僕の死亡日記

はやしかわともえ

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七話・診察

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僕はハッとして目が覚めた。スマートフォンの画面を見ると、朝の六時すぎだった。夜中に飲んだ痛み止めはよく効いてくれていたらしい。深く眠ったら随分気持ちも楽になった。そういえば、最近の僕ときたら規則正しい生活すらしていなかった。例えば出掛けても、近くの中古品を扱っている本屋で、安くて面白そうな漫画やライトノベルを探しに行くくらいだった。夜もすぐには眠らずに、だらだらスマートフォンでネットサーフィンをしたり、興味深いネットニュースを見ていた。そう、僕はこの年齢にして、生きる目的を失っていたのである。ただただ惰性で生きているだけだったのだ。僕は一体今まで、何をしていたんだ。もったいない。でも今の僕は、そんな今までの僕とは違う。あの日記の子を助けたい。そんな目的が僕を突き動かしている。スマートフォンを操作してロックを解除すると、兄さんからメッセージが返ってきていた。大丈夫か、と。
確かに、急に弟から一緒に考えて欲しいなんて懇願されたら僕だって戸惑う。でも兄さんならきっと答えを導き出すことが出来る。そう信じているからこうして頼んでいる。兄さんに僕が見た不思議な夢?について詳しくメッセージを送ると、兄さんから少し時間が欲しいと言われた。あの兄さんが長考するなんて珍しい。僕は素直に了解の返事を送ったのだった。しばらくして、検温やらなんやらがあって朝ごはんがやってきた。僕はお腹がめちゃくちゃ空いていた。病院食ってなんて少ないんだろう。元々僕は小柄なのに、ますますガリガリになってしまったらどうするんだ。でも味付けが最強に美味しいのは認める。素材の味が活かされているし食べやすい。それから僕は診察を受けた。看護師さんに、精神科のフロアに連れて行かれたのがショックだった。偏見だって言われるかもしれない。でも自分の頭がおかしくなっているかもしれないってはっきり言われているようだった。精神科の待合室で診察を待っているほとんどの人は普通に見える。もしかしたら人間はみんな、自分が周りから違うと言われないように、思われないように、正体を隠しながら生きているのかもしれない。みんな本当は怪物で、実は、はじめから人間なんてものはいないのかもしれない。そこまでぐるぐる考えていたら名前を呼ばれた。あぁ、やだな。 

「詩史くん、君のことを教えてくれる?」

「…」

先生は優しそうに見えた。いや、僕の周りの大人はみんなそう見える。みんな、僕の気持ちや考えをちゃんと聞いてくれる人ばかりだ。でもその人たちの本心がどうなのかなんて、実際は分からない。僕はそこまで子供じゃない。本音と建前を使い分ける日本人は尚更だ。大人は本当に僕たち子供を守りたいなんて思っていない。じゃなかったら虐待なんて起きてない。大人なんてみんな、くそくらえだ。僕は診察の間、ずっと下を見ていた。先生や看護師さんが優しく声を掛けてくれたけど、絶対に騙されるもんかと意地になって黙っていた。結局、僕は最後まで何も言わずに病室に戻った。僕の気持ちを全て分かってくれるのは多分僕自身しかいない。人間はいつだって孤独な生き物なんだ。ふと、スマートフォンを見ると兄さんから返信が来ていた。

「鵺は獅子王という刀で明治時代後期頃に討伐されたらしい」

獅子王?刀?僕は兄さんが添付してくれた画像ファイルを開いた。なんて綺麗な刀なんだろう。見とれていると、再び兄さんからメッセージが来る。

「都内の博物館に展示されてるみたいだぞ」

僕はすぐさま行ってみたいと返信した。兄さんのことはまだ信頼できる。兄さんは頭もいいし優しい。それに僕と同じ子供だ。きっと僕の味方になってくれる。
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