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捜索
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ソウジロウは既に駅の前で待っていてくれた。僕は彼のもとへ駆け寄る。肩には当然チョップがいた。
「ソウジロウ、おはよう」
「ユマ、すまないな」
「僕こそ、迷惑じゃなかった?」
今回の件はかなりプライベートな部分だ。姉さんもそれを心配していた。
お菓子を忘れずにソウジロウに渡す。
「これお父さんに。姉さんが買ってくれてさ」
「そんな、気を遣わなくていいのに」
「そんなわけにはいかないよ。
僕は部外者だしさ」
「ユマ」
ソウジロウは困ったような顔をする。
「ソウジロウ、僕はソウジロウの力になりたいんだ」
ぎゅ、とソウジロウの手を両手で握った。
「ありがとう、ユマ」
ソウジロウも握り返してくれる。
チョップがフンと鼻を鳴らした。
僕たちは駐車場に停めてあったソウジロウの車に乗り込んだ。
黒のワンボックスカー。
「ここから一時間半くらいなんだ」
ソウジロウが場所について説明してくれた。
正直、知らない地名ばかりでちんぷんかんぷんだ。
僕はあまり旅行をしたことがない。
「おいユマ、おやつ」
いつものようにチョップは僕の膝に乗ってくつろいでいる。
「なんの味がいいの?」
チョップのおやつには四種くらい味のバリエーションがあった。
「そうさな。まずはマグロだな」
「わかった」
チョップの口の前におやつを持っていくと美味しそうに舐め始める。
「んー、うめえなー。
で?ソウジロウ、ユマを巻き込んじまっていいのかよ?」
ソウジロウは答えなかった。
まだ彼は迷ってるんだな、それに僕は少し残念に思う。
ソウジロウはまだ完全に僕を信頼してくれてない。
「ユマ、本当によかったのか?」
ソウジロウが前を見つめながら言う。
赤信号で車は止まっている。
「僕は大丈夫。
ソウジロウに付き合うって決めたから」
ソウジロウは一瞬僕を見て笑った。
車は順調に流れている。
「もうすぐだ」
ソウジロウが呟くように言う。
ソウジロウはどんな家に暮らしていたんだろう?
その家に幸せな思い出はあったんだろうか。
(いつか聞けたらいいな)
「あれだ」
だんだん車が少なくなって、道も狭くなる。
僕たちだけになってすぐ、ソウジロウが前方を指差す。
それは三階建ての大きな家だった。
「おっきいんだね」
僕の家とは大違いだ。
そばの駐車場に車を停めて僕らは家の前に立った。
本当に大きい。
「ユマ、おいで」
ソウジロウに呼ばれて、僕は慌てて駆け寄った。
玄関の扉もなんだか立派だ。
ソウジロウは鍵を開ける。
「親父が今日来ることになってる」
「そう、なんだ」
だから鍵を借りられたらしい。
「ソウジロウの家ってさ、お金持ちだよね?」
僕がずっと思っていたことを言うと、ソウジロウはきょとん、として笑った。
「金持ちというのはたまたまだよ。もともと祖父のものだったのを、父さんが譲り受けただけだ」
ソウジロウのお父さんは一人っ子だったらしい。
お金持ちによくある骨肉の争いとは無縁だそうだ。(僕はドラマの見過ぎかもしれない)
ソウジロウについて中に入る。
やっぱり広い。
家具もそのままあるようだ。
それらは埃をかぶっている。
「ユマ、アルバムはこっちだ」
軋む階段をのぼって、僕らは物置に入った。ここも埃まみれで、蜘蛛の巣まで張っている。
物置の荷物は整然とラックに整理されていて、持ち主の性格を反映しているようだ。
埃まみれなのが不思議なくらいだ。
掃除をしていたのはソウジロウのお母さんだったのかもしれない。
どうやらアルバムは奥の方にあるらしい。
「すまない、ユマ。
そっち側を見てもらえるか?」
「わかった」
僕は反対側から荷物を見る。
するとダンボールの間からアルバムらしき背表紙が見えた。
(これかな)
それを引っ張り出そうとして僕はバランスを崩した。
「わわ!!」
「ユマ!!」
絶対顔面を強打する、そう覚悟したのにそれはなかった。
恐る恐る目を開けるとソウジロウの顔が見える。
僕を受け止めてくれたらしかった。
「あ、ソウジロウ!ごめん、僕!!」
慌てて起き上がる。
知らない人が見たら、僕がソウジロウを押し倒しているように見える。
「ユマ、大丈夫か?」
ソウジロウは心配そうに僕に聞いてくる。
特に怪我はしていない。
ソウジロウが受け止めてくれたからだ。
「僕は大丈夫」
そう言ったらソウジロウはホッと息をついた。
(ソウジロウ、かっこいい)
なんだかドキドキする。
僕はこの気持ちをごまかそうと先ほどの箱を引っ張り出した。
「ね、ソウジロウ。アルバムってこれ?」
「ん?あぁ、そうみたいだな」
ソウジロウは一冊を取り出して開いた。
「わ、すごく古いな」
ソウジロウの声に笑みが交じる。僕は隣からアルバムを覗き込んだ。
そこには赤ん坊と女性がいる。
「オレだよ、ユマ」
「え、この子、ソウジロウなの?」
よく見ると確かにソウジロウだ。
でも赤ちゃんの体型は丸々していて今のソウジロウとは似ても似つかない。
「大きいよね」
「ホントだな」
素直な感想を口にしてしまって、しまった、と思った。ソウジロウにとって、子供の頃の記憶はあまり思い出したくないんじゃないだろうか。
でもソウジロウは笑っている。
確かに幸せな時間があったのだと確信して、僕はホッとした。
「沢山食べさせてもらってたんだな、オレ」
「うん、お母さんも笑ってるね」
僕はふと気が付いた。
この写真にはお母さんとソウジロウが写っている。
じゃあこの写真を撮った人は。
「これ、父さんが撮ったみたいだな」
ソウジロウが呟く。
しばらく僕らはアルバムを眺めていた。
「ソウジロウ、おはよう」
「ユマ、すまないな」
「僕こそ、迷惑じゃなかった?」
今回の件はかなりプライベートな部分だ。姉さんもそれを心配していた。
お菓子を忘れずにソウジロウに渡す。
「これお父さんに。姉さんが買ってくれてさ」
「そんな、気を遣わなくていいのに」
「そんなわけにはいかないよ。
僕は部外者だしさ」
「ユマ」
ソウジロウは困ったような顔をする。
「ソウジロウ、僕はソウジロウの力になりたいんだ」
ぎゅ、とソウジロウの手を両手で握った。
「ありがとう、ユマ」
ソウジロウも握り返してくれる。
チョップがフンと鼻を鳴らした。
僕たちは駐車場に停めてあったソウジロウの車に乗り込んだ。
黒のワンボックスカー。
「ここから一時間半くらいなんだ」
ソウジロウが場所について説明してくれた。
正直、知らない地名ばかりでちんぷんかんぷんだ。
僕はあまり旅行をしたことがない。
「おいユマ、おやつ」
いつものようにチョップは僕の膝に乗ってくつろいでいる。
「なんの味がいいの?」
チョップのおやつには四種くらい味のバリエーションがあった。
「そうさな。まずはマグロだな」
「わかった」
チョップの口の前におやつを持っていくと美味しそうに舐め始める。
「んー、うめえなー。
で?ソウジロウ、ユマを巻き込んじまっていいのかよ?」
ソウジロウは答えなかった。
まだ彼は迷ってるんだな、それに僕は少し残念に思う。
ソウジロウはまだ完全に僕を信頼してくれてない。
「ユマ、本当によかったのか?」
ソウジロウが前を見つめながら言う。
赤信号で車は止まっている。
「僕は大丈夫。
ソウジロウに付き合うって決めたから」
ソウジロウは一瞬僕を見て笑った。
車は順調に流れている。
「もうすぐだ」
ソウジロウが呟くように言う。
ソウジロウはどんな家に暮らしていたんだろう?
その家に幸せな思い出はあったんだろうか。
(いつか聞けたらいいな)
「あれだ」
だんだん車が少なくなって、道も狭くなる。
僕たちだけになってすぐ、ソウジロウが前方を指差す。
それは三階建ての大きな家だった。
「おっきいんだね」
僕の家とは大違いだ。
そばの駐車場に車を停めて僕らは家の前に立った。
本当に大きい。
「ユマ、おいで」
ソウジロウに呼ばれて、僕は慌てて駆け寄った。
玄関の扉もなんだか立派だ。
ソウジロウは鍵を開ける。
「親父が今日来ることになってる」
「そう、なんだ」
だから鍵を借りられたらしい。
「ソウジロウの家ってさ、お金持ちだよね?」
僕がずっと思っていたことを言うと、ソウジロウはきょとん、として笑った。
「金持ちというのはたまたまだよ。もともと祖父のものだったのを、父さんが譲り受けただけだ」
ソウジロウのお父さんは一人っ子だったらしい。
お金持ちによくある骨肉の争いとは無縁だそうだ。(僕はドラマの見過ぎかもしれない)
ソウジロウについて中に入る。
やっぱり広い。
家具もそのままあるようだ。
それらは埃をかぶっている。
「ユマ、アルバムはこっちだ」
軋む階段をのぼって、僕らは物置に入った。ここも埃まみれで、蜘蛛の巣まで張っている。
物置の荷物は整然とラックに整理されていて、持ち主の性格を反映しているようだ。
埃まみれなのが不思議なくらいだ。
掃除をしていたのはソウジロウのお母さんだったのかもしれない。
どうやらアルバムは奥の方にあるらしい。
「すまない、ユマ。
そっち側を見てもらえるか?」
「わかった」
僕は反対側から荷物を見る。
するとダンボールの間からアルバムらしき背表紙が見えた。
(これかな)
それを引っ張り出そうとして僕はバランスを崩した。
「わわ!!」
「ユマ!!」
絶対顔面を強打する、そう覚悟したのにそれはなかった。
恐る恐る目を開けるとソウジロウの顔が見える。
僕を受け止めてくれたらしかった。
「あ、ソウジロウ!ごめん、僕!!」
慌てて起き上がる。
知らない人が見たら、僕がソウジロウを押し倒しているように見える。
「ユマ、大丈夫か?」
ソウジロウは心配そうに僕に聞いてくる。
特に怪我はしていない。
ソウジロウが受け止めてくれたからだ。
「僕は大丈夫」
そう言ったらソウジロウはホッと息をついた。
(ソウジロウ、かっこいい)
なんだかドキドキする。
僕はこの気持ちをごまかそうと先ほどの箱を引っ張り出した。
「ね、ソウジロウ。アルバムってこれ?」
「ん?あぁ、そうみたいだな」
ソウジロウは一冊を取り出して開いた。
「わ、すごく古いな」
ソウジロウの声に笑みが交じる。僕は隣からアルバムを覗き込んだ。
そこには赤ん坊と女性がいる。
「オレだよ、ユマ」
「え、この子、ソウジロウなの?」
よく見ると確かにソウジロウだ。
でも赤ちゃんの体型は丸々していて今のソウジロウとは似ても似つかない。
「大きいよね」
「ホントだな」
素直な感想を口にしてしまって、しまった、と思った。ソウジロウにとって、子供の頃の記憶はあまり思い出したくないんじゃないだろうか。
でもソウジロウは笑っている。
確かに幸せな時間があったのだと確信して、僕はホッとした。
「沢山食べさせてもらってたんだな、オレ」
「うん、お母さんも笑ってるね」
僕はふと気が付いた。
この写真にはお母さんとソウジロウが写っている。
じゃあこの写真を撮った人は。
「これ、父さんが撮ったみたいだな」
ソウジロウが呟く。
しばらく僕らはアルバムを眺めていた。
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