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騎士の宿舎は二人で一部屋を使うシステムらしい。ルネと俺で一部屋を使っていいと部隊長のハッサに言われた。有り難いな。二段ベッドの上がいいとルネが言ったので譲った。正直に言って、俺は高所恐怖症である。ベッドに横になると、疲れているなと分かった。まだ筋肉痛も治っていない。目を閉じると俺はすとん、と眠りにおちたらしかった。
「ショーゴ、ショーゴ」
「ん?」
ルネに体を揺すられて俺は目を覚ました。
「ルネ、おはよう」
「おはよう。点呼の時間だって」
そ、そうか。騎士の宿舎にいるんだから当然起床時間だって決まってるよな。ルネが起こしてくれてよかった。点呼を済ませて顔を洗っていると、誰かが来た。騎士なのは間違いないな。
「おはようございます」
一応挨拶くらいはと思って声を掛けたら、その人はドサッと荷物を落とした。え?この人大丈夫?
「兄上!!」
「え?えーと?」
俺には妹がいるけど、この人は男だ。つまり弟はいない。俺が彼の荷物を拾って渡すと、めちゃくちゃ感激された。騎士にも色んな人がいるみたいだな。
「俺は翔吾。君は?」
「私はヴァンといいます。ショーゴ殿は私の兄によく似ています。きっとなにかのご縁でしょう。配下にさせてください」
いやいやいや、配下ってなに?
「な、仲間じゃ駄目かな?」
「私を対等に見てくださるのですか?なんとお心の広い…」
「当たり前だよ。ヴァン、これからよろしくね」
そう言って手を差し出したらはわわ、と彼が呟いて手を握られた。そうそう、仲良しが一番だからな。ルネを連れているとその可愛らしさで目立つらしい。さすが龍姫様だ。ルネはそれが嫌みたいだけど。
「ショーゴ、今日も調べるの?」
「うん、装備が整うまで、この世界について出来るだけ知っておきたいし」
ルネもこくん、と頷いてくれた。ピンフィーネさんの許可を得て資料室にある資料を読む。
数十年前、モアグリアはかなりの大都市だったようだ。他にも国があちらこちらに沢山あった。つまり平和だった。だけどそれは龍の加護によって得られていたものらしい。ここに出てくる龍の加護というのが、ルネの言う最古龍のものだ。
「ルネ、なんで龍の加護はなくなっちゃったの?」
「多分、僕が母様からもらったペンダントを失くしちゃったから。あれには毎日祈りを込めなきゃいけないから、だんだん世界への加護が弱まっていったんだと思う」
ルネは世界の様子を見て慌てたらしい。探せる場所は全て探したと言っていた。そうした直後に魔王が現れた。ルネは自分を責めた。気持ちはよく分かる。
「僕が村から飛び出した理由の一つ」
「そうだったんだ。ペンダントね」
俺は考えた。ルネたち龍にとって宝石の価値は関係ないだろう。ペンダントを手に入れて一番喜ぶのは多分、人間だ。だけど、誰の手に渡ったかまではさすがに分からないよな。
「ペンダントは新しく出来ないの?」
「姉さんが毎日祈って加護を復活させようとはしているみたいだけどまだ無理みたい」
ルネが大きなため息を吐いている。ルネはすごい子だなって俺は改めて思っていた。
「ルネは強い子だな」
そう言って頭を撫でたら、きょとんとされた。
「ショーゴ?なんで?」
「だって知り合いもいない広い世界に一人で飛び出すなんてなかなか出来ないよ」
「そう?」
ルネは不安そうに目を泳がせている。
「でもショーゴに助けてもらえなかったら、僕モンスターに食べられてたよ?ペンダントだって全然見つけられないし」
僕は駄目なんだとルネはすっかりしょげかえってしまっている。
「そんなことない。本当に駄目ならとっくに諦めているよ。ルネはまだ諦めてないんだろ?」
「うん、諦めるわけないよ。僕、本当はいけないけど勝手に占ってみたの」
前に言っていた龍姫の仕事か。ルネが照れ臭そうに笑う。
「占いって言っても僕の解釈じゃまだまだだってオババ様たちには怒られるんだけどね。でもやらないよりはマシかと思ったんだ」
ルネが視たもの、それは光だったらしい。
「僕は希望の光だって信じてる。実際にショーゴにこうして会えているし、きっと何かが起こるんだ」
「ルネ、俺もペンダント探し、協力する。最古龍の加護はこの世界には絶対に必要だと思う。二人で頑張ろう」
「ショーゴ!大好き」
ルネの大好きはなかなか効くな。色々な文献をひっくり返していたらいつの間にか昼になっている。午後は騎士団の体力育成の訓練に出ることになっているんだった。
俺は片付けて資料室を後にした。食堂に向かうと、なんだか冷ややかなムードが漂っていた。ヴァンとライクその他それぞれ取り巻きたちが睨み合っているのだ。どうしたんだろう?他の人も困ったように立ち尽くしている。
「貴様ら雑魚が私たちと同じ場に立てると思うとは、命知らずめ!」
「貴族様はいいよな、実力がなくても金でなんとかするんだろ?」
あ、これヤバい奴だ。もしかして、ライクの言っていた派閥ってこれか?まさかヴァンが相手だとは。
「喧嘩?」
ルネが心配そうに呟いている。これは見逃せないよな、さすがに。
「ストーップ!!!」
俺は二人の言い合いに割り込んだ。
「ショーゴ?!」
「ショーゴ殿?」
「二人共、なんで同じ仲間同士で喧嘩してるんだ?」
二人がお互いを見合って顔を背ける。
「ショーゴ殿、何故こいつの味方を?」
「俺はどっちの味方でもないよ。ただ二人の仲間なのは間違いないな」
「そもそもこの雑草が、貴族を馬鹿にするのです」
「お、俺だって貴族に馬鹿にされて…あれ?」
「なんだ、お互い様じゃないか」
俺は笑ってしまった。喧嘩の原因なんてそんなもんなんだよな。ちょっとしたすれ違いがどんどん大きなひび割れになってしまう。それをいかに素早く修復できるかが大事なんだろう。
「ショーゴ、お前すげえな」
「いやいや、新参者が生意気言ってすみません」
ライクに頭を下げると、肩を叩かれた。気にするなということらしい。
「ヴァン、変な言いがかり付けちまったな。すまん」
ライクはさすが大人だ。すぐに謝った。ヴァンも顔を赤らめている。
「こちらこそ、申し訳なかった」
「ショーゴ、僕、お腹空いた」
ぐきゅるるとルネが腹の音を鳴らす。さすが、ルネ。いい意味で場の雰囲気を壊してくれた。みんな一斉に笑って、食事を摂り始めたのだ。
「龍姫様、こちらにお座りください。ショーゴ殿も」
「ヴァン、ありがとう。ちょっと話を聞いてもいいかな?」
「私で良ければ!」
食事をしながら俺はヴァンにペンダントについて聞いてみたのだ。ルネもペンダントの詳細を彼に話している。
「それだけ巨大な宝石がついているとあれば、かなりの価値を有しているかと」
あ、やっぱりこの世界でも宝石は価値があるんだな。
「しかし、そのペンダントは何故失くしてしまわれたのですか?」
ヴァンの指摘は最もだ。聞いていない俺も迂闊だったな。ルネが声を潜める。
「僕ね誘拐されそうになったの」
誘拐?!物騒なワードに俺はお茶を吹き出しそうになった。ヴァンも同様だ。ゴホゴホしてる。
とりあえず落ち着いたので、詳しく聞いてみる。
「どんな奴らだった?そいつらは警察に捕まったの?」
「ううん、もう三十年も前だよ?僕も自分で飛べるようになったばかりで、はしゃいでいたし。でもペンダントはその日に失くなった…と思う」
良く覚えていないとルネは謝った。
「龍姫様は悪くないですよ。悪いのは誘拐犯です!」
ヴァンは一見冷酷そうに見えるけど真っ直ぐな良いやつみたいだ。俺もそう思うと頷いた。ルネは何も悪くない。
「龍姫様、ペンダントのデザインを教えてください。私なりに探してみます」
「本当?」
ヴァンに頼って正解だったみたいだ。ルネとヴァンはペンダントの絵を描き終えた。こうして見るとめちゃくちゃ高そうなペンダントだ。こんなに大きな宝石、多分世界を探してもなかなかないだろう。
「ショーゴ殿、このことはまた報告致します」
「あぁ、頼むよ」
さ、訓練か。俺ものんびりしてられないぞ。
「ルネはどうする?」
ルネは頰を膨らませてる。あ、聞くまでもなかったか。
「僕も一緒に訓練する!!」
午後はピンフィーネさんの指導の下、厳しい訓練が行われたのだった。
「ショーゴ、ショーゴ」
「ん?」
ルネに体を揺すられて俺は目を覚ました。
「ルネ、おはよう」
「おはよう。点呼の時間だって」
そ、そうか。騎士の宿舎にいるんだから当然起床時間だって決まってるよな。ルネが起こしてくれてよかった。点呼を済ませて顔を洗っていると、誰かが来た。騎士なのは間違いないな。
「おはようございます」
一応挨拶くらいはと思って声を掛けたら、その人はドサッと荷物を落とした。え?この人大丈夫?
「兄上!!」
「え?えーと?」
俺には妹がいるけど、この人は男だ。つまり弟はいない。俺が彼の荷物を拾って渡すと、めちゃくちゃ感激された。騎士にも色んな人がいるみたいだな。
「俺は翔吾。君は?」
「私はヴァンといいます。ショーゴ殿は私の兄によく似ています。きっとなにかのご縁でしょう。配下にさせてください」
いやいやいや、配下ってなに?
「な、仲間じゃ駄目かな?」
「私を対等に見てくださるのですか?なんとお心の広い…」
「当たり前だよ。ヴァン、これからよろしくね」
そう言って手を差し出したらはわわ、と彼が呟いて手を握られた。そうそう、仲良しが一番だからな。ルネを連れているとその可愛らしさで目立つらしい。さすが龍姫様だ。ルネはそれが嫌みたいだけど。
「ショーゴ、今日も調べるの?」
「うん、装備が整うまで、この世界について出来るだけ知っておきたいし」
ルネもこくん、と頷いてくれた。ピンフィーネさんの許可を得て資料室にある資料を読む。
数十年前、モアグリアはかなりの大都市だったようだ。他にも国があちらこちらに沢山あった。つまり平和だった。だけどそれは龍の加護によって得られていたものらしい。ここに出てくる龍の加護というのが、ルネの言う最古龍のものだ。
「ルネ、なんで龍の加護はなくなっちゃったの?」
「多分、僕が母様からもらったペンダントを失くしちゃったから。あれには毎日祈りを込めなきゃいけないから、だんだん世界への加護が弱まっていったんだと思う」
ルネは世界の様子を見て慌てたらしい。探せる場所は全て探したと言っていた。そうした直後に魔王が現れた。ルネは自分を責めた。気持ちはよく分かる。
「僕が村から飛び出した理由の一つ」
「そうだったんだ。ペンダントね」
俺は考えた。ルネたち龍にとって宝石の価値は関係ないだろう。ペンダントを手に入れて一番喜ぶのは多分、人間だ。だけど、誰の手に渡ったかまではさすがに分からないよな。
「ペンダントは新しく出来ないの?」
「姉さんが毎日祈って加護を復活させようとはしているみたいだけどまだ無理みたい」
ルネが大きなため息を吐いている。ルネはすごい子だなって俺は改めて思っていた。
「ルネは強い子だな」
そう言って頭を撫でたら、きょとんとされた。
「ショーゴ?なんで?」
「だって知り合いもいない広い世界に一人で飛び出すなんてなかなか出来ないよ」
「そう?」
ルネは不安そうに目を泳がせている。
「でもショーゴに助けてもらえなかったら、僕モンスターに食べられてたよ?ペンダントだって全然見つけられないし」
僕は駄目なんだとルネはすっかりしょげかえってしまっている。
「そんなことない。本当に駄目ならとっくに諦めているよ。ルネはまだ諦めてないんだろ?」
「うん、諦めるわけないよ。僕、本当はいけないけど勝手に占ってみたの」
前に言っていた龍姫の仕事か。ルネが照れ臭そうに笑う。
「占いって言っても僕の解釈じゃまだまだだってオババ様たちには怒られるんだけどね。でもやらないよりはマシかと思ったんだ」
ルネが視たもの、それは光だったらしい。
「僕は希望の光だって信じてる。実際にショーゴにこうして会えているし、きっと何かが起こるんだ」
「ルネ、俺もペンダント探し、協力する。最古龍の加護はこの世界には絶対に必要だと思う。二人で頑張ろう」
「ショーゴ!大好き」
ルネの大好きはなかなか効くな。色々な文献をひっくり返していたらいつの間にか昼になっている。午後は騎士団の体力育成の訓練に出ることになっているんだった。
俺は片付けて資料室を後にした。食堂に向かうと、なんだか冷ややかなムードが漂っていた。ヴァンとライクその他それぞれ取り巻きたちが睨み合っているのだ。どうしたんだろう?他の人も困ったように立ち尽くしている。
「貴様ら雑魚が私たちと同じ場に立てると思うとは、命知らずめ!」
「貴族様はいいよな、実力がなくても金でなんとかするんだろ?」
あ、これヤバい奴だ。もしかして、ライクの言っていた派閥ってこれか?まさかヴァンが相手だとは。
「喧嘩?」
ルネが心配そうに呟いている。これは見逃せないよな、さすがに。
「ストーップ!!!」
俺は二人の言い合いに割り込んだ。
「ショーゴ?!」
「ショーゴ殿?」
「二人共、なんで同じ仲間同士で喧嘩してるんだ?」
二人がお互いを見合って顔を背ける。
「ショーゴ殿、何故こいつの味方を?」
「俺はどっちの味方でもないよ。ただ二人の仲間なのは間違いないな」
「そもそもこの雑草が、貴族を馬鹿にするのです」
「お、俺だって貴族に馬鹿にされて…あれ?」
「なんだ、お互い様じゃないか」
俺は笑ってしまった。喧嘩の原因なんてそんなもんなんだよな。ちょっとしたすれ違いがどんどん大きなひび割れになってしまう。それをいかに素早く修復できるかが大事なんだろう。
「ショーゴ、お前すげえな」
「いやいや、新参者が生意気言ってすみません」
ライクに頭を下げると、肩を叩かれた。気にするなということらしい。
「ヴァン、変な言いがかり付けちまったな。すまん」
ライクはさすが大人だ。すぐに謝った。ヴァンも顔を赤らめている。
「こちらこそ、申し訳なかった」
「ショーゴ、僕、お腹空いた」
ぐきゅるるとルネが腹の音を鳴らす。さすが、ルネ。いい意味で場の雰囲気を壊してくれた。みんな一斉に笑って、食事を摂り始めたのだ。
「龍姫様、こちらにお座りください。ショーゴ殿も」
「ヴァン、ありがとう。ちょっと話を聞いてもいいかな?」
「私で良ければ!」
食事をしながら俺はヴァンにペンダントについて聞いてみたのだ。ルネもペンダントの詳細を彼に話している。
「それだけ巨大な宝石がついているとあれば、かなりの価値を有しているかと」
あ、やっぱりこの世界でも宝石は価値があるんだな。
「しかし、そのペンダントは何故失くしてしまわれたのですか?」
ヴァンの指摘は最もだ。聞いていない俺も迂闊だったな。ルネが声を潜める。
「僕ね誘拐されそうになったの」
誘拐?!物騒なワードに俺はお茶を吹き出しそうになった。ヴァンも同様だ。ゴホゴホしてる。
とりあえず落ち着いたので、詳しく聞いてみる。
「どんな奴らだった?そいつらは警察に捕まったの?」
「ううん、もう三十年も前だよ?僕も自分で飛べるようになったばかりで、はしゃいでいたし。でもペンダントはその日に失くなった…と思う」
良く覚えていないとルネは謝った。
「龍姫様は悪くないですよ。悪いのは誘拐犯です!」
ヴァンは一見冷酷そうに見えるけど真っ直ぐな良いやつみたいだ。俺もそう思うと頷いた。ルネは何も悪くない。
「龍姫様、ペンダントのデザインを教えてください。私なりに探してみます」
「本当?」
ヴァンに頼って正解だったみたいだ。ルネとヴァンはペンダントの絵を描き終えた。こうして見るとめちゃくちゃ高そうなペンダントだ。こんなに大きな宝石、多分世界を探してもなかなかないだろう。
「ショーゴ殿、このことはまた報告致します」
「あぁ、頼むよ」
さ、訓練か。俺ものんびりしてられないぞ。
「ルネはどうする?」
ルネは頰を膨らませてる。あ、聞くまでもなかったか。
「僕も一緒に訓練する!!」
午後はピンフィーネさんの指導の下、厳しい訓練が行われたのだった。
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