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第三話「トウマの想い〜イヴの過去」
ラクサスへ(おまけSS②)
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※トウマが中央からラクサスに帰ってきた時の話です。トウマ視点(NLです)
俺がラクサスを出て、気が付けばもう三年が経っている。今は春だ。きっと北のラクサスにはまだ雪が残ってるだろう。
そんな折に兄さんに呼ばれて、俺はラクサスに一度帰ることにした。
なんで呼ばれたかと言うと、レイラ様と兄さんが結婚して五年目のお祝いをしたいからとのことだ。
二人にもしばらく会っていないな。
それと、イヴは元気かな。どうしているだろう。俺のこと忘れていないかな。
そんなことを思って少し不安になりながら、俺は山道を馬で走っていた。
初めは怖かった乗馬も今ではすっかり慣れた。
思っていたより、修行は厳しくて本当に辛い日もあった。
でも続けてこられたのはイヴが俺の心の中にいたからだ。
俺は自分の力でイヴを守りたくて、ここに来ている。
だから逃げるわけにはいかない、そう思って今まで頑張ってきた。
俺は、ずっとイヴが大好きだ。それはずっと、これからも変わらない。
イヴはこんな俺のことをどう思ってるんだろう。それを知るのは少し怖い。
山の中腹に来た頃だろうか。女の子が山菜を採っているのに出くわした。
熊避けの鈴を腰につけているらしく、彼女が動くたびにチリチリとそれが鳴る。
どこの人だろう?こんな山奥に珍しいな。
そう思って俺は馬を止めて降りた。
「あの・・・」
思い切って声を掛けると彼女が振り向く。
俺は驚いた。
彼女がすごく可愛かったからだ。
白い肌に大きな菫色の瞳。
肌と同じ白い髪の毛。もしかして。
「イヴ、なのか?」
「トウマ!」
イヴにぎゅっと抱きつかれる。
俺は彼女の背中にそっと自分の手を置いた。イヴは小さいなぁ。
いや、俺が大きくなったのか?
「トウマ、本当に帰ってきてくれたんだね
!あたし、ずっと待ってたよ」
「イヴ、待っていてくれてありがとう」
「れいらたちもきっと喜ぶよ。今、山菜を採っていたの。今日のお祝いにこれで料理を作って食べるからって」
「そうだったんだ」
レイラ様のことだから美味しい料理にしてくれるんだろう。
「トウマのお馬さん可愛いね」
じっとイヴが俺の乗ってきた馬を見ている。
「ああ、この子はエコっていうんだ」
俺が彼女の首筋を撫でるとエコはいなないた。いつもは大人しい子なのに珍しい。イヴが怖いのかな?
「大丈夫、エコ。イヴは優しいから」
「きっと嫉妬してるんだよ」
「え?」
イヴを見つめると、彼女は笑った。
「エコはトウマをあたしに取られちゃうって思ってるんだよね。可愛い子」
「イヴ・・・」
イヴが話しかけながらエコの体を撫でている。
そんなイヴの姿がすごく綺麗で俺は見とれてしまった。エコも気を許してくれたらしい。イヴにすり寄っている。
「トウマ?」
「いや、なんでもない」
「早く帰ろ」
「ああ。うん」
俺はエコの手綱を引いて、イヴと話しながら山道を登った。
イヴとずっと話していなかったから少し緊張した。
女の子と一体、何を話せばいいんだろう。正直に言うと中央にいる時は訓練場にいるから、ほとんど女性と遭遇しない。
訓練場、恐ろしい場所だ。
「トウマ、その剣おっきくてすごいね。重たいの?」
俺が腰に差していた剣を見てイヴが言う。
「ああ。これは初めてもらったやつなんだ。重いけど大事な相棒」
「すごいなー」
イヴが嬉しそうに笑ってくれてくすぐったい気持ちになる。
「あたし、れいらから沢山お料理を教えてもらったの」
「それは楽しみ、だな」
「今日もいっぱい作るからね」
「うん」
しばらく登っていくと家が見える。ようやく帰ってきた。
「れいらー!トウマが帰ってきたよお!!」
イヴが声を張り上げる。
するとレイラ様が家から出てきた。
「お帰り、トウマ!」
レイラ様、やっぱり綺麗だな。全然変わっていない。
「ただいま」
レイラ様が駆け寄ってきて俺を抱きしめる。
ああ、久しぶりだ。レイラ様ってなんでいつもいい匂いがするんだろう。不思議だ。
というか、俺の身長がレイラ様を抜いてしまっている。びっくりした。
「よく帰ってきたな、立派になって」
「なんか恥ずかしいよ。みんな元気だった?」
「もちろんだ。そうだ、すぐにお茶にしようか。ラウ様も今日は早く帰ってくるからな」
「そっか」
みんなでお茶を飲んでいたら兄さんが帰ってきた。
「トウマ、お帰り」
「ただいま。兄さんもお帰り」
「ああ、ただいま」
「ラウ様、甘いホットミルクでいいですか?」
「はい。それがいいです。いつもありがとう、レイラさん」
「はい」
二人は相変わらずラブラブなようだ。変わらないな。
「クッキーも足しておこうな」
そう言ってレイラ様が皿にクッキーを盛る。
どれだけ焼いたんだろう。こんなに食べきれないと思うけど。
「今日はトウマが居るからと思って焼き過ぎたんだ」
俺の気持ちが分かったのか、レイラ様が照れたように言う。なんだか嬉しい。
「今日は猪でいいかな?」
猪?俺にはなんのことか分からなかった。
兄さんが笑う。
「今日、猟友会の方から猪の肉を頂いたんだよ」
「ええ、すごい」
「今年は特に畑の被害が多くてね。最近猟友会を本格的に結成したんだ」
「へえ」
ラクサスもだんだん変わってきているんだな。
「ホテルはどうなの?」
俺の言葉に兄さんが笑う。
「今のところ順調だよ。スキー場も新しくなったし」
「そうなんだ、すごい」
俺の知らないところでいろいろなことが変わってるんだな。
少し寂しい気がする。
「トウマ、お夕飯楽しみにしていてね」
イヴが言う。
「俺も手伝うよ」
「今日くらい休んだらどうだ?」
レイラ様に頭を撫でられる。レイラ様からすれば、まだ俺は子供らしい。なんだか照れる。
「トウマ、レイラさんがそう言ってくださるのだから」
兄さんもそう言ってくれた。
「うん。じゃあお願いします」
それから俺は自分の部屋のベッドで横になっていた。
今日はひさしぶりにゆっくりできるなあ。
だんだん眠くなってきて、俺は目を閉じた。
「トウマー」
しばらくした頃、声を誰かに掛けられて俺は目を覚ました。
「イヴか」
びっくりした。というか目の前にイヴの顔があるのもびっくりする。
本当に肌が真っ白だな。
「トウマとお話ししたかったのー。起こしてごめんね」
「ううん。いいよ」
距離近すぎないか?俺はゆっくり後ろへずれた。
イヴが近寄ってくる。
どうしよう。壁際でもう後ろへ下がれない。
「トウマ、逃げちゃやだ」
「逃げてなんかないよ」
やばい、俺の心臓、バクバクいってる。イヴの白い髪の毛が俺の肩にかかってる。
顔が近い。
「イヴ、その・・・・恥ずかしいんだ」
「なんで?」
どうしたものか俺は迷って正直に言うことにした。
「イヴが可愛いから俺、イヴになんかしちゃうかも」
イヴが俺の上に乗ってくる。
「トウマならいいよ」
「え?」
俺は固まった。イヴは俺を好きでいてくれてるのか?
「だめだよ、イヴ。イヴは女の子なんだし」
俺は彼女の肩を掴んで自分から離した。
それにイヴが抵抗してくる。
「あたし、トウマじゃなきゃやだもん!」
「イヴ・・・本当?」
俺の問い掛けにイヴは頷いてくれた。
本当に可愛いよな。一応聞いてみる。
「じゃ、じゃあキス、とかしていいの?」
「うん」
するつもりは全然なかったけどイヴは顔を赤くして頷いてくれた。
「俺のこと好きでいてくれるの?」
「ずっと大好きなの知ってるでしょ?」
むううとイヴが頬を膨らませる。
そうだったんだ、小さい子特有のやつかと思ってた。
「イヴ、じゃあ俺達付き合ってみる?」
「うん」
イヴがようやく笑ってくれた。
「トウマ、だぁいすき」
ちゅっと頬にキスされて俺は顔が熱くなった。
こんなのずるい。聞いてない。
「トウマ、あたしお夕飯作るからもう行くね」
俺はイヴの手を握った。
小さい手だなあ。
「イヴ、俺もずっとイヴが好きだから」
「うん」
イヴを抱き締める。
俺がずっと守るから。
おわり
俺がラクサスを出て、気が付けばもう三年が経っている。今は春だ。きっと北のラクサスにはまだ雪が残ってるだろう。
そんな折に兄さんに呼ばれて、俺はラクサスに一度帰ることにした。
なんで呼ばれたかと言うと、レイラ様と兄さんが結婚して五年目のお祝いをしたいからとのことだ。
二人にもしばらく会っていないな。
それと、イヴは元気かな。どうしているだろう。俺のこと忘れていないかな。
そんなことを思って少し不安になりながら、俺は山道を馬で走っていた。
初めは怖かった乗馬も今ではすっかり慣れた。
思っていたより、修行は厳しくて本当に辛い日もあった。
でも続けてこられたのはイヴが俺の心の中にいたからだ。
俺は自分の力でイヴを守りたくて、ここに来ている。
だから逃げるわけにはいかない、そう思って今まで頑張ってきた。
俺は、ずっとイヴが大好きだ。それはずっと、これからも変わらない。
イヴはこんな俺のことをどう思ってるんだろう。それを知るのは少し怖い。
山の中腹に来た頃だろうか。女の子が山菜を採っているのに出くわした。
熊避けの鈴を腰につけているらしく、彼女が動くたびにチリチリとそれが鳴る。
どこの人だろう?こんな山奥に珍しいな。
そう思って俺は馬を止めて降りた。
「あの・・・」
思い切って声を掛けると彼女が振り向く。
俺は驚いた。
彼女がすごく可愛かったからだ。
白い肌に大きな菫色の瞳。
肌と同じ白い髪の毛。もしかして。
「イヴ、なのか?」
「トウマ!」
イヴにぎゅっと抱きつかれる。
俺は彼女の背中にそっと自分の手を置いた。イヴは小さいなぁ。
いや、俺が大きくなったのか?
「トウマ、本当に帰ってきてくれたんだね
!あたし、ずっと待ってたよ」
「イヴ、待っていてくれてありがとう」
「れいらたちもきっと喜ぶよ。今、山菜を採っていたの。今日のお祝いにこれで料理を作って食べるからって」
「そうだったんだ」
レイラ様のことだから美味しい料理にしてくれるんだろう。
「トウマのお馬さん可愛いね」
じっとイヴが俺の乗ってきた馬を見ている。
「ああ、この子はエコっていうんだ」
俺が彼女の首筋を撫でるとエコはいなないた。いつもは大人しい子なのに珍しい。イヴが怖いのかな?
「大丈夫、エコ。イヴは優しいから」
「きっと嫉妬してるんだよ」
「え?」
イヴを見つめると、彼女は笑った。
「エコはトウマをあたしに取られちゃうって思ってるんだよね。可愛い子」
「イヴ・・・」
イヴが話しかけながらエコの体を撫でている。
そんなイヴの姿がすごく綺麗で俺は見とれてしまった。エコも気を許してくれたらしい。イヴにすり寄っている。
「トウマ?」
「いや、なんでもない」
「早く帰ろ」
「ああ。うん」
俺はエコの手綱を引いて、イヴと話しながら山道を登った。
イヴとずっと話していなかったから少し緊張した。
女の子と一体、何を話せばいいんだろう。正直に言うと中央にいる時は訓練場にいるから、ほとんど女性と遭遇しない。
訓練場、恐ろしい場所だ。
「トウマ、その剣おっきくてすごいね。重たいの?」
俺が腰に差していた剣を見てイヴが言う。
「ああ。これは初めてもらったやつなんだ。重いけど大事な相棒」
「すごいなー」
イヴが嬉しそうに笑ってくれてくすぐったい気持ちになる。
「あたし、れいらから沢山お料理を教えてもらったの」
「それは楽しみ、だな」
「今日もいっぱい作るからね」
「うん」
しばらく登っていくと家が見える。ようやく帰ってきた。
「れいらー!トウマが帰ってきたよお!!」
イヴが声を張り上げる。
するとレイラ様が家から出てきた。
「お帰り、トウマ!」
レイラ様、やっぱり綺麗だな。全然変わっていない。
「ただいま」
レイラ様が駆け寄ってきて俺を抱きしめる。
ああ、久しぶりだ。レイラ様ってなんでいつもいい匂いがするんだろう。不思議だ。
というか、俺の身長がレイラ様を抜いてしまっている。びっくりした。
「よく帰ってきたな、立派になって」
「なんか恥ずかしいよ。みんな元気だった?」
「もちろんだ。そうだ、すぐにお茶にしようか。ラウ様も今日は早く帰ってくるからな」
「そっか」
みんなでお茶を飲んでいたら兄さんが帰ってきた。
「トウマ、お帰り」
「ただいま。兄さんもお帰り」
「ああ、ただいま」
「ラウ様、甘いホットミルクでいいですか?」
「はい。それがいいです。いつもありがとう、レイラさん」
「はい」
二人は相変わらずラブラブなようだ。変わらないな。
「クッキーも足しておこうな」
そう言ってレイラ様が皿にクッキーを盛る。
どれだけ焼いたんだろう。こんなに食べきれないと思うけど。
「今日はトウマが居るからと思って焼き過ぎたんだ」
俺の気持ちが分かったのか、レイラ様が照れたように言う。なんだか嬉しい。
「今日は猪でいいかな?」
猪?俺にはなんのことか分からなかった。
兄さんが笑う。
「今日、猟友会の方から猪の肉を頂いたんだよ」
「ええ、すごい」
「今年は特に畑の被害が多くてね。最近猟友会を本格的に結成したんだ」
「へえ」
ラクサスもだんだん変わってきているんだな。
「ホテルはどうなの?」
俺の言葉に兄さんが笑う。
「今のところ順調だよ。スキー場も新しくなったし」
「そうなんだ、すごい」
俺の知らないところでいろいろなことが変わってるんだな。
少し寂しい気がする。
「トウマ、お夕飯楽しみにしていてね」
イヴが言う。
「俺も手伝うよ」
「今日くらい休んだらどうだ?」
レイラ様に頭を撫でられる。レイラ様からすれば、まだ俺は子供らしい。なんだか照れる。
「トウマ、レイラさんがそう言ってくださるのだから」
兄さんもそう言ってくれた。
「うん。じゃあお願いします」
それから俺は自分の部屋のベッドで横になっていた。
今日はひさしぶりにゆっくりできるなあ。
だんだん眠くなってきて、俺は目を閉じた。
「トウマー」
しばらくした頃、声を誰かに掛けられて俺は目を覚ました。
「イヴか」
びっくりした。というか目の前にイヴの顔があるのもびっくりする。
本当に肌が真っ白だな。
「トウマとお話ししたかったのー。起こしてごめんね」
「ううん。いいよ」
距離近すぎないか?俺はゆっくり後ろへずれた。
イヴが近寄ってくる。
どうしよう。壁際でもう後ろへ下がれない。
「トウマ、逃げちゃやだ」
「逃げてなんかないよ」
やばい、俺の心臓、バクバクいってる。イヴの白い髪の毛が俺の肩にかかってる。
顔が近い。
「イヴ、その・・・・恥ずかしいんだ」
「なんで?」
どうしたものか俺は迷って正直に言うことにした。
「イヴが可愛いから俺、イヴになんかしちゃうかも」
イヴが俺の上に乗ってくる。
「トウマならいいよ」
「え?」
俺は固まった。イヴは俺を好きでいてくれてるのか?
「だめだよ、イヴ。イヴは女の子なんだし」
俺は彼女の肩を掴んで自分から離した。
それにイヴが抵抗してくる。
「あたし、トウマじゃなきゃやだもん!」
「イヴ・・・本当?」
俺の問い掛けにイヴは頷いてくれた。
本当に可愛いよな。一応聞いてみる。
「じゃ、じゃあキス、とかしていいの?」
「うん」
するつもりは全然なかったけどイヴは顔を赤くして頷いてくれた。
「俺のこと好きでいてくれるの?」
「ずっと大好きなの知ってるでしょ?」
むううとイヴが頬を膨らませる。
そうだったんだ、小さい子特有のやつかと思ってた。
「イヴ、じゃあ俺達付き合ってみる?」
「うん」
イヴがようやく笑ってくれた。
「トウマ、だぁいすき」
ちゅっと頬にキスされて俺は顔が熱くなった。
こんなのずるい。聞いてない。
「トウマ、あたしお夕飯作るからもう行くね」
俺はイヴの手を握った。
小さい手だなあ。
「イヴ、俺もずっとイヴが好きだから」
「うん」
イヴを抱き締める。
俺がずっと守るから。
おわり
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