兄が届けてくれたのは

くすのき伶

文字の大きさ
24 / 82

元の自分に戻りたいですか

しおりを挟む
「うーん……戻れるなら戻ってみたいというか。けど、正直いろいろ分からないです。戻るべきなのかどうか。戻るにしてもその術が分かりません。戻ったら戻ったでその先に何が待ち受けているのかも予想できなくて」

「そうですよね」

「大人になるにつれて自然にこの機能が衰えたとか、消えたとかだったら別に無理して戻そうとしなくてもいいかなって思うんです。でも僕の場合、きっかけがあって使えなくなったみたいなんで、それだとちょっとひっかかるというか」

タカが黙ったまま相槌を打つ。

「いまの状況を変えられるのであれば、そのために自分にできることがあるのなら、何かしてもいいかなって思ってます。それでも何も変わらなかったら、うん、まあ諦めて自然の流れに身を任せます」

「身を任せる?」

「……はい。任せる、です」

ハルはコーヒーを一口飲み、窓の外を見た。

「ハルさんは……苦しむ必要がない人間ですよ。あなたはそんな存在じゃない」

タカが小さな声で言った。

「え?」

「ハルさん、僕、手伝いますよ」

「え……あ、ありがとうございます。でもこういうの、どうすればいいんですかね。心理学的な何か技術が必要なんでしょうかね」

「僕も分からないんですけど、僕の視えてるものとか共有できないのかな。なんか刺激されそうじゃないですか」

「え、タカさん過去にも何かこういうことしたんですか?誰かの……視える力を取り戻す的な」

「いや、全くないですし何も分かりません。けど……これは完全に僕の勘なんですけど、ハルさんの場合は守りに入って閉ざしてる感じがするんですよね。もしかしたら何か刺激を与えれば開くんじゃないかな、とか。それは記憶を刺激したり、あとは物理的に刺激したり」

「刺激……でもどうやって?」

タカは黙ったまま窓の外を見て、そしてハルの目を見た。

「僕は視えるタイプだから、ちょっと試してみませんか」

「え……」

「手、いいですか?」

タカは、自分の手をハルに差し出した。

ハルは一瞬ドキッとした。手を差し出した瞬間のタカの目つきが、さっきと少し変わったからだ。

「えっあ、はい」

ハルは自分の右手を差し出し、タカの手のひらの上に重ねる。

タカの手は、とても冷たかった。

「タカさん、手がめちゃくちゃ冷たいです。大丈夫ですか?」

血は通っているのかと心配になるほどにタカの手は冷たかった。

タカは何も答えずハルの目をじっと見つめる。そして両手でハルの手をぎゅっとつかむ。

「あの……」

ハルの心臓の鼓動が早くなる。

「ちょっと待ってくださいね」

「あ、はい……」

20秒ほど経って、ハルは今度は目の奥がひんやりするのを感じた。

その不思議な感覚に驚き、一瞬顔がガクッと動く。

タカはじっとハルの目を見つめたまま、囁くような小さな声で聞く。

「ハルさん、何か感じますか?」

「え、あの……冷たいです。目が。目っていうかここ、奥のほうが」

ハルは左手で自分の頭を指差す。

「冷たい……氷みたいですか」

「はい……そんな感じです」

「そうですか。共有まではいかないけど、繋がることはできるみたいですね。刺激になるかも」

タカの声が普段通りに戻った。

「え、あ、はい……でも何がなんだか」

「そうですよね」

「不思議な感覚すぎて」

「僕もです。初めてこんなことしてます。手じゃなくて目のほうが冷たくなったということですよね?」

「はい。最初はタカさんのその……手の冷たさを感じただけだったんですけど、そのあとに目の奥がこう、ひんやりと」

「そうですか。何か視えたりとかは」

「いえ、それは何も」

「わかりました。あ、すみません。また僕の目怖かったですよね。すみません」

「いやそれは全然。大丈夫です」

ハルは、タカに手を握られ見つめられ、初めて聞く囁く声に、ものすごくドキドキしてしまっていた。心臓の鼓動が手を伝ってタカに知られていないか不安になり、目線を窓の外に向けた。

そしてタカは、ハルの手から自分の手をすっと離す。

タカの手が離れても、ハルの心臓の鼓動は鎮まらなかった。

「僕の冷たい手、たぶん末端冷え性ってやつです。昔からこうで」

「え、あ、そう……ですか」

「たまに手が悴んでしまってみかんの皮が剥きにくくなるんですよね。なんて」
あははっと笑うタカ。

「みかんって……」

ハルは、何だか恥ずかしくなってしまいタカの目を見れずにいた。そして窓の外を見たまま聞く。

「タカさんすみません。僕いろんな意味でいま心臓が耐えられなくて。あの、前にも聞きましたけど絶対に透視はできませんよね?その言葉信じてますからね?」

「だからできませんって笑 本当ですよ。信じてください」

タカはニコッと笑いながら、そう答えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

あの部屋でまだ待ってる

名雪
BL
アパートの一室。 どんなに遅くなっても、帰りを待つ習慣だけが残っている。 始まりは、ほんの気まぐれ。 終わる理由もないまま、十年が過ぎた。 与え続けることも、受け取るだけでいることも、いつしか当たり前になっていく。 ――あの部屋で、まだ待ってる。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

処理中です...