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第二話「サチの結婚式」

中央

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「よっ!久しぶりだな!」

「に、兄さん?!」

玄関にはレイラの兄、カヤがいた。
なぜここに兄がいるのか、レイラにはわからない。

「いやー、やっぱり遠いなぁ。
中央から馬を替えながら来たんだぜ?」

「兄さん、どうして?」

「まぁ立ち話もなんだし、お前の淹れてくれたお茶とクッキー食べたいな」

カヤがぐいぐいくる。だんだん思い出してくる。なんともカヤらしい言葉だ。
レイラは兄のこういう部分がずっと羨ましかった。思わず笑ってしまう。
言い方は悪くなるが、兄は少し図々しい。
だが、いつの間にかそれが愛されるようになり、信頼に変わるのだ。
まるで魔法のようだと幼い頃は思っていた。


「はい、兄さん。ラウ様も」

兄とラウ、子どもたちの前に淹れたてのお茶を出す。
クッキーもたっぷり皿に盛って出した。

「いやぁー、腹減ってたから助かる」

カヤは大きなクッキーを一口で食べてしまう。
こういうところも、相変わらずなようだ。

「カヤ、ここに来た理由を話してくれますよね?」

ラウがそう言うとカヤは急に真面目な顔をした。赤毛の頭をぼりぼり掻きながら言う。

「いやぁ、最近中央の治安が悪くなってるって、ルリに聞いてさ」

ルリ、というのはサチの結婚相手だったはずだ。
トウマがサッと青ざめる。

「ルリに話を詳しく聞いたら、変なやつが城に出入りしてるんだってよ。国王も黙認してるなんていう噂も立ってる」

「じゃあ、結婚式は?」

レイラの言葉に、カヤは頷いた。

「予定通り式は挙げるってさ。でもその為にラウ、お前の力を借りたいんだ」

「私の?」

ラウが首を傾げている。

「偉い伯爵様なら城への出入りもスムーズだろ?その怪しいやつ、とっ捕まえてくれよ。
な?、頼む!」

カヤが頭を下げている。レイラには見せたことのない一面だった。

「…。わかりました。向こう二週間は公務もありません。
その間だけ中央に行ってみましょう」

「え?本当か?やった!じゃあ早速支度しないとな!」

レイラは突然のことについて行けなかった。

「兄さん、俺達は?」

カヤがにっと笑う。

「もちろん一緒に来てもらうぜ!ほら、早く支度しろ!」

なんだか厄介なことに巻き込まれたらしい。
レイラは渋々旅支度を始めた。

その日の夕方、レイラたちは中央に向けて馬車に乗って出発したのだった。
到着は明日の夜だそうだ。
気が遠くなるが仕方ない。
レイラは出かける前に薬の確認もした。
ちゃんと持っている。

「レイラ様」

トウマが隣で心配そうにしているのを見て、レイラは笑った。

「トウマ、大丈夫だよ。兄さんは信頼できる人だから」

トウマの小さな手をレイラは握った。
トウマも頷く。

「ほら、トウマ。少し休め。
疲れたろ?」

トウマが頷いて目を閉じる。
イヴはすっかりレイラの膝の上で眠っている。いつもなら昼寝している時間だ。

「レイラさんは本当に母親みたいですね」

向かいに座っていたラウが小声で言う。


「そうだといいのですが…」

大人として、子供たちに恥ずかしい姿はみせたくなかった。
まだ自信はないが、我ながら頑張れていると思っている。

「レイラさんは私に甘えてくださいね」

にこやかにラウに言われて、レイラは真っ赤になった。
この人にはどうやっても敵わないのだ。
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