愛を知った二人は運命に逆らわない

佐藤モモンガ

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二人は出会う

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 空高くにある真っ白な雲に向かって、できる限りに手を伸ばす。

 「あれが綿菓子だったら素敵なのに。」

 私はそう呟いた。
 いくらこの手を伸ばしても、到底届きやしないことくらい、当然理解している。でも、掴みたくなってしまう。そんな空に今日も私は魅了されている。
 そう空に浮かぶ雲に見惚れていると、追い風が大きく吹いた。自身の長い髪が視界を遮る。それが鬱陶しくなって、髪を耳にかけようと手をやった時。

 「綿菓子だったら、食べてしまうの?」

 突然聞こえてきた声に驚いて腰を抜かす。
 
 「ごめん、驚かせてしまったね。」

 眉を下げそう言い、腰を曲げてこちらに手を伸ばす男の子。恐る恐るその手を取ると、優しく引き上げられる。

 ____あの空に浮かぶ雲みたいな人だ。
 青空と同じ色の髪に、あの雲と同じ真っ白な瞳。ふわふわとした髪の毛は思わず触れたくなる。そうして考えに浸っていると、自分が目の前の男の子に見惚れて黙ってしまっていたことに気付いた。ハッと意識を戻す。

 「ごめんなさい。ありがとうございます。」

 どうにか喉から出した声は、か細かった。

 「いいんだ、気にしないで。」
 
 人当たりの良さそうな笑顔を浮かべてそう言った男の子。
 
 「あの……いつからそこに?」

 思い切ってそう聞いてみる。
 
 「少し前から、この辺りを散策してたいんだ。そしたら君を見かけて。一人で何か呟いてるから気になって耳を澄ましてみれば、面白そうなことを言っていたから、つい話しかけてしまったよ。」

 側から見れば、自分がかなり可笑しお菓子なことを言っていたことを思い出して、目を泳がせる。
 そのことに気がついたのか、こちらを見ては笑いを堪えるように口を噤む男の子。顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。いっそこの場から逃げ出してしまおうか、と考えたその時、彼が話を変えた。

 「それより、君はこんな所で何をしていたの?」
 
 「……ただ空を見ていました。私、嫌なことがあったらここへ逃げてくるんです。こんな所、あまり人も来ないから。」

 こんな所___というのは、うちの屋敷から走って10分はある森の入り口のことだ。自然に溢れていて、近くには湖もあって、空を自由に鳥が飛んでいる。こんなに素敵な場所だというのに、人通りは極端に少ない。私の身内は自然のものを嫌がる傾向にある。こんな場所にいることが知られたら、と想像するだけで「はしたないことをするな」と私を咎める甲高い声が聞こえてくる。深刻な幻聴だ。

 「ということは、何か嫌なことがあったのかな?」
 
 眉間に皺を寄せ、眉を下げながら探るように聞いてくる。

 「ええ……、私にとって最悪なことが。」
 
 自分の喉から出た声は、思っていたより冷たかった。

 「何があったの?」
  
 無神経にもそう聞いてくる彼。もう思い出すことすら嫌なのに。それに、こんなことを名前も知らない人にペラペラ話してしまうほど、能天気な奴だとでも思われているのかしら。そうだとしたら心外だわ。

 「……名前も知らない方に教えられるようなことではありませんわ。」

 すると、焦ったように名乗る彼。

 「あ!これは失礼。僕の名前はノア。」
 
 初対面の方に自己紹介をするときは、家名まで伝えるのが一般的だ。

 「ノア、家名をお聞きしても?」
 
 ノアは恐らく上流階級の者だ。家名が気になり、促すように尋ねる。

 「それはまだ秘密。今は、ただのノア。」

 目を細め口に人差し指を当て、そう言う彼。

 「今はこれでいいかな?いつか話す時が来るよ。」

 私が黙ってしまっていると、困ったように笑った。

 「そう……では、私もただのオリビア。」
 
 "ただのノア"という響きが気に入って、私も家名は伏せて同じように名乗った。

 「オリビア……僕は君の憂いを晴らしたいんだ。友人、そう、友人として。ここで会ったのも何かの縁だ。仲良くしてくれる?」
 
 その言葉遣いや身なりから、上流階級の者であることは容易に察することができた。家名を言わないということは、何かあるのか……。そう考えたが、初めての〈友人〉という単語に惹かれてしまって、喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
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