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第二話「サチの結婚式」

噴水広場にて

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レイラたちはバロバニア中央の街中にある大きな宿にいた。
窓の外からは大きな噴水が見えている。
噴水広場と、ここでは呼ばれているらしい。

もう辺りは大分暗くなっている。
今日からしばらく、この宿を拠点とする様だ。ここの宿はカヤの顔が利くらしい。
初めて来たラウたちにあっさり部屋を貸してもらえた。

「レイラの部屋はラウと一緒な!」

当然のようにカヤに言われて、レイラは赤くなった。


遅い夕飯を食べ終わって、レイラがイヴの着替えを手伝ってやっていると、カヤがやってきた。

「なあ、レイラ?
結婚式のスピーチの文章作るの手伝ってくれよ」

「構わないけど、兄さんがスピーチするのか?父さんじゃなくて?」

「親父は恥ずかしいからできないって、頑なでさぁ」

確かに父はあまり人前に出ていくタイプではない。
その点、カヤはこういう性格だ。きっとうまくやり遂げるに違いない。

「わかった、手伝うよ」

「サンキューな!」

「いいなぁー!!!」

イヴが恨めしそうに言う。

「あたしも一緒にやりたいー!」

「イヴ、早く寝ておかないと明日動けないぞ」

レイラの言葉に、イヴは頬を膨らませた。

「わかってるもん!」

ブツブツ言いながらもイヴはベッドに潜り込んだ。
そしてすぐ寝息を立て始める。
長時間の移動で疲れたのだろう。
トウマはとっくに眠っている。

ラウは騎士の詰所にいるルリに詳しい話を聞きに行っている。


「レイラ、さくっとやろうぜ。俺もさすがに疲れたわ。ラウもそろそろ帰ってくるだろうし」

カヤは中央からラクサスの間をほとんど休み無しで往復しているのだ。とてつもない体力である。ラウもまた体力のある人だ。

「うん、そうしようか」

レイラもまた疲れていたので、それに応じた。カヤがスピーチの文章を紙に書き始める。レイラは隣で助言した。

「なるほど、ここはこうか」

「うん、いい感じだね」

まるで、パズルのピースのように言葉が嵌っていく。レイラは楽しかった。兄とこうして一緒に過ごすのも久しぶりだ。

「ただいま戻りました」

「お帰りなさい!」

ラウが戻ってきたようだ。
金色の髪の毛に雫が付いている。
レイラはタオルを出して彼に渡した。

「雨が降っていましたか?」

レイラが尋ねるとラウは笑って首を横に振った。

「城の裏庭から中の様子を探ってきました。その時に木に当たったんです」

「ええ?」

ラウの大胆さにレイラは驚く。

「ああ、やっぱりお前もそうするよな」

「はい」

カヤがなんでもないように言うのでレイラはまた驚いた。

「城の裏庭と詰所がつながってるんだよ。ルリもそこで怪しい人影を見たって言ってたし」

「なるほど」

レイラはようやくホッとした。
それなら危ないこともないだろう。


「噂話というのもルリさんから詳しく聞くことができました。どうやら最近、城で怪現象が起こっているのだとか」

「怪現象・・・」

レイラは少し背筋が寒くなる。

「お化けってことですか?」

恐る恐る尋ねると、ラウは考えているようだ。

「お化けとは少し違うような」

「確かにな」

レイラには二人の言葉の意味が分からない。

「明日、国王に謁見できるようにアポを取ってきました。
私も国王にいろいろ報告したいですしね。レイラさん、一緒にお願いします」

「え?俺も?」

「もちろんですよ。トウマやイヴさんにも来てもらいます」

レイラは突然不安になった。この国のトップに自分が会う機会がくるなんて思いもよらなかった。


「ま、大丈夫だよ。俺達の国王はいい人だ。レイラも分かっているだろ?」

「そうだけど」

だからこそ、この巨大な国を治められている。
他国とのいざこざもほとんどない。あっても国王は武力は使わない。
国民からの支持率が高い理由はそこにもある。

「よし、スピーチも完成したし、俺達も寝ようぜ」

「そうですね」


「いちゃいちゃしすぎんなよー」

「カヤ、心配は無用ですよ」

三人はそれぞれの部屋に戻った。

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