僕と君を絆ぐもの3(完結編)

はやしかわともえ

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第一話

アドリアーレ

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「ちょっと、まずこの服なんとかしてよ」

その日の夕方、加那太はようやく体の自由を取り戻していた。(夕方だと知ったのはその時だった)
どうやらキスされた時に薬を飲まされていたらしい。その効果がようやく切れたようだった。

白い、何もない部屋からも出してもらえた。内装からして、ここがどこかの屋敷であることを知る。
だが加那太にはそんなことはどうでもよかった。

早速、今着ている白いドレスについて、男に抗議することにしてみる。
明日から儀式に行くのに、このままの格好では、とても耐えられそうにない。
なんだか下半身がスースーして落ち着かないのだ。

「え…やだったか?」

きょとん、とした顔で彼が言うので、加那太はキッと彼を強く睨んだ。

「僕、言っとくけど男だから!成人男性!分かる?」

「え?そうなのか?すまん!」

どうやらいつものごとく、女性に間違われていたらしい。加那太は盛大にため息をついた。相変わらずこの容姿には困らされる。

「で、服を替えたいんだけど?」

気を取り直して加那太は慌てふためいている彼に聞いてみる。

「わかった、すぐ用意させる」

こうして加那太はようやく落ち着くことができた。茶色いズボンに白いシャツ。
十分である。
ここはどちらかといえば涼しい。
窓がないので季節はわからなかった。
だがインフラは整っているようだと分かる。先程電話を見かけた。


落ち着いたと同時に、加那太は猛烈に空腹を感じていた。
昨日はお昼から何も食べていない。
ぐきゅるるるる、となんとも間抜けな音が響き渡る。慌てて腹を押さえてみたが、もう遅い。

「そうだよな、ずっと食べてないもんな!
すぐ用意させる!」

こうして加那太の前にはあらゆるご馳走が並んでいるのだった。いい香りが漂ってくる。

「ねえ、聞いてもいい?君のこと」

加那太は、白い柔らかなパンをちぎりながら彼に話しかけた。
見た目からして、彼は自分より年下だろうと加那太はあたりをつけていた。

「あ、そうだよな。自己紹介がまだだった、すまない。俺の名前はレオだ。
レオ・アデル」

「ねえ、レオ。儀式って具体的に何をするの?」

「俺にも詳しい事はわからないが、神が術者にまじないをかけるのだそうだ」

彼のあやふやな言葉に加那太は少し不安になってきた。
そもそも、ここに連れてこられた時点で不安要素しかないのである。

「やっぱり帰してもらえない?」

「それは無理だ」

どうやらこの交渉をしてもレオには無意味らしい。加那太は仕方なく、目の前のご馳走に集中することにした。



✢✢✢

「………」

千尋は冷たい地面に横たわっていた。目を開けると自分が森の中にいることが分かる。
だが、何故自分がこんな場所にいるのかさっぱりわからない。自分が何者かすらもわからなかった。記憶をなくしているようである。

「千尋、起きましたか?」

そばには小さな光が浮いていた。
それから声が響いてくるのだ。
千尋はむくりと起き上がった。
その瞬間頭痛がして、千尋は呻く。

「俺は……?」

そう呟くと光がチカチカと瞬いた。

「あなたの記憶は一時的に私が保持しています。必ず返すので安心して。
これからあなたにやってもらいたいことがあります」

「俺に…やってもらいたいこと?ここはどこだ?お前は…誰なんだ?」

光がまた瞬く。

「ここはアドリアーレ。
神々が地を治めし世界。
ですが、神々の中に裏切り者がいます。
悪神というべきでしょう。
あなたにその悪神を処刑してもらいたいのです。あなたにはそれだけの力がある」

光は自らをハルカ、と名乗った。
千尋はよろめきながらも立ち上がった。
自分の体とは思えない程重たい。

「ついてきてください」

光に導かれるまま、千尋は森の中を歩き出した。
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