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夕暮れの中、飛空艇は静かにターミナルに着陸した。ここの付近には木製のコテージがずらっと建ち並んでいる。そう、世界屈指の巨大なキャンプ場があるのだ。翔吾たち一行はここに今日から二泊する。キャンプ場では、自分でテントを持参して張ってもよし、コテージに泊まるのもよし、とかなり自由性が高い。キャンプ用品は有料だが全て借りることも出来る。何も道具を持っていなくても、ここで十分に楽しむことが可能なのだ。シャナら子どもたちは、一刻も無駄に出来ない、と飛空艇に降りる前から身支度をしていた。何故なら、魔王城を落とすためだ。マヨイの転移魔法を使うため、そこまで一瞬である。だが、彼女の転移魔法は魔王城内では無効であることが分かっている。一度彼女はシャナと共に下見に行った。そこでマヨイが魔法を使い調べた所、判明したのである。魔王城内を探査する時間はわずかだ。
「父さま、母さま、僕たちちょっと行ってくるね」
「気を付けるんだよ」
とびすけの言葉に、ルネシアはそう明るく言ったが、翔吾は心配そうに黙っている。
「ショーゴー」
つんつんとルネシアに肘でつつかれ、ようやく翔吾も反応した。
「あ、あぁ。怪我をしないようにね」
とびすけはなんとなく分かっていた。二人は自分たちが何をしようとしているか知っていると。それでも彼らは自分たちを止めずに見守ってくれる。後でチサトに一応尋ねるとその通りだった。
「行ってきます」
とびすけら子どもたちは父と母に手を振って旅立った。はじめは徒歩でキャンプ場から少し離れた場所に向かう。転移魔法は人前でおいそれと使えるものではない。
それだけ高度な魔法である。マヨイが杖を取り出した。マヨイの杖はシャナが一本の枝から削り出した特別製である。彼女の身長より遥かに長いものだ。これからマヨイが成長することを見越して作られている。
「行くわよ」
マヨイは杖を振るった。光に包まれたかと思うと目の前には魔王城がそびえている。マヨイの魔法の安定性にとびすけは未だに驚く。彼女は間違いなく天才である。
「ついに来たか」
シャナが腰に差した剣を撫でるように触った。戦士と表現するにはまだシャナは幼すぎるが、彼からは貫禄すら感じさせる何かがある。只者ではないという何かが。
マヨイが城の入口の前で魔力を込めて杖を振るうと、扉がギィィと音を立てながら開いた。あまり知られていないことだが、魔王城には意思があるようだとシャナとマヨイは二人で外から下見をした際、そう結論付けていた。マヨイは元々、ここの主だったヒトである。魔王城がマヨイを受け入れるのは当然のことだった。
「行くぞ」
シャナの号令で子どもたちは魔王城内に足を踏み入れたのだった。
✢✢✢
一方で、ルネシアと翔吾はルネシアの波導の力を使い、子どもたちの様子を見守っていた。何かがあればすぐに向かえるよう翔吾は準備をしている。二人はコテージの外にある椅子に腰掛けていた。
「ふーん、マヨイとシャナはよく調べてる」
「二人で魔王城に下見に行っていたなんて全然気付かなかったよ」
翔吾がため息を吐きながらそう溢すと、ルネシアが笑った。
「いいじゃない。勇者と魔王が仲良しなんて」
「まぁそうか…」
平和なのは間違いない。
「魔王城を陥落するのもマヨイのためっていう部分が大きいみたいだし、いい子たちに育ってくれてお母さん嬉しい」
「もう少しお父さんらしいことしたい」
「大丈夫、これからだって十分出来るよ」
ルネシアに叱られてから、翔吾は我慢していた。だが、可愛い子どもたちのために何かをしてやりたいという気持ちに変化はない。
「ショーゴは焦り過ぎ。大丈夫だよ、ね?」
ルネシアが優しく諭すと、ショーゴも渋々だったが頷いた。
「あ、城に入ったみたい」
「なんかいる?」
翔吾の言葉にルネシアは意識を波導に集中させる。
「大丈夫だけど、気配はあるね。ショーゴ、僕たちも行こう」
ルネシアが静かに立ち上がる。そして、龍の姿になった。ルネシアは小さい龍だ。だが翔吾一人を運ぶならわけない。翔吾を背に乗せて、ルネシアは飛んだ。
子どもたちに悟られないよう気配はなるべく消す。ルネシアは今回の件をこう名付けていた。「はじめての大冒険」と。
✢✢✢
「うーん、マジで何もないな」
シャナはマヨイと共に描いた内部の図面を見ながらぼやいた。広がるのは暗い通路だけだ。ルーの魔法により、ぼんやりと照らされている。
「で、でも子どもたちがいなくなったって」
とびすけは城の雰囲気に怖くなって、シャナの後ろに隠れるようにいた。マヨイが上を指差す。
「上に気配がある。そうよね?チサト」
「複数の意識を感じるよ」
意識を感じるならば思考ができる知性を持った何者かがいる、ということになる。
「よし、上に行ってみるか。とびすけ、頼む」
「うん、罠を仕掛けるんだね」
もし何か危ないものに追い掛けられた時は罠で相手を足止めする。転移魔法が使えない以上、自分の足で逃げる他ない。シャナは満足そうに頷いた。
「発動タイミング、頼んだからな」
「任せて」
子どもたちは円陣を組んだ。ここから何が起きるか分からない。
「えいえいおー」
静かにお互いを勇気づけ、階段へ続く通路を目指した。
「父さま、母さま、僕たちちょっと行ってくるね」
「気を付けるんだよ」
とびすけの言葉に、ルネシアはそう明るく言ったが、翔吾は心配そうに黙っている。
「ショーゴー」
つんつんとルネシアに肘でつつかれ、ようやく翔吾も反応した。
「あ、あぁ。怪我をしないようにね」
とびすけはなんとなく分かっていた。二人は自分たちが何をしようとしているか知っていると。それでも彼らは自分たちを止めずに見守ってくれる。後でチサトに一応尋ねるとその通りだった。
「行ってきます」
とびすけら子どもたちは父と母に手を振って旅立った。はじめは徒歩でキャンプ場から少し離れた場所に向かう。転移魔法は人前でおいそれと使えるものではない。
それだけ高度な魔法である。マヨイが杖を取り出した。マヨイの杖はシャナが一本の枝から削り出した特別製である。彼女の身長より遥かに長いものだ。これからマヨイが成長することを見越して作られている。
「行くわよ」
マヨイは杖を振るった。光に包まれたかと思うと目の前には魔王城がそびえている。マヨイの魔法の安定性にとびすけは未だに驚く。彼女は間違いなく天才である。
「ついに来たか」
シャナが腰に差した剣を撫でるように触った。戦士と表現するにはまだシャナは幼すぎるが、彼からは貫禄すら感じさせる何かがある。只者ではないという何かが。
マヨイが城の入口の前で魔力を込めて杖を振るうと、扉がギィィと音を立てながら開いた。あまり知られていないことだが、魔王城には意思があるようだとシャナとマヨイは二人で外から下見をした際、そう結論付けていた。マヨイは元々、ここの主だったヒトである。魔王城がマヨイを受け入れるのは当然のことだった。
「行くぞ」
シャナの号令で子どもたちは魔王城内に足を踏み入れたのだった。
✢✢✢
一方で、ルネシアと翔吾はルネシアの波導の力を使い、子どもたちの様子を見守っていた。何かがあればすぐに向かえるよう翔吾は準備をしている。二人はコテージの外にある椅子に腰掛けていた。
「ふーん、マヨイとシャナはよく調べてる」
「二人で魔王城に下見に行っていたなんて全然気付かなかったよ」
翔吾がため息を吐きながらそう溢すと、ルネシアが笑った。
「いいじゃない。勇者と魔王が仲良しなんて」
「まぁそうか…」
平和なのは間違いない。
「魔王城を陥落するのもマヨイのためっていう部分が大きいみたいだし、いい子たちに育ってくれてお母さん嬉しい」
「もう少しお父さんらしいことしたい」
「大丈夫、これからだって十分出来るよ」
ルネシアに叱られてから、翔吾は我慢していた。だが、可愛い子どもたちのために何かをしてやりたいという気持ちに変化はない。
「ショーゴは焦り過ぎ。大丈夫だよ、ね?」
ルネシアが優しく諭すと、ショーゴも渋々だったが頷いた。
「あ、城に入ったみたい」
「なんかいる?」
翔吾の言葉にルネシアは意識を波導に集中させる。
「大丈夫だけど、気配はあるね。ショーゴ、僕たちも行こう」
ルネシアが静かに立ち上がる。そして、龍の姿になった。ルネシアは小さい龍だ。だが翔吾一人を運ぶならわけない。翔吾を背に乗せて、ルネシアは飛んだ。
子どもたちに悟られないよう気配はなるべく消す。ルネシアは今回の件をこう名付けていた。「はじめての大冒険」と。
✢✢✢
「うーん、マジで何もないな」
シャナはマヨイと共に描いた内部の図面を見ながらぼやいた。広がるのは暗い通路だけだ。ルーの魔法により、ぼんやりと照らされている。
「で、でも子どもたちがいなくなったって」
とびすけは城の雰囲気に怖くなって、シャナの後ろに隠れるようにいた。マヨイが上を指差す。
「上に気配がある。そうよね?チサト」
「複数の意識を感じるよ」
意識を感じるならば思考ができる知性を持った何者かがいる、ということになる。
「よし、上に行ってみるか。とびすけ、頼む」
「うん、罠を仕掛けるんだね」
もし何か危ないものに追い掛けられた時は罠で相手を足止めする。転移魔法が使えない以上、自分の足で逃げる他ない。シャナは満足そうに頷いた。
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