上 下
1 / 11

一話・喫茶モンスター開店準備①

しおりを挟む
1・ここは、商店街。あたしはお店の前で、ひとりイライラしていた。だってお腹は空いているし、喉だってものすごく乾いている。しかも散々歩いてるから足だって痛い。もー、こんなことならヒールじゃなくてスニーカーを履いてくればよかった。お姉ちゃんってば急に買い物に行くなんて言い出して一体どうしたんだろう?しかもさっきから聞いたこともない住所に大量の商品を配送するように頼んでいるし。もう、ちゃんと理由を言ってくれないと何がなんだか分からないじゃない!!

「お待たせ、サリアちゃん。さ、次に行きましょ」

お姉ちゃんがニコニコしながらお店から出てきた。
お姉ちゃんは黒いワンピース、あたしは深緑のワンピースを着ている。お姉ちゃんの足元をみたらパンプスだった。ぺったんこずるい。あたしたちはエルフの姉妹だ。エルフの里から家族総出で出てきて、もう十年は経つ。ここはヒト族の街だ。ここならほとんどの物がだいたい揃うし、実際便利だ。田舎にあるエルフの里じゃそうはいかないもんね。

「もー、お姉ちゃん。一体何を企んでるのよ!昨日、お母さんに聞いても何も教えてくれないし!」

お姉ちゃんは嬉しそうに笑うきりだった。その後も二つか三つ、お店を回った。お皿やグラスまで買っている。もしかして。
あたしは今までお姉ちゃんが買っていたものを思い返してみた。椅子にテーブル、フライパンやなんかの調理器具。こんなのもうほぼ確定じゃない。

「さ、お待たせ。休憩しましょ」

「お姉ちゃん、もしかして、お店を出すつもりなの?」

「食べながら話すわ」

お姉ちゃん楽しそうだし、なんだか嬉しそう。あたしを連れてきてくれたってことは、あたしも手伝っていいのかな?いや、駄目って言われてもあたしも手伝うもん。お姉ちゃんは絶対に、このお姉ちゃん専属警備員のあたしが守る。お姉ちゃんは街角にあるいつものお店に入った。街へ出ると必ずここに立ち寄るくらい大好きなお店だ。マスターはヒト族のおじいちゃんで、店をそろそろ畳むと聞いている。寂しいな、ここが失くなっちゃうなんて。あたしたちが小さな頃から通っているから余計だ。あたしたちはカウンターに座る。狭い店だ。5人入れば満席なんだから。お姉ちゃんがカウンターにいたマスターに声を掛ける。

「こんにちは、マスター。ナポリタン二つ。アイスティーとアイスコーヒーください」

「かしこまりました。今日、引き取ってくれるのかな?」

「はい」

引き取る?なにをだろう。マスターが持ってきたのはコーヒーミルだった。年季は入っているけど、嫌な感じじゃない。味のある輝きを放っている。
お姉ちゃんがそれを見て歓声をあげている。

「ありがとうございます!大事にします!」

「まさか君たちが店の味を継いでくれるなんてね」

えぇ!どうゆうこと?あたしが交互に二人を見つめると、お姉ちゃんがウインクしてみせる。

「私、ウインディルムで喫茶店を開こうと思うの」

あたしは耳を疑った。そりゃあ疑うでしょ。ウインディルムは今、やっと開拓され始めた土地だ。未だに巨大なモンスターがうようよいるって聞いている。あたしもお姉ちゃんも戦えるけど、わざわざウインディルムじゃなくても。

「最近ウインディルムに小さい町が出来たでしょう?すごく家賃が安かったのー!即契約しちゃった」

あ、もう決定事項なんですね。なるほど。

「あたしもついていくからね!」

「サリアちゃんに来て貰わないと私、困るー」

よかった、あたしのことも込みで考えてくれていた。

「二人は本当に仲良しだね。小さい頃からずっと」

マスターがにこにこしながら言ってくれる。そしてグラスを差し出してくれた。

「はい、アイスコーヒーとアイスティーね。ナポリタンもすぐ出来るよ」

「ありがとうございます」

マスターみたいにあたしたちもゆとりを持って接客出来るようになるのかな?自信はないけど、やってみるか。

「あれ?でもお姉ちゃん、肝心の食材は買ってなかったんじゃ」

「実はね、そこは自給自足なの。物流が安定してないから。大丈夫、お野菜はお庭に畑を作りましょ」

な、なんですってー!それ、不安しかない。あたしの気持ちにお姉ちゃんも気が付いたらしい。

「大丈夫だってば。はじめのうちはモンスターを討伐して素材をもらうからね」

お姉ちゃん、ばりくそ強いもんね。知ってた。

「まぁ、だから敢えてウインディルムにしたんだけどね!」

…お姉ちゃんは天才だなあ!さすが!!あたしはそう思い込むことに決めた。異論は認めないよ。

2・ヒト族の暮らす街からウインディルムまでどうやって行けばいいか、というと方法は簡単だ。直通の船に乗ればいい。もう次の日になっている。昨日あたしは慌てて荷造りをした。ほ、本当にウインディルムに行くんだ。あたし、ドキドキだよ。こんな大移動、エルフの里を出た時以来じゃない?港には大きな船が沢山いる。ふと、誰かが道端に倒れているのに気が付いた。どうしたんだろう?死体じゃないよね?まだ若そうな男の人だ。腰から剣を提げているしハンターかな?

お姉ちゃんも彼に気が付いたらしい。ずんずん近づいていく。え、大丈夫かな?

「お姉ちゃん?その人…」

お姉ちゃんは彼の頬をぺしぺし叩いている。

「大丈夫ですか?私の声、聞こえてますかー?」

グギュルルという大きな音。彼のお腹の音だと気が付くまで数秒かかった。ぱちっと、その人が目を開ける。あ、気付いた。

「あ、あれ?俺…」

その人ががばり、と起き上がる。お姉ちゃんがその間に脈を測ったり、身体に外傷がないかを確認している。あたしのお姉ちゃんにこんなにかいがいしくお世話されてうらやま…違う、けしからん!

「あなた、お名前は?」

お姉ちゃんが彼に微笑みかけながら言う。あぁ、お姉ちゃん基本スペックが女神だからなぁ。可愛いし、美人だし、おっぱいも…じゃなくて。

「な、名前…えーと。あれ、なんだっけ?」

「まあ記憶がないの?」

「すみません、その、俺、なにも思い出せなくて」

彼はゴソゴソと自分が持っていたバッグを漁りだした。なにか手がかりがあるかもしれない。ピラっと何かが飛び出してくる。

「あ、そのチケット」

それはウィンディルム行きのチケットだ。なーんか、嫌な予感がする。むしろ嫌な予感しかしない。
お姉ちゃんがぽむと手を打つ。

「記憶が戻るまで、私たちのお手伝いをしてくださいませんか?」

やっぱりかー!!!

「え、でも…」

そうだぞ、ノーネームモブキャラくん。君はモブらしくきれいにフェードアウト・・・。

「俺でよければ」

「よかった」

「ま、待ってよお姉ちゃん。こんなどこから来たのかわからないような人」

あたしはお姉ちゃんに必死に訴えた。お姉ちゃんはにこにこしてる。

「大丈夫よ、サリアちゃん。私がいるもの」

あ、これ説得不可だわ。でもせめてもの抵抗はしておきたい。
あたしはお姉ちゃんと男の間に割って入った。男を指さす。

「あんたは今日からたかしよ!呼ばれたらちゃんと返事しなさいよね!」

「はあ」

たかしはきょとん、としてにこっと笑った。なにその子犬みたいな無邪気な笑顔。

「君たちの名前を聞いてもいいかな?」

「私がアリアで、この子が妹のサリアよ」

「アリアちゃんにサリアちゃんか。よろしく」

たかしが立ち上がると意外と身長があって驚いた。

「まあ立派な体をしているのね。ハンターさんかしら?ギルドに登録されているかも」

そうだ、その手があったじゃない。たかしだって知らないあたしたちといるより、早く仲間と合流できた方がいいに決まっている。たかしが困ったようにほおを掻いた。

「実は今朝早くに行ってみたんだけどギルドには登録されてなくて、そこで空腹のあまり…」

「まあ」

ということは別世界から来た可能性もあるのかな?ここでは珍しい話じゃない。

「それで俺は一体何をすれば?」

そうだ。たかしが戦えるとは限らない。剣だって今は模造なんてこともよくある。いわゆるコスプレイヤーってやつだ。

「モンスターの素材から料理を作ろうと思うの。だからモンスターの討伐がメインよ」

お姉ちゃんの言葉にたかしが笑う。

「それなら俺でも出来そうだ」

いや、出来るんかい。

「サリアちゃん、これで安心よね?」

お姉ちゃんがにこにこしながら尋ねて来る。ま、まあモンスターの討伐をするなら少しでも人数がいた方がいいしね。でもお姉ちゃんはこいつに絶対に渡さないわ。

「たかし、あたしの言うことは絶対よ。ちゃんと聞きなさい」

「分かった」

分かったって言った?なにこいつ、頭おかしいんじゃないの?

「たかし、あんたプライドとかないわけ?」

「んー?でも可愛い女の子の言う事はちゃんと聞けって誰かに言われた気がする」

「なによそれ!!そもそもあたしは可愛くないし!」

「え?可愛いよ?」

たかしが微笑んでいる。本当なにこいつ。

「ふふ、早速仲良しさんね」

お姉ちゃんがほんわかしながら言った。

「お姉ちゃん!余計な事言わないでよ!」

「はいはい。ほら、早く船に乗りましょう」

あたしたちはウインディルム行きの船に乗り込んだのだった。

「見事な装備ね」

船の中で、お姉ちゃんがたかしの装備を見たがった。たかしもすんなり見せてくれる。確かにこの意匠は生半可な職人じゃ出せない。たかしはそれだけ強いってことだ。
素材だって見たこともないものばっかりだった。すごくレアってこと?

「見た目に比べて意外と軽いのね」

「ああ、そうかもしれない」

たかしは記憶がないから自然とステイタス画面に頼る形になる。
他の能力値だって見事なものだ。
もしかして、お姉ちゃんとタイマン張れるかも。

「たかしくんには後衛のサリアちゃんを守ってあげて欲しいの」

「あたしじゃなくてお姉ちゃんを」

お姉ちゃんが首を横に振った。

「駄目よ。サリアちゃんは弓使いなんだから」

「弓かあ。どんなのを使っているの?見てみたいな」

たかしが目をキラキラさせている。うう。あたし、この顔苦手かも。なんていうか、逆らえないって感じだ。

「これよ」

あたしは背中に背負っていた弓をおろしてたかしに見せてあげた。

「へえ、光属性が付いているのか。サリアちゃんに似合うね」

「な、なによそれ」

こいつ、なんっか調子狂うわね。

「たかしくん、レストランで何か食べましょう。ギャラの先払いってことで」

「わあ、嬉しいなぁ。すごく腹が減っていて」

たかしは自分がなんでここにいるのかすらもあやふやらしい。危ないなぁ。たかしは、やってきたサンドイッチをもりもり食べた。あたしもサンドイッチにかぶり付く。美味しい。

「んー、美味かった」

たかしがアイスコーヒーを飲んで嬉しそうに笑う。そして顔を引き締めた。

「やっと落ち着きました。沢山働きます。二人共、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね」

「…よろしく」

あたしはまだ不本意だけど、たかしをここで放り出すのも可哀想だしね。

「ねえ、デッキに出てみない?天気もいいし気持ちいいと思うの」

お姉ちゃんの提案にあたしたちは頷いた。外に出ると、潮の匂いがする。この船、すごく速いのね。
そういえば船に乗るのなんて久しぶりかも。三年くらい前に家族で遊覧船に乗った以来だ。あの時は海じゃなくて湖だった。風が吹き抜けていく。

「気持ちいいわね、サリアちゃん」

お姉ちゃんがにこにこしながら話しかけてくる。お姉ちゃんはすごいな、どんな時も楽しんでる。

「お姉ちゃん…あ…」

「おい!!なんだあれは!!」

急に周りが騒がしい。あたしたちは空を見た。大量の翼を持つモンスターたちがこの船に向かってきている。何事?

「サリアちゃん、戦える?」

「戦えるわ!!サンブレイクアロー!!」

あたしは空に向かって矢を放った。まずはモンスターたちを怯ませる。
たかしがとんっと跳んだ。軽く踏み込んだだけなのにその跳躍は高い。モンスターを一撃であんなに倒せるの?

「負けてられないわね」

お姉ちゃんは巨大な斧をくるんと振り回した。そして跳ぶ。
あたしは二人をサポートした。
初めて三人で戦ったけど意外と悪くなかった…かもしれない。
ざりざり、とたかしがモンスターから素材を剥ぎ取っている。慣れてるな。やっぱりたかしはハンターだったのかも。

「このお肉美味しそうね!町に着いたら試しに焼いて食べてみましょうか」

お姉ちゃんが生肉をアイテム袋にしまっている。

「いやー、お客様方お強いですな」

「あなたは?」

「は、私はこの船の船長です。何かお礼をしたいと思いまして。これを」

船長さんが差し出してきたのはチケットだ。

「ウインディルムのギルドに持っていけばアイテムと引き換えてくれますよ」

「まあ、ありがとうございます。素材も頂きますが…」

「構いませんよ。本当に助かりました。最近ああして襲いかかられて困っていたんですよ。また討伐を頼んでも?」

「手が空いていればまたお手伝いします」

なんだか知らないけれど、ヒトの役に立てたんだからよかった。
こうして船は無事にウインディルムに着いたのだった。

3・夕方になっている。ウインディルムの港には大きな船が何隻も停まっているな。あたしたちは近くにある町に向かった。ヒトもそれなりにいる。ギルドも近いみたいだ。

「ここが私たちのお店でーす!」

パンパカパーンと言いながらお姉ちゃんが建物を示す。まだ全然お店らしくない!でもお姉ちゃんが可愛いから許す。表に付いている両開きのドアを開けて中に入ると、カウンターがあった。黒い壁が大人っぽくてかっこいい。ここにこの間買ったテーブルやら椅子やらを並べるらしい。今日はそれらが届くようだ。お姉ちゃん、思い切ったなぁ。小さな時からお店をやりたいって言ってたもんね。夢が叶ったんだ、すごい。

「さあ、二人とも。今日から忙しいわよ!覚悟はいい?」

「大丈夫だよ」

たかしに負けていられない。

「大丈夫に決まってるでしょ!」

「私は看板を作るから、二人には協力して畑を作って欲しいの」

えー、たかしと一緒かぁ。

「サリアちゃん、やってくれるわよね?」

お姉ちゃんの可愛い笑顔には逆らえないよね。うん、頑張る。

「たかし、行くわよ」

「うん」

建物の裏手に回ると、そんなに広くないけど確かに畑にできそうな土地がある。見た感じ、土固そうだな。

「サリアちゃん、俺が畑を耕すね」

「たかし、畑仕事したことあるの?」

「んー、多分ないけど、なんとなく知識くらいは」

たかしは謎が多すぎる。いちいち突っ込んでいたらキリがない。
道具も一式揃っているみたいだしとりあえず、やってみよう。

たかしがクワを振るい始める。意外と様になってるな。
あたしは畑の周りの草むしりを始めた。だんだん日も落ちてきたしこの辺か。続きは明日やろう。

「たかし、そろそろ終わり」

「分かった」

店内に戻ると、お姉ちゃんが看板を彫刻刀で彫っていた。すごい。ここの店名「喫茶・モンスター」わあ、そのまんま。

「まあ大変。もうこんな時間なのね!さっきモンスターから剥ぎ取ったお肉を食べてみましょうか」

あたしたちが畑を耕したりしているうちに、荷物が運び込まれたみたいだ。店内はいつの間にか、段ボールでいっぱいだった。これを片付ける作業もあるのかー。お店作りって大変かも。
冷蔵庫やガスレンジは設置してもらったらしい。インフラってすごく大事だ。

お姉ちゃんがお店のキッチンスペースでさっき剥ぎ取ったお肉を焼いてくれた。フライパンも新しいからピカピカしている。味付けは塩コショウのみ。
美味しいかなぁ?
切ってお皿に盛りつけて完成だ。ほどよくレアで、見た目は美味しそうだな。見た目はね。

「いただきます」

一口お肉にかじりつくと、甘味のある油がじゅわっと出てくる。なにこれ、ウマッ!

「美味しいねー」

たかしももきゅもきゅ食べている。幸せそうな顔だな、く、なにこの感情。あたしはぶんぶん首を振った。たかしが可愛いなんて思ってないんだからね!

「これは討伐リストに加えないとね。コスト的にまかないにちょうどいいかもしれないわ」

お姉ちゃんがメモをしている。
まかないでこれが出てきたら贅沢だなぁ。それから、しっかりご飯を食べてお茶を飲む。ふー、それにしても畑仕事って疲れるな。野菜や果物はこうして作られてるんだ、生産者のみなさんありがとう!

「サリアちゃん、お風呂の支度してくれる?」

この建物には居住スペースが2階にあるようだ。本当にいいところ借りたなぁ、お姉ちゃん。あたしはお風呂場へ向かった。たかしが何かしている。怪しいことしていたら許さないわよ。

「たかし、何してるの?」

たかしは作業の手を止めない。顔だけこちらに向けた。

「棚作ってる。タオルとかこまごましたもの入れるよね?アリアちゃんに頼まれたから」

お姉ちゃんの指示は絶対だ。よくわかってるじゃないか、たかしくん。…にしても手際いいな。

「あ、あんたにしてはやるじゃないの」

「俺、こうゆうの好きだったみたいで、よければサリアちゃんの弓も強化するよ?」

なんですって?あたしが使ってる弓の強化?今だってあたしが集められる素材で最大まで強化してあるはずなのに?

「強化って、どう変わるのかしら?」

一応どうなるのか、聞いておいてあげようじゃないの。あたしはこう見えて優しいんだから。たかしは頷いた。

「うーんと、まずは軽くなる」

「え?今より?」

「うん、それで耐久性と攻撃力が上がる」

「はぁ?!」

そんなこと可能なの?あたしは思わず口をぱくぱくさせてしまった。たかしが笑う。

「サリアちゃんが良ければいつでもやるからね。助けてもらったし、仕事やご飯まで、本当にありがとう」

ぺこり、と頭を下げられて驚いた。あたしは思わず言っていた。

「たかしは記憶が戻ったらどうするつもりなの?」

「大丈夫。俺はいなくならないから。ちゃんとやるべきことをやるよ」

たかしはそう言って笑った。それを信じていいの?

「出来た。どうかな?」

たかしが作ってくれた棚は実用的な物だった。これを一から作るたかし、何者。

「あ、ありがとうね」

やばいやばい、あたし、たかしのこと好きになってる?
こんなの初めてだからよく分からないけど、特別な感情なのは間違いない。それからそれぞれの寝室のベッドにマットレスを敷いてその日は眠ったのだった。

4・「うぅ…」

あたしはふらふらしながら居住スペースにある居間に向かっていた。あぁ、朝ってなんでこんなにだるいの?眠いし、めちゃくちゃ喉も乾いている。

「おはよう、サリアちゃん」

あらあらとお姉ちゃんが笑った。

「おはよ、お姉ちゃん。たかしは?」

「今ギルドに行ってもらっているわ。昨日のチケットの引き換えもあるし」

あぁ、そういやそんなのあったな。あたしはどしっと椅子に座った。ダメだ、体が重たすぎる。石みたいになってるな。

「サリアちゃん、マフィン食べる?試作なんだけど」

「食べる、お腹空いた」

お姉ちゃんが準備をしてくれてマフィンが目の前に現れた。昨日のモンスターのお肉がサンドされている。あとは玉子?

「その玉子はお隣さんからのお裾分けなのよ。昨日挨拶に行ったら頂いたの。サリアちゃんもまた会ったらお礼言ってね」

「はーい」

あたしはマフィンにかじりついた。美味い。お肉が甘いテリヤキソースに浸かっているから塩気のあるマフィンとよく合う。マフィンもかりかりさくさくだ。玉子も程よく半熟でとろっとしている。

「玉子スープも作ってみたの」

「すごい、お姉ちゃん」

あたしはガツガツ食べた。美味しいー。寝起きには重たいかと思ったけど、そんなことない。

「戻ったよ」

たかしが戻ってきた。

「サリアちゃん、おはよう」

「おはよ…」

むぐむぐ食べていると、たかしが隣に座ってくる。なにかあったのかな?

「これ」

それは緑色に輝く石だった。周りを金色の縁で装飾されている。綺麗。

「サリアちゃんに」

「え?」

あ、あたしに?

「持っていて。これは君に持っていて欲しいんだ」

手を優しく掴まれて握らされる。
いいのかな?もらっても。たかしはあたしに微笑みかけて立ち上がった。向こうにいたお姉ちゃんに話し掛けている。

「アリアちゃん、アイテムもらってきたよ」

「ありがとう、使えそうなものはたかしくんが持っていてね」

「そうさせてもらうね」

あたしは改めて石を見つめた。たかしがくれたプレゼント。
嬉しい。でもなんで?あたしに持っていてほしいってどういうこと?

たかしはそのまま畑仕事に向かったようだ。あたしもそろそろ支度しなくちゃね!
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

スマイルキラー

ODK
ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

缶ジュースのプルタブ

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

フルールの白いエマシン

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...