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宿③

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「ん…」

加那太が気が付くともう体の火照りは収まっていた。隣りにいたはずの千尋の姿がない。
加那太はもぞもぞ起き上がろうとして、出来ないことに気が付いた。腰から下が物凄く痛い。

「加那、水飲むか?お茶とジュースもあるけど」

部屋のドアがカチリと開いて、加那太は一瞬ドキッとした。千尋はどうやら下の階にある自動販売機に行っていたらしい。

「千尋」

困ったように名前を呼ぶと、千尋がベッドのへりに座って加那太の頭を優しく撫でた。

「お前、動けないんだろ?」

「うん」

「そりゃあれだけヤればな」

千尋が困ったように言う。自分は相当乱れたようだと加那太は知り、顔が熱くなった。

「お前、もう媚薬なんか飲むな。
ただでさえ、薬効きやすいのに」

「うん、反省してるよ」

「…とりあえず何か飲め。で、ゆっくり眠りゃ体も治るから」

加那太は身を乗り出して千尋に抱き着いた。 
こうして甘えるのは久しぶりな気がする。

「加那」

千尋が加那太を抱き上げて膝の上に載せてくれた。

「千尋、あのさ、もう好きって言葉だけじゃさ、足りないんだよ」

加那太がほぼ泣き声で言うと、千尋は返事の代わりにキスをくれた。
お互いがこの世界にたった一人しかいない、かけがえのない人だ。加那太は千尋の胸に顔を埋めた。

「加那、もう寝るぞ。明日はギリギリでチェックアウトしてぐるっとドライブしよう」

千尋のそんな、なんでもない提案が嬉しい。

「うん!楽しみだな」

「明日は帰りにあきたちに土産を持ってくだろ?タマも待ってるしな」

「うん!」

加那太は千尋の両肩に腕を回して、立ち膝になった。千尋が加那太の腰を支えてくれている。
加那太は千尋の唇に自分のを重ねるのだった。

おわり
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