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第二話「サチの結婚式」

招待状

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「ただいまー!れいらに綺麗なお手紙が来ていたよ!」

「お帰り、イヴ。ラウ様も」

「ただいま。どうやらそれはサチさんからのようですよ」

「サチから?」

イヴから封筒を受け取ると、それは淡いピンク色をしていた、花の模様のついた可愛らしい物だ。
ラウの屋敷は山の中にある。そのため、郵便物が直接は届かない。
月に二回ほどラウが、街にある大きな郵便局へまとめて取りに行くのである。
今日はそれにイヴが同行してくれたのだ。
レイラはペーパーナイフで封を開けた。
便箋も同じ色である。花の香りがふわっと漂う。いい香りだ。

レイラが中身を読むと、彼女が結婚式を挙げるという旨が記されていた。
レイラを含めラウ達全員に結婚式に参加してほしい、そう書いてある。

「ついに結婚されるんですね。サチさんも」

上から覗き込んでいたラウが言う。

「あたしもお手紙見たいー!」

イヴが騒ぎ出したのでレイラは彼女に便箋を渡してやる。
最近イヴは読み書きが出来るようになった。
トウマとレイラが教えたのだ。
彼女は飲み込みが早く、あっという間に習得してしまった。

「お帰り。兄さん達」

トウマが箒と塵取りを手にやってくる。
今までレイラと一緒に家の掃除をしていたのだ。それが一段落したのだろう。

「トウマー!これ読んでみて!」

イヴに便箋を渡されてトウマは読み始めた。

「結婚式…に出るの?俺達が?」

トウマが少しわなついている。おそらく不安なのだろう。

「あぁ、そうだよ。トウマ」

ラウが頷く。

「さ、サチ様の結婚式、中央でやるって書いてあるけど」

確かにそう書いてあった。
サチの相手は騎士をしており、普段は城に仕えている。
だから彼は滅多にサチと会えないのだ。
そんな二人は文通をしながら、ゆっくり愛を育んでいた。

(サチ、よかったな)

レイラはそっと妹を思う。

「ねえ、兄さん。中央ってすごく都会なんだよね?
田舎者が行って大丈夫かな?」

「人は多いだろうね。スリやひったくりには気を付けないといけない」

トウマがごくり、と息を呑んだ。

レイラも中央の話はよく兄から聞いていた。兄は幼い頃から、武芸を習うため、中央にいる城の近衛隊長の弟子としてそこによく通っていたからだ。
今でもその繋がりは健在らしく、兄はよく師匠に会いに行っている。
何かと多忙な兄だが、そういう細やかな気配りができる彼をレイラは尊敬している。

「大丈夫だよ、トウマ。兄さんが言っていたけれど中央には警官や騎士がよく街を見回っているって」

「カヤ様はよく中央に行くんですか?」


「あぁ。1ヶ月に少なくても一度は行くと思う。心配なら手紙を出して聞いてみようか?」

「わぁ、お話聞きたいです!」

トウマが目を輝かせている。

「それなら早速手紙を書いて…」

レイラは振り返った。
誰かが玄関のドアを叩いている。
一体誰だろうか。

「お客様かもしれませんね。見てきます」

ラウがそう言って玄関に向かった。

「だれがきたの?」

イヴが首を傾げている。

「俺達も見に行こうよ」

トウマの言葉にレイラも頷いた。
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