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訓練を終えた後、風呂に入って食事をする。

「ショーゴ、今日も疲れたねー」

「うん、もう眠たいよ」

箸で唐揚げを掴みながら言う。あれからライクとヴァンの諍いもないしすごく平和だ。仲良くするのはまだ難しいかもしれないけど、お互い信頼し合えればまた違うはずだ。そんな事を思っていたら、ライクから声を掛けられた。

「お、さすがに疲れてるな。お前の装備、明日出来るんだろ?楽しみだな!」

そういえばそうなのだった。今俺が着けている装備はピンフィーネさんいわく玩具レベルだったらしい。ディアにはいつか一言言ってやらないと気がすまない。

「昼間は本当にありがとうな」

ライクの言葉が嬉しい。

「良く休めよ」

そう肩を叩かれて俺は頷いた。仲間っていいな。
唐揚げを頬張って、麦飯をかきこむ。うまー。
ルネも食べ終わったらしい。明日も午前から訓練だし頑張るか。

「ごちそうさまでした」

食べ終えて手を合わせる。ルネがはじめこれを見た時、すごく驚いていた。手を合わせるのは神様に祈る時だと。俺も詳しく知っているわけじゃないけれど、命をくれた動植物たちに感謝しているのだと説明したら、ルネもやり始めるようになった。
なんか面白いな。
食器を返却して歯を磨く。ベッドに横になったら微睡む暇もなく俺は意識を飛ばしていた。

「ショーゴ、点呼だよ」

「んぁ、ありがとう」

ルネの朝は早い。こうして毎朝起こしてくれて本当に助かる。朝飯を食べていたら、ピンフィーネさんがやって来た。彼女がいるだけで雰囲気がピリッとなるのはすごい。さすが団長だ。

「ショーゴ、明日からの任務について後で説明する。昼食を食べ終えたら団長室へ来なさい」

「分かりました」

俺は内心ドキドキしていた。明日からの任務をちゃんとこなせるかどうかも怪しい。俺の緊張がルネにも伝わったのか、大丈夫と抱き着かれた。ルネがこうして傍にいてくれて本当に良かった。午前の訓練を終えて昼飯を食べた。団長室のドアをノックすると中から声が聞こえる。

「失礼します」

中にいたのはピンフィーネさんとフィーナさんだった。二人がにこにこしている。俺は期待感が高まっていた。ついに。

「ショーゴ、お前の装備が出来た」

ピンフィーネさんが差し出してきたのは黒い防具だった。つやつやぴかぴかしている。なんか見るからに強そうだ。ディアが渡してきた装備とは比べ物にならない。ディアは俺なら騙せるって思ったのかな、だとしたら少し悲しい。

「これはドラゴナグルの鱗と逆鱗を使っている。耐久に優れ、熱や水にも強い。だが装備品は所詮装備品だ。どう扱ってやるかはお前次第だよ」

ピンフィーネさんの言葉に俺は頷いた。その通りだ。

「こちらもショーゴ様のものですよ」

フィーナさんが持ってきてくれたのは、漆黒の片手剣だ。すごい。柄を握ると力が湧いてくる気がするな。盾も明らかに頑丈そうだ。

「ドラゴナグルの骨を削り出して作っています。きっとあなたの役に立ちますわ」

「こんなに良いものをありがとうございます」

感激して頭を下げたら、ピンフィーネさんに肩を叩かれていた。顔を上げるとピンフィーネさんの勝ち誇ったような表情が目に入る。

「騎士としてこれから腕を磨け。皆、お前に期待している」

「はい!」

俺は新しい装備品を着けて、午後の訓練に参加した。もちろんルネも一緒だ。ルネは人間に比べるとかなりタフらしい。さすが龍だ。人間のように装備品を着ける龍もいるらしいけど、ルネは着けたことがないらしい。理由としては基本的に戦わないから、だそうだ。戦わないで済むならそれに越したことはないんだよな。ルネは占いを専門にしているし、村では大事にされていたんだろう。

「ショーゴ、いい装備品だな」

「俺様のも見てくれ!」

騎士さんたちに取り囲まれるのはさすがのルネも苦手らしい。俺の背中にずっと隠れていた。
そういうところも可愛いと思ってしまう俺は多分末期なんだよな。それから、騎士さんたちの装備談義が始まってしまった。途中で飽きたのかルネはそろり、と俺の背中から顔を出した。騎士さんたちがそれに気が付いて、ルネにも優しく声を掛けてくれた。ルネはそれで平気になったらしい。ニコニコしながら皆で話してたな。やっぱり可愛い。

✢✢✢
もう夜になっている。
俺はピンフィーネさんに言われて端末のアップデートをしていた。どうやら仲間と通信することができるようになるらしい。便利だなぁ、本当にスマートフォンみたいだ。しかも音声で操作できるから、戦っている間も使える。これなら作戦も立てやすいな。この端末は僅かな光でも充電可能だそうだ。助かる。
明日、俺たちは朝一番の汽車で、山向こうにある村に行く。そこからは陸路なのだ。中央まで、かなり厳しい旅になりそうだ。端末によれば、点々と宿なんかがあるらしい。上手く馬と宿を使いながら進めとのことだ。ちょっとワクワクしてしまうのは男なら誰もが持つ厨二心をくすぐられるからかもしれない。ルネは俺のベッドに丸くなっている。眠いけど俺から離れたくないなんて可愛いことを言われてしまった。だからしばらくここにいていい?という言葉に頷かざるを得なかったのだ。

「ショーゴ、機械出来たの?僕たち明日、汽車に乗るんだよね!」

ルネは汽車に乗るのは初めてらしい。俺も石炭で動く汽車に乗るのは楽しみだった。ルネの頭を撫でる。

「ルネ、明日からしばらく大変だけど、よろしくな」

「うん!二人なら頑張れるよ」

ルネが梯子を登って自分のベッドに向かう。さて、俺も眠ろう。気が付くと眠りに落ちていた。

「ショーゴ、ショーゴ!」

「ん…ルネ?」

「汽車に早く乗りに行こ!」

ルネはワクワクと言った様子だ。俺は起き上がってルネの頭を撫でた。

「大丈夫、汽車は逃げないからね」

「でも乗らないと逃げちゃうんでしょ?」

あれえ?とルネが首を傾げている。どうやら色々な情報が錯綜しているな。昨日騎士さん達にあることないこと吹き込まれていたからな。とりあえずベッドから俺は這い出た。朝飯を食べたら出発だ。俺はルネに向き直った。

「汽車は決まった時間に走るからそれで時間に乗らなかったら逃げるってこと…かな?」

「えー!汽車ってすごーい!つまり、時間通り走ってるってこと?」

「うん、天気によってはたまに遅れたり止まったりするから困ることもあるけどね」

「人間すごい…」

ルネが震えている。そんなに驚かれると種族の違いを改めて感じさせられるな。人間の当たり前は龍にとって当たり前じゃない。これは他の種族も然りだ。ここでは特別気を付けよう。

そんなこんなしているうちに毎朝行われる点呼の時間になった。点呼を行うのは部隊長であるハッサの役割らしい。俺の顔を見るなり抱きついてきたから驚いた。ルネだと嬉しいけど、ハッサはたくましいからなぁ。熊に襲われたらこんな感じなのかもしれない。あくまで例えだから、熊が近くにいる時には皆、外出しないでね。

「ショーゴ、お前はすごい!中央に派遣されるなんて相当のツワモノだぞ!」

ハッサはそう言うけど、そうなのかな?チラッとルネを見たら、ルネが首を横に振る。どうしようもできないという意思表示だ。ルネがどうしようもできないなら俺にもどうしようもできない。

「ショーゴ、いっぱい食って出掛けろよ!」

しばらくハッサはあれに気を付けろとかこれには近付くなと俺に色々教えてくれた。持つべきは熱い部隊長かもしれない。
朝ごはんもしっかり食べて端末を腰に差す。剣と盾は背負った。瞬時に構えられるようにここのところ、ルネと練習していた。多分大丈夫だ。

いよいよ出掛ける時間になった。荷物をもう一度確認していると、ピンフィーネさんがやって来た。

「回復薬を渡しておこう。あと簡易テントだ。保存食もな。不味いだろうが狩りに慣れるまで耐えろよ」

ピンフィーネさんが声を潜める。

「ディアには私から話を付けておく。あいつは元々あんなチャラチャラしたやつじゃなかったんだが、どうも魔王が現れてから皆おかしい」

「分かりました、お願い致します。団長」

ピンフィーネさんが一瞬固まって、笑い始めた。
あれ?俺おかしいこと言ったかなぁ?

「お前に団長と認められたか。人生どうなるか分からないな。では、龍姫に愛されし騎士ショーゴよ、行って参れ!」

「行って来ます!」

いつの間にかライクやヴァン、他の皆も俺たちを見送ってくれたのだった。
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