特級・舞調理師カルマ!

はやしかわともえ

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おまけ

桜の季節に

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可愛い子だなと、最初から思っていた。その子の名前は「春川カルマ」。
高校生にはとても見えないほど小さくて、可愛らしい顔立ちをした男の子だった。
大きなリボンで髪の毛を一つに束ねている。
入学式が終わった後、彼がグラウンドに植えてある桜の木を一人でじっと見つめていたのを思い出す。
どうしたのだろう、と俺は気になって彼に話しかけた。俺はこの時、授業の一環で調理を生徒に教えるという名目上、学校にいた。

「春川くん、どうした?春とはいえ、まだ風も冷たい。早く家に帰りなさい」

「鳥が可愛くて、ほら鳴いてる」

カルマがそう言って微笑んだのを今でも鮮明に思い出せる。俺が恋に落ちた瞬間だった。でもそんなのは序の口だった。

カルマは見た目通り大人しい子だった。あまり手先が器用じゃないのか、他の子どもたちがなんなくこなす所で何度も躓いてしまう。
そのために補講も多くあった。
今日の放課後もまさにそれだった。キャベツの千切りをする練習をしている。

「うん、大分良くなってきたな」

「僕、調理師になれますか?」

心配そうにカルマはいつもそう尋ねてきた。俺はその度に、練習を重ねれば大丈夫だと返した。実際、カルマは時間をかけて練習を繰り返せば出来るようになった。
少し人より習得が遅いかもしれないが、それは決して劣っているわけではない。そもそも俺は、こういう子のために学校にいるのだからむしろ嬉しかった。

「せ、先生」

ある日の昼休み、カルマが真っ赤な顔で調理室にやってきたのには驚いた。
カルマが出したのはタッパーだ。蓋を開けると茶色い何かが入っている。

「これ、この前に教わったコロッケです。一人で作ったらちょっと焦げちゃったんだけど」

「俺が食べてもいいのか?」

「は、はい!!」

ぱああ、とカルマが顔を輝かせて頷いている。可愛らしい。
食べてみると、じゃがいもが少し固めだった。ふむ、まだまだだな。俺の教え方も悪いのかもしれない。

「あ、あの…直すところ教えてください。僕、毎日作ってるんですけど、まだ上手く出来なくて」

「わかった」

俺はカルマに教えたレシピを振り返りながら大事なことを教えた。
カルマはそれを全てメモしている。カルマからいくつか細かく質問されて、それにも答えた。

「学校から帰ったら課題で忙しいだろう?もうすぐテストだし」

カルマが笑う。

「テスト勉強もちゃんとしてます。父や母と約束したんです。料理したいなら勉強もしっかりするって」

「カルマは本当に料理が好きなんだな」

「はい!あ、あの、炎先生のことも大好きです」

俺はぽかん、としてしまった。急な告白に驚いた。

「炎先生、僕が卒業したら付き合ってください。だって僕、まだ子供だから駄目なんでしょう?」

「カルマの気持ちが変わってなければな」

「僕は本気です!」

カルマの言動一つ一つが愛おしい。それは今も、これからも変わらないだろう。

おわり

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