なかなか上手に描けている。
鉛筆の濃淡だけでこんなに物を表現できるんだなぁ。

「上手だね、ゆえるくん」

「えへへ!あ、そういえばかがみさんのこと、知ってる?」

コソッとゆえるくんに言われて、僕は首を振った。
あの日あったことは学校のみんなには内緒だ。

「資料集見つかったんだってー。
机の後ろに落ちていただけだったみたい」

「それはよかった」

今の僕の演技は助演男優賞くらいはいけたんじゃなかろうか。

「かがみさん、またここに来ないかな。
僕にイラストを教えてくれたらいいのに」

むぅ、とゆえるくんが頬をふくらませる。
可愛い。

「桐谷くん、私ならここだけど」

「かがみさん!」

かがみさんは図書室の入り口に立っていた。
ゆえるくんが駆け寄る。

「本田先生、資料集のこと、なにか知ってた?」

僕は自然に見えるように、首を横に振った。
彼女に笑いかける。

「なんでそう思うのかな?」

「資料集がなくなったことを知っていた大人は漫研の顧問の先生と、本田先生だけだったから」

「僕は何もしてないよ?」

かがみさんはしばらく僕をじっと見つめて、脱力したように笑った。

「考え過ぎだよね。
本田先生が見つけてくれたような気がしたから」

驚いた、子どもって鋭いなぁ。

「加那先生なら確かに見つけてくれそう!
本当に何も知らないのー?」

ゆえるくんに腕を掴まれる。

「僕は何もしてないよ。ほら、二人共、部室に戻って。時間なくなっちゃうよ」

「はーい」

二人が居なくなってから僕は大きく息をついた。危なかった。
いずれこの力がみんなの前で明らかにされるかもしれない。
その時、僕はどうすればいいんだろう。
でもとりあえず、今回は一件落着ってことでいっか。
僕は自分の残りの仕事を終えてしまうことにした。

(にしても、結局この力ってなんなんだろう?)

まだ僕にはわからないことが多い。
この力に答えがあるのかもわからない。
それでも僕は前に進んでいかなきゃいけないんだ。

おわり
しおりを挟む

処理中です...