2 / 2
二人は出会う
しおりを挟む
空高くにある真っ白な雲に向かって、できる限りに手を伸ばす。
「あれが綿菓子だったら素敵なのに。」
私はそう呟いた。
いくらこの手を伸ばしても、到底届きやしないことくらい、当然理解している。でも、掴みたくなってしまう。そんな空に今日も私は魅了されている。
そう空に浮かぶ雲に見惚れていると、追い風が大きく吹いた。自身の長い髪が視界を遮る。それが鬱陶しくなって、髪を耳にかけようと手をやった時。
「綿菓子だったら、食べてしまうの?」
突然聞こえてきた声に驚いて腰を抜かす。
「ごめん、驚かせてしまったね。」
眉を下げそう言い、腰を曲げてこちらに手を伸ばす男の子。恐る恐るその手を取ると、優しく引き上げられる。
____あの空に浮かぶ雲みたいな人だ。
青空と同じ色の髪に、あの雲と同じ真っ白な瞳。ふわふわとした髪の毛は思わず触れたくなる。そうして考えに浸っていると、自分が目の前の男の子に見惚れて黙ってしまっていたことに気付いた。ハッと意識を戻す。
「ごめんなさい。ありがとうございます。」
どうにか喉から出した声は、か細かった。
「いいんだ、気にしないで。」
人当たりの良さそうな笑顔を浮かべてそう言った男の子。
「あの……いつからそこに?」
思い切ってそう聞いてみる。
「少し前から、この辺りを散策してたいんだ。そしたら君を見かけて。一人で何か呟いてるから気になって耳を澄ましてみれば、面白そうなことを言っていたから、つい話しかけてしまったよ。」
側から見れば、自分がかなり可笑しなことを言っていたことを思い出して、目を泳がせる。
そのことに気がついたのか、こちらを見ては笑いを堪えるように口を噤む男の子。顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。いっそこの場から逃げ出してしまおうか、と考えたその時、彼が話を変えた。
「それより、君はこんな所で何をしていたの?」
「……ただ空を見ていました。私、嫌なことがあったらここへ逃げてくるんです。こんな所、あまり人も来ないから。」
こんな所___というのは、うちの屋敷から走って10分はある森の入り口のことだ。自然に溢れていて、近くには湖もあって、空を自由に鳥が飛んでいる。こんなに素敵な場所だというのに、人通りは極端に少ない。私の身内は自然のものを嫌がる傾向にある。こんな場所にいることが知られたら、と想像するだけで「はしたないことをするな」と私を咎める甲高い声が聞こえてくる。深刻な幻聴だ。
「ということは、何か嫌なことがあったのかな?」
眉間に皺を寄せ、眉を下げながら探るように聞いてくる。
「ええ……、私にとって最悪なことが。」
自分の喉から出た声は、思っていたより冷たかった。
「何があったの?」
無神経にもそう聞いてくる彼。もう思い出すことすら嫌なのに。それに、こんなことを名前も知らない人にペラペラ話してしまうほど、能天気な奴だとでも思われているのかしら。そうだとしたら心外だわ。
「……名前も知らない方に教えられるようなことではありませんわ。」
すると、焦ったように名乗る彼。
「あ!これは失礼。僕の名前はノア。」
初対面の方に自己紹介をするときは、家名まで伝えるのが一般的だ。
「ノア、家名をお聞きしても?」
ノアは恐らく上流階級の者だ。家名が気になり、促すように尋ねる。
「それはまだ秘密。今は、ただのノア。」
目を細め口に人差し指を当て、そう言う彼。
「今はこれでいいかな?いつか話す時が来るよ。」
私が黙ってしまっていると、困ったように笑った。
「そう……では、私もただのオリビア。」
"ただのノア"という響きが気に入って、私も家名は伏せて同じように名乗った。
「オリビア……僕は君の憂いを晴らしたいんだ。友人、そう、友人として。ここで会ったのも何かの縁だ。仲良くしてくれる?」
その言葉遣いや身なりから、上流階級の者であることは容易に察することができた。家名を言わないということは、何かあるのか……。そう考えたが、初めての〈友人〉という単語に惹かれてしまって、喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
「あれが綿菓子だったら素敵なのに。」
私はそう呟いた。
いくらこの手を伸ばしても、到底届きやしないことくらい、当然理解している。でも、掴みたくなってしまう。そんな空に今日も私は魅了されている。
そう空に浮かぶ雲に見惚れていると、追い風が大きく吹いた。自身の長い髪が視界を遮る。それが鬱陶しくなって、髪を耳にかけようと手をやった時。
「綿菓子だったら、食べてしまうの?」
突然聞こえてきた声に驚いて腰を抜かす。
「ごめん、驚かせてしまったね。」
眉を下げそう言い、腰を曲げてこちらに手を伸ばす男の子。恐る恐るその手を取ると、優しく引き上げられる。
____あの空に浮かぶ雲みたいな人だ。
青空と同じ色の髪に、あの雲と同じ真っ白な瞳。ふわふわとした髪の毛は思わず触れたくなる。そうして考えに浸っていると、自分が目の前の男の子に見惚れて黙ってしまっていたことに気付いた。ハッと意識を戻す。
「ごめんなさい。ありがとうございます。」
どうにか喉から出した声は、か細かった。
「いいんだ、気にしないで。」
人当たりの良さそうな笑顔を浮かべてそう言った男の子。
「あの……いつからそこに?」
思い切ってそう聞いてみる。
「少し前から、この辺りを散策してたいんだ。そしたら君を見かけて。一人で何か呟いてるから気になって耳を澄ましてみれば、面白そうなことを言っていたから、つい話しかけてしまったよ。」
側から見れば、自分がかなり可笑しなことを言っていたことを思い出して、目を泳がせる。
そのことに気がついたのか、こちらを見ては笑いを堪えるように口を噤む男の子。顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。いっそこの場から逃げ出してしまおうか、と考えたその時、彼が話を変えた。
「それより、君はこんな所で何をしていたの?」
「……ただ空を見ていました。私、嫌なことがあったらここへ逃げてくるんです。こんな所、あまり人も来ないから。」
こんな所___というのは、うちの屋敷から走って10分はある森の入り口のことだ。自然に溢れていて、近くには湖もあって、空を自由に鳥が飛んでいる。こんなに素敵な場所だというのに、人通りは極端に少ない。私の身内は自然のものを嫌がる傾向にある。こんな場所にいることが知られたら、と想像するだけで「はしたないことをするな」と私を咎める甲高い声が聞こえてくる。深刻な幻聴だ。
「ということは、何か嫌なことがあったのかな?」
眉間に皺を寄せ、眉を下げながら探るように聞いてくる。
「ええ……、私にとって最悪なことが。」
自分の喉から出た声は、思っていたより冷たかった。
「何があったの?」
無神経にもそう聞いてくる彼。もう思い出すことすら嫌なのに。それに、こんなことを名前も知らない人にペラペラ話してしまうほど、能天気な奴だとでも思われているのかしら。そうだとしたら心外だわ。
「……名前も知らない方に教えられるようなことではありませんわ。」
すると、焦ったように名乗る彼。
「あ!これは失礼。僕の名前はノア。」
初対面の方に自己紹介をするときは、家名まで伝えるのが一般的だ。
「ノア、家名をお聞きしても?」
ノアは恐らく上流階級の者だ。家名が気になり、促すように尋ねる。
「それはまだ秘密。今は、ただのノア。」
目を細め口に人差し指を当て、そう言う彼。
「今はこれでいいかな?いつか話す時が来るよ。」
私が黙ってしまっていると、困ったように笑った。
「そう……では、私もただのオリビア。」
"ただのノア"という響きが気に入って、私も家名は伏せて同じように名乗った。
「オリビア……僕は君の憂いを晴らしたいんだ。友人、そう、友人として。ここで会ったのも何かの縁だ。仲良くしてくれる?」
その言葉遣いや身なりから、上流階級の者であることは容易に察することができた。家名を言わないということは、何かあるのか……。そう考えたが、初めての〈友人〉という単語に惹かれてしまって、喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
雪とともに消えた記憶~冬に起きた奇跡~
梅雨の人
恋愛
記憶が戻らないままだったら…そうつぶやく私にあなたは
「忘れるだけ忘れてしまったままでいい。君は私の指のごつごつした指の感触だけは思い出してくれた。それがすべてだ。」
そういって抱きしめてくれた暖かなあなたのぬくもりが好きよ。
雪と共に、私の夫だった人の記憶も、全て溶けて消えてしまった私はあなたと共に生きていく。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる