明晰夢〜めいせきむ〜

夏目すず子

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第ニ章 与えられた力

明晰夢〜めいせきむ〜

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私は人の来ない夜中を狙って毎日のように弥彦に会いに神社へ通った。弥彦も私が来るのを楽しみに待っていてくれているように見えた。弥彦は人間という生き物にとても興味があるらしく、私の話を楽しげに聞いている。私は自分の書いている小説を毎夜弥彦に読んで聞かせた。弥彦は私の読む小説がとても気に入ったらしく次はどうなるのかと早く物語の続きを聞かせるよう私にせがんでくる。人に読んで貰う事が出来なかった小説が今神様である弥彦にせがまれ慌ただしく執筆を進めていく。私はそれがたまらなく嬉しかった。ある夜、弥彦は私にある提案を投げかけた。
「君の小説はとても面白い、君は人の子なのに人ではないような発想をするのだな」
「人の子じゃない…?」
「人以外の者にとても興味と憧れを抱いているように思える、君は人でない方が嬉しいのかい?」
「そうかな…確かに…だけどそれは誰しも持っている願望や憧れだよ、魔法使いや能力者、力の強い者に憧れるんだよ、私が書いてる小説の主人公はみんな私の分身みたいな者だから…」
「小説の主人公の様になりたいのかい?」
「なってみたいって思って書いてるからね」
「じゃあ、なってみるかい?」
「なるって…どうやって?!」
「目を閉じて」
弥彦は私の両目に手をかざすと何やら小さな声で呪文のようなものを唱え、その後私にそっとキスをした。私は驚き後ろにのけぞるが弥彦は私の後頭部を片手で支えのけぞる私を逃がす事なくキスをやめない。私は体の力が抜け弥彦に体を預けるしかなかった。暫くすると弥彦は私から唇を離し手で覆われた目も開けられた。目の前に弥彦の綺麗な顔が現れた。私は思わず顔をそらしてしまったが、弥彦は優しく微笑んでいるように見えた。
「今日眠るのを楽しみにしているといい」
「眠るのを?どうして?」
「それは眠ってからのお楽しみだよ…」
弥彦は私に少しいたずらっぽく笑って見せた。私はその幼げな表情に胸が熱くなるのを感じていた。
ここ数日で色んな事があった。会社の倒産、車に跳ねられそうになり、神様に出会った。弥彦は本当に神様なのかな…?そもそも弥彦って存在してるんだろうか…?ただ夢を見ているだけなんじゃないだろうか…でも毎夜弥彦に会ってるし…風が頬を触る感じも空気の匂いも本物のように思えるし私はそんな事を頭の中でごちゃごちゃと考えながら、ベッドに潜り込んだ。夢でも現実でも弥彦と話してると楽しいし今日は早めに寝よう…眠る…そう言えば弥彦眠るのを楽しみにとか何とか言ってたっけ…
私は疲れのせいかベッドに入ってすぐ深い眠りに入った。

あれ…ここ何処だろ…?確か今日は疲れてて早めに寝たんだけど…目が覚めて…!!??!!??
無い!胸が無い!…っていうか何か股の所に違和感が…何これ!!??
私は慌てて体のあちらこちらを手で確認するようにさわってみた。
それに此処は一体何処なんだー!!??夢の中なの…?それにしては顔にかかる風がリアルに冷たくて空気の匂いもかすかに感じる…この風景何処かでみたような…何か懐かしい感じがするんだけど…
私は自分の体を一通り確認し終えると、辺りを見渡した。この公園…私が小説書いてる時頭の中で想像した公園に似てる!それにあの親子…そっか小説書くのにのめり込み過ぎて夢に出てきちゃったんだ。それにしても何で私男になってんの?!多分今夢の中にいる私はリオンなんだ…小説の登場人物の中でも一番綺麗なイメージで書いてたから自然にリオンに憧れてたんだよね…
でもほんとリアル…確かこの後小さい娘と遊んでる父親が殺し屋のミツヒデに撃たれるはず…とするとミツヒデは…あれか…?
流石に自分で登場人物を想像しながら書いてるからすぐわかっちゃったよ、やっぱりかっこいいな
私は自分の書いた小説のストーリー通りに事が進んでいくのか確かめたくなってしまった。私がここでミツヒデの仕事を目撃してオビの事務所に行けばいいんだよね…
おっ!早速始まった!
小説の内容通り娘の父親がばたりと倒れた私はミツヒデがその場を去るのを待って、ミツヒデとの最初の出会いの場所でもあるオビの探偵事務所を訪ねた。
会話も小説通りにしてみよ…
あ…見てる見てるミツヒデこの時リオンに一目惚れするんだよね…
私は慌てた振りをして事務所を出て行ったそして事務所から少し離れたドーナツ屋に入ったのだ。
「珈琲ホットで、あとこれも」
私は台本を読むように自分の小説を進めていくのだった。
「この店はこのドーナツオススメだよねおねえさん」
思った通りミツヒデが私を追いかけてきた何かドラマみたい…
私は少し浮かれながらもリオンになりきりストーリーを進めていった。

うん……あれ……ベッドの中……
私は又自分の体を触り女に戻っている事を確認するとやっぱり夢だったんだと少し残念な気持ちになっていた。この夢の事弥彦に話してみよ驚くかな…
私はベッドから起き上がると支度を済ませ弥彦に会いに神社へ向かった。

「弥彦、あのね!」
「いい夢は見れたかな?」
「夢って…何で私の夢の事知ってるの?!」
「私が昨日君に与えた力だよ、君は小説の主人公に憧れを抱いている、だから君を君が一番気に入っている登場人物に置き換え小説のストーリーを進行していけたら楽しいかなと思ってね、嫌だったかい?」
「力を与えてくれたんだ…嫌じゃないよ凄く楽しかった!もっと進めていきたいって思ったくらいだよ」
「それなら良かった…君が望むままにストーリーは進んで行くはずだから…」
「有難う、弥彦、じゃあ小説もどんどん書いていかなくちゃね」
「無理はいけないよ、疲れるといけないから、又君のストーリーを聞かせてくれるかい?ゆっくりでいいから、私は急がないずっと此処にいる…君が来るのを…」
「うん、毎晩会いに来るからね!必ず」
私はそう弥彦と約束をすると家に戻り小説を書き始めた。
「今日の分書いたら更新出来そうだな、更新したら誰か読んでくれるかな…」

新しい章を書き終えると小説サイトで更新しパソコンを閉じた。書き終えるのに必死になりすぎて目が疲れ又何も食べずベッドに潜り込んだ。不思議とお腹もすかないのだ。早く夢の続きがみたくてしかたなくて目を閉じると又すぐに深い眠りに入っていった。
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