僕の死亡日記

はやしかわともえ

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十二話・決意

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今日は学校の登校日だった。夏休みだけど学校に行くという不思議な行事だ。僕は久しぶりに制服に腕を通した。これを着たのは店で試着した時以来だったりする。特にきついということもなく、すっと着れたのがちょっとがっかりだった。このことを後でお母さんに言ったら、予め大きめに作ってもらったのだから当たり前だと笑われた。どうやら僕も成長期なんだと改めて自覚した。

階下に行くと、お母さんが驚いたような顔をした。だってこの僕が制服を着ているのだ。天変地異とまでは行かなくても、雪が降るくらいには思ったかもしれない。

「詩史のお弁当はこれね」

お母さんにお弁当の包みを渡される。

「ありがとう」

僕がご飯を貪っていると、眠たそうなパジャマ姿の兄さんがやってきた。

「おはよ。詩史、学校?」

ふああと大きな欠伸をして兄さんが尋ねてくる。兄さんが僕の様子に驚いてないのに僕は驚いていた。

「学校なんて八年ぶりだよ」

ふざけて言ったら兄さんがクスリと笑う。

「八年なんてお前ならすぐ取り返せるよ」

「そうかな?」

「俺が保証する。それに」

兄さんは僕の通学カバンをちらりと見て笑った。獅子王がちまっと顔を外に出して周りを窺っている。昨日、獅子王が学校は楽しいところなんだと力説していた。だから僕も少しだけならと思った。こうやって色々なことが変化していくのかもしれないな。朝ごはんを食べ終えた僕はごちそうさまをして家を出た。学校が怖くないわけじゃない。でも獅子王もいてくれるから大丈夫だって思えた。教室に入ると、周りの子達がしん、と静まり返った。まぁ、予想通りだ。自分の席すら分からない。困っていたら短髪の元気そうな子に声を掛けられた。

「なぁなぁ、お前が詩史?俺、そら!ずっとお前に会いたかったんだ!」

「空くん?」

「空でいいよ!俺の席の隣がお前の席だし、特別授業でも同じ班!よろしくな!」

空が手を差し伸べてくれる。そろっと掴んだらブンブン振られてびっくりした。

「なあなあ詩史、夏休みの間、どこかで遊ばねえ?俺、課題ばかりやっててさ」

空が言うには大好きなお兄さんに課題をまず片付けるように厳命されたらしい。そんなに好きになれるお兄さんもすごいな。僕も人のことは言えないけど。

「兄ちゃんは俺の憧れなんだ!!剣道で日本一なんだぜ!」

「すごいね!空も剣道やってるの?」

「俺はすごく弱いから恥ずかしいよ。よく兄ちゃんと比べられる」

しょんぼりと空が言う。僕は不思議だった。みんな、悩んだり迷ったり落ち込んだりしてるんだって初めて知った。当たり前だ、人間なんだから感情がある。でも僕はそれを知らなかった。僕以外の人はただ淡々と毎日をこなすものだと思っていた。

「空は偉いね…あ…なんだろう。変な意味じゃなくてさ」

つい上から目線になってしまった気がして慌てると、空が噴き出した。

「詩史ともっと早く会いたかったよ。夏休み終わってからも学校に来て欲しい」

まっすぐ言われて、僕は困った。出来ない約束ならしない方がいい。

「僕には無理だよ」

「詩史…」

空が心配そうな顔をしている。そこに担任がやってきて、僕に気が付いた。

「詩史、来てくれたのか!」

「はい」

先生は本当に嬉しそうだった。でも僕は大人を信じないって決めている。それから長いホームルームがあって、その後はみんなで教室や廊下の掃除をした。
お弁当を食べていると、空が羨ましそうにこちらを見つめてくる。

「詩史の弁当美味そー!俺の家の弁当ってなんていうか、地味なんだよね」

「おかず交換する?」

「いいのか?」

空が食べたがったのはハムでアスパラを巻いたやつだった。お母さんがよく作ってくれるから僕は食べ慣れている。僕は空からうずらのたまごのフライをもらった。

「へー、美味え!」

「空も自分で作れるんじゃないかな?」

「え!本当?」

「うん、アスパラは炒めて、ハムで巻くだけだと思う」

「そっかー!俺、料理は食べる専門でさ」

たはは、と空が困ったように言う。優しい子だな。僕みたいに捻れてないのがすごい。友達になれるかな?分からない。

「詩史、なんでバッグ、ずっと机に置いてあるんだ?」

それは獅子王のためだった。獅子王は教室の目まぐるしく変わる環境を眺めている。

「実は僕、刀剣使いでして」

「え!それもしかして、そういう設定ってやつ?」

空が上手く食い付いた。

「本当だよ」

「詩史は分かってるな!」

空とは帰る間際まで一緒だった。スマートフォンの連絡先も交換し合った。連絡来るかな?空は僕を嫌ってないだろうか。僕はこうして優しい人を疑ってしまうんだよな。悪い癖なのはわかっているつもりなんだけど。
それでも僕はとにかく心配で仕方がない。自分が裏切られないかって。

「主人、元気なお友達だな!」

「友達かはまだ分からないよ」

投げ捨てるように言ったら獅子王が黙ったまま見つめてきた。

「主人はなんでそんなに人を疑うんだ?主人は誰よりも優しいし、気配りだってできる」

「だからじゃないかな」

獅子王はしばらく考えて、そうかと呟いた。

「主人には色々分かりすぎるんだな」

「そうだよ」

こんな特性、僕には必要ないのに。
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