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第三話「トウマの想い〜イヴの過去」

ある春の夜(おまけSS)

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トウマが中央に修行で行ってから既に数日が経過していた。
トウマがいないと、なんとなく寂しくて、レイラは気が付くとため息をついてしまっている。
これではいけない、とレイラは気持ちを切り替えようとするのだが、なかなかそれが難しかった。

「れいら、トウマのこと考えてる?」

イヴにはそれが分かるらしい。元々鋭い子だ。

「ああ。トウマがいないと寂しくってな」

「そうだね」

だが一番寂しいのはイヴだろう。それでも彼女は変わらず生活しているように見える。

(イヴは強い子だな)

そっと彼女の頭を撫でるとイヴがレイラに抱き付いてくる。

「れいら、トウマは毎日勉強してるんだよね?」

「ああ。外にはいろいろ学ぶことがあるからな」

「あたしにもお料理教えてくれる?」

「・・・・!」

イヴは彼女なりに前に進もうとしている。その姿がレイラは嬉しかった。
それに自分でも誰かに教えられることがある。
それもレイラは嬉しかった。



「そうだったんですね」

深夜になって、帰ってきたラウが夕飯を食べている。
レイラは今日のイヴの話をした。いつものことだが、ラウは嬉しそうに聞いてくれる。

「レイラさんはお料理もお裁縫も上手ですから、沢山イヴさんに教えられますね」

にっこりとラウが笑って言う。

「はい。俺には男らしい部分が少ないと思うし、やっぱりトウマの見本にはなれなかったから」

「そんなことはないですよ」

真顔でそうラウに言われてレイラは首を傾げた。

「レイラさんの料理の味付けの仕方はすごく男らしいです」

「え?もしかして不味い、ですか?」

慌てて聞くとラウが笑っている。

「いえ、とても美味しいです。前にそうトウマが言っていました」

「えええ」

トウマにそんな風に言われていたとは、とレイラは赤くなった。

「お、俺、いつも調味料は目分量だし・・・適当なんで」

「それは確かに男らしいですね。トウマはそういう部分ではきっちり計るタイプですし、性格もあるのでしょうが」

確かにその通りだった。ラウはよく分かっている。

「お菓子の時はきっちり計っていますからね」

レイラが慌てて言うと、ラウは笑っていた。



「レイラさん、ここに来てください」

夕飯を食べ終わってお風呂も済ませたラウがソファに座って言う。レイラは素直にそれに従った。

最近、ラウが忙しくて二人きりになかなかなれなかった。
ラウに抱き寄せられるといつものように甘い匂いがする。
レイラはこの匂いが好きだ。だがこの匂いが自分をおかしくするのもよく分かっている。

「ラウ様は寂しくないんですか?」

少しいじけたようになってしまった。
ラウがレイラの髪の毛をすく。

「寂しいですよ。トウマがいつの間にか一人の男になっているのに。
それに気が付かなくて、兄としてふがいないです」

「それは・・・・俺もです」

ずっとトウマを小さい幼い子供だと思ってしまっていた。

「トウマはずっと考えていたんでしょうね。どうしたら前に進めるかって」

ラウが優しく言う。レイラは彼の胸にしがみついた。

「俺、毎日寂しくて仕方ないんです。トウマがいるのが当たり前だったから」

「そうですね」

そんなレイラにラウはキスをする。

「んっ、ふ」

そのキスにレイラはとろけそうになった。

「うんっ・・・ふ」

ぎゅっとラウの服を掴んでレイラは快感に耐えた。久しぶりで気持ちがいい。ラウに耳元で囁かれる。

「レイラさん、今度トウマに会いに行きましょうか」

「え、本当ですか?」

「もうすぐ本格的に春が来ますし、私はたまに中央へ様子を見に行っています」

「そうだったんですね」

それなら少し安心だ。

「レイラさん」

するりと腰を撫でられてレイラはびくりとした。

「今日はあなたも頂いていいでしょうか?」

「あ・・・どうぞ」

レイラは真っ赤になりながらそう答えるのだった。

おわり
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