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宿舎から歩いて15分ほどの所に駅がある。ここにはモアグリア鉄道が走っているのだ。もちろん国鉄だ。私鉄は過去には存在していたらしいけれど、今は走っていない。まあ今の情勢なら仕方ないよな。ここの駅まで歩いてきたけれど、人は相変わらず全然いない。もちろん駅の中にもだ。切符を買わなきゃなと俺は思って、それも不要であることを思い出した。騎士やその身内はお金を持たなくても暮らせる。それがこの世界の当たり前らしい。端末を機械に翳すとバーが開く。うん、自動改札機はやっぱり便利だな。ルネは全てが珍しかったらしい。ホームの長さにまず驚いて、数字について尋ねてくる。
この駅「西三番」駅という名前だ。ルネが聞いた数字というのは車両の位置を示すものだった。ルネにとって数字はすごく重要な概念らしい。確かに数字って占いに欠かせないもんな。
俺は端末で自分の乗る車両を確認した。3両車目らしい。ルネが楽しそうに付いてくる。今日は山向こうにある村で馬を調達して、そこから一番近い宿を目指して10キロほど歩こうと思う。どうなるかはまだ分からないけれど、やるだけやるしかないな。

アナウンスが入って汽車が蒸気を立てながらやってきた。テンションの上がったルネが線路に向かって飛び出そうとしたから慌てて抱き留める。俺たちは後ろに倒れ込んだ。危なかった。ほっと息を吐いて俺は言った。

「ルネ、危ない。死んじゃうよ」

「ごめんなさい」

ルネが泣きそうな顔でしがみついてくる。頭を撫でるとルネがホッとしたように笑った。さすが龍姫様。人間の世界じゃ知らないことがいっぱいあるんだな。俺に出来る範囲で色々教えてあげよう。きっと占いにも役立つだろうから。
汽車に乗って指定された席に座った。汽車がみるみるスピードを上げていく。

「速ーい!」

ルネが窓ガラスに張り付いて流れていく景色を見ている。俺はそんなルネを見てほっこりした。無邪気で可愛らしいルネは俺の癒やしだ。俺たちが目指す村は汽車で一時間ほどかかる場所にあるらしい。その村から中央へ向かうためには歩いて二週間程かかるそうだ。その道程、約150キロ。気が遠くなりそうな道程だけど、魔王の動向を探るために行くしかない。その間に勇者が召喚される可能性もある。魔王が動き出さないとも限らない。全て憶測に過ぎないけれど、臨機応変に動かなきゃいけないのは確かだ。

「ねえ、ショーゴ?」

ルネが首を傾げた。どうしたんだろう?

「この汽車、他に誰も乗ってないね」

俺はそこで気が付いた。確かに不自然だ。

「他の車両を見に行ってみない?」

ルネが心配そうに言うので俺は頷いた。この世界に全然人がいないわけではないのは騎士の宿舎で証明されている。それにギルドにだって人は居た。俺たちは立ち上がって、揺れる車内を歩いた。次で5車両目だ。中に入ると座席がない。なんでだ?俺が驚いていると、すたっと誰かが現れた。彼は懐中時計を懐から取り出した。なんだ?

「あと48分か。貴殿がショーゴだね?まあいい、始めようか」

彼が両手に持ったのは真紅の双剣だ。彼の実力が並大抵じゃないことは俺でも分かる。俺も剣と盾を素早く構えた。彼の斬撃を盾でなんとか防ぐ。もう踏み込んでくるのか。いや、まだ大丈夫、相手の動きに俺もついていけている。俺はすかさず切り返した。もちろん双剣であっさり弾かれる。悔しい。俺たちはしばらく攻撃を仕掛け続けた。撃つ、弾くの連続だ。

「なんで急に襲ってくるんだ?」

訳も分からないまま切りかかられるなんて真っ平だ。相手がニイィと楽しそうに笑う。

「ピンフィーネに頼まれた」

「団長が?!」

「この汽車の環境を活かし、騎士の訓練する。そのためにこの汽車はあるのだ。まさしくバトルトレイン!」

バトルトレインだって?そんな汽車、ゲームか漫画の世界にしかないって思っていたぞ?相手の斬撃を受け止めながら俺も攻撃に転じる。
その瞬間、汽車がぐらりと左に傾いた。どうやら急カーブに入ったらしい。駄目だ、体勢が保てない。

「く…」

「ショーゴ!!」

ルネが叫んでいる。す、と首の間近に剣先を突き付けられた。やられると思った瞬間、彼が双剣を鞘に収める。

「はははっ!私とここまでやり合えるとは」

「ショーゴ!!」

ルネが俺に駆け寄ってくる。

「まだ名乗っていなかったな。私はボリ。このバトルトレインのオーナーだ」

それからボリさんと話した。(ルネはずっとボリさんを睨み付けていた)この世界に住人がいないのは、みんな宇宙にある居住コロニーに避難をしているからだそうで、腕に覚えのある、つまり戦える人がこの星に残ったらしい。急に話のスケールが大きくなったなと俺が驚いていると、ボリさんは笑う。

「ショーゴ、貴殿は龍姫様の寵愛を受けているようだな。人間でそんなやつは今までいない」

ボリさんに言われて俺がルネを見つめるとにっこり微笑まれた。可愛いな。

「もう間もなく駅に着く。降車の準備を」

戦ったせいかめちゃくちゃ腹が減っている。村にはギルドがあるそうだからそこで何か食べよう。
俺はボリさんに頭を下げてバトルトレインを後にしたのだった。

✢✢✢

ギルドの場所はすぐ分かった。村が小さかったからだ。馬を借りる場所も分かった。どうやらこの村では馬を育てて冒険者や騎士に貸すのがそのまま生業になっているらしい。お陰であちこちで馬を見かけた。
蹄鉄を嵌めてもらっている馬や、草を食んでいる馬もいる。ルネは馬を見て俺の後ろに隠れた。怖かったみたいだ。これから一緒に旅をするのだから、慣れてほしいな。

「美味しい」

「うん、美味しいね」

頼んだのはギルドの日替わり定食である。安いしボリュームがあるのが売りだと腕力の強そうなオバチャンに言われた。多分、このオバチャンに俺は勝てない。おかずはレバニラと千切りキャベツ、漬物、味噌汁だ。本当に異世界はなんでもありだな。食べ物も古今東西と色々あるし、グルメな人はそれだけで楽しめる。ただし、この世界は平和じゃない。魔王が動く前になんとかしないとな。勇者早く来てくれ。

「ごちそうさまでした」

昼飯を食べ終わり、ギルドを後にする。さて、馬を借りよう。そう思ったら、くい、と後ろから服を引かれた。ルネかな?と思って振り返ると白馬がいる。ん?何事かな?

「ブルル」

大きな馬だった。鬣は銀色に煌めいているし、肌にも艶がある。

この子、俺に何か言いたげだな。ルネはやっぱり俺の後ろに隠れている。俺はよしよしと馬の頬を撫でた。馬が俺の手に顔を擦り付けてくる。可愛い。

「旦那!!そいつぁ、暴れ馬でさぁ!離れてください!!」

どうやら馬番の人らしい。腰には鉈を差していた。多分、彼も戦える人なんだろう。

その人に馬は威嚇するように嘶いた。余計なことを言うなと言っているみたいだ。威嚇された男性はその迫力に尻餅をついている。気持ちは分からなくもない。

「あの、この子を貸してもらえませんか?」

そう頼んだら、馬番はへぇ、と目を丸くして頷いていた。よし、いよいよ村を出るぞ。
クエストの時は飛竜に乗ってフィールドに出たけれど、今回は自分の足だ。目の前に大陸が広がっている。道らしき跡が残っているからこれを目印に進もう。

「君、ハクって言うの?僕はルネ、よろしくね」

ルネが白馬と楽しそうに話している。どうやらもう仲良くなったらしいな。

「ショーゴ、この子の名前、ハクだって」

ルネが自慢気に教えてくれるのが可愛い。

「ハク、俺は翔吾。よろしくな」

ハクは嬉しそうに顔を擦り付けてくる。

「ルネ、ハクに乗る?」

「うん!でもショーゴは?」

俺は笑った。

「俺は荷物をハクに持ってもらうから」

長い道中だ。ハクにあまり負担は掛けられない。
ルネはよいしょ、とハクに乗った。
俺たちは歩き出した。しばらくすると通信が入った。はじめはなんの音かと思って焦ったけれど、端末だった。ピンフィーネさんの声がする。

「ショーゴ、無事フィールドに出たようだな」

「団長!はい。今のところなにも変化はありません」

「うむ。だがフィールドに危険はつきものだ。油断するなよ」

「はい」

ピンフィーネさんはまた連絡すると言ってくれた。しばらく歩くと木々が生えている場所に出た。日差しが強くて暑かったから木陰はありがたいな。

「あ、ショーゴ。川もあるよ!」

ルネがはしゃぐ。端末を確認した。宿までもう少しか。ちょっと休憩にしよう。

ハクが水を飲んでいる。川辺は涼しいな。ルネは服をすべて脱いで水浴びをしている。
気持ちよさそうだな。

「わぁぁ」

ポム、と何かが弾ける音がしてルネが龍の姿になった。もちろん小さな龍だ。溺れると思ったのか、バチャバチャと慌てたように暴れて、水深が浅いことに気付いたらしい。一体ルネはなにをやってるんだ?

そんなルネがすうー、と俺のそばに泳いで寄ってきてぴょんと飛び掛かってきた。これは。
また俺は龍とキスしている。ルネはヒトの姿にもどっていた。俺を組み敷いた形でルネは俺を見つめている。青い瞳が綺麗だな。

「ルネ?」

「龍姫は番を探すんだよ。相手はどんな種族でもいいんだ。そして番になって龍姫は強力な力を得る。強力な祈りの力を。世界はそうやって守られてきたっていう御伽噺」

ルネはそれだけ言って、また俺の唇に自分のを重ねた。ふにっと柔らかい感触に俺は顔が熱くなるのを止められない。俺、まだ童貞だしな?
違うところも熱くなりそうで困った。

「ちょ、ルネ。待って」

「待つってどれくらい?」

「えーと…」

俺は困ってしまった。だから童貞なのだと言われたらぐうの音も出ない。

「ショーゴ、大好きだよ」

ぎゅ、と抱きつかれて俺はルネの頭を撫でた。俺だってルネが大好きだ。気持ちならルネに負けていない。ルネを抱き寄せてキスした。ルネは俺を受け入れてくれた。舌でルネの口内を撫でるように舐め取る。

「ん…っふ、ン」

ルネが俺の背中に手を回す。いつの間にかルネを押し倒していた。唇を離すとつ、と銀糸がつたった。やばい、ルネがエッチすぎる。俺は慌ててルネから離れた。

「ショーゴ?どうしたの?」

ルネが起き上がって、全て分かっているという顔で笑っている。何がどうしたの?だ。完全に手の平の上で転がされているのが分かる。年齢だけ見れば俺が上だけど、生きている年数だったらルネのほうが遥かに上なんだからしょうがないのは分かっている。でも悔しい。

「ショーゴは恋人を作るのは初めて?」

恋人というワードに俺はドキリとした。恋人なんて今まで出来たこともない。告白だってしたこともされたこともないしな。

「そうだよ…悪い?」

ちょっとムッとしたらルネがテテテ、と擦り寄ってきた。

「ショーゴ、触る?」

ルネの白い肌に俺が我慢出来るはずもない。でもそれをハクの嘶きで止められた。今はそんなことをしている場合ではないと言われた気がした。
そうだ、任務が俺にはあるんだ。

「る、ルネ、先に進まないと」

「うん、そうだよね。ごめんなさい」

ルネが身体に服を着ける。はあ、危なかった。ルネの色気には本当に気を付けないとな。
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