98 / 128
最終章
94
しおりを挟む
ルークも歳を重ねたら、こんな感じになるのかな……。
それが、クイントス領の領主でもある、彼の父親を見た第一印象だった。グレーの髪色は遺伝していないが、顔立ちや雰囲気がそっくりだ。ルークの銀髪碧眼はどうやらお母さん譲りで、ルークより濃いその紺碧の瞳はルナシスさんに受け継がれている。
「私に聞きたいことがあるらしいな?」
そう言う領主様の声も、ルークに似ている気がする。ちらりとルークに目をやると、何かを恐れて躊躇っているような、言いようのない不安感が表情に現れていた。これまでルークの口から、家族に関する話を聞いたことがなかったが、今のこの様子を見れば父親との間に蟠りがあることは容易に想像できる。家と連絡は取り合っていると以前言っていたが、交流を続けていたのはルナシスさんで、領主様とはそうでなかったんだろう。
ルークは何度も口を開いては閉じを繰り返し、自分の中の何かと戦っているように見えた。
彼らの間に何があったのか、僕には分からない。けど───。
僕はルークの手をそっと握り、力を込めた。ルークが不安そうな表情で、僕に視線を向けると、僕は声を出さず「大丈夫」と唇を動かした。領主様の言葉には抑揚があまりないから素っ気なく聞こえるが、決して突き放そうとしているものではない。だったら、怖がる必要もない。
僕の言葉が伝わったのか、ルークは僕に優しく微笑み、再び領主様に真っ直ぐ視線を向けた。そして、胸の奥で燻っていたであろう想いを、ぽつりぽつりと言葉にした。ルークの言い分だけを聞けば、非は領主様にあるように聞こえる。しかし、ルークが作っていたエリクサーという薬がどういう物なのかを知っていたからこそ、領主様も処分するようなことをしたんだろう。双方、言葉が足りなかった。それが、二人の間に溝をつくったんだ。
「父さんの方こそ、すまなかった」
「…もう、いいよ」
短い会話ではあったけど、伝えたいことを伝え合って、胸のしこりは取れたんじゃないだろうか。二人の間に流れる雰囲気を見て、僕はそう感じた。
「父さん、紹介するよ。彼はユイ。シグルド司祭の教会で1年ほど前まで司祭補佐をしていたんだ」
霊園からお邸の応接室に移動し、領主様の正面に向かい合って座った早々、ルークは僕を紹介してくれた。お母さんの墓前ではそんな雰囲気ではなかったから別にいいかと思っていたが、畏まって紹介されるとやはり緊張する。
「シグルドから度々報告を受けていたが、君がそうか。はじめまして。ルクスの父でクイントス領の領主をしている、レグルス・クイントスだ」
「はじまして、ユイと申します。その節は、行く当てのない僕を領地の教会で受け入れてくださり、領主様にも心から感謝しております」
「そんなに緊張しなくてもいいよ。それに領主としての仕事は、ほとんどルナシスがこなしているから、今はただの隠居したおじさんだ」
緊張を隠すように落ち着いて話したつもりだったが、領主様にはお見通しだったようだ。
「早く爵位も譲りたいが、ルナシスの伴侶が現れて一緒に責務を担ってくれるまでは、少しでも娘の負担を軽くしてあげたくてね」
そう言って困ったように笑う領主様は、『お父さん』の顔をしていた。その笑顔もルークそっくりで、つい未来の彼を想像してしまう。領主様はしばらく僕のことをじっと見つめ、そのあとふっとルークに似た笑顔を向けてきた。
「ユイ君。これからも、ルクスをよろしく頼む」
「…はい」
その言葉に、どんな意味が含まれているのかは分からない。でも、そこにどんな意味があったとしても、ルークともう一度向き合うことを決めていた僕に否はなかった。
「では、そろそろ本題に入ろうか」
領主様が話題を変えると、ルークは真剣な顔つきになって、モーリス大司教様の話とアーティファクトについて話した。領主様はルークの話を黙って聞き、話が終わると「見せたいものがある」と言って、従者を連れて部屋を出ていった。
領主様が出て行って二人きりになると、ルークはソファに身体を預けるように凭れかかった。緊張の糸が切れたのか気が抜けたような息を吐き、少し疲れた表情をしている。
「よく頑張ったね」
「ユイがそばにいてくれて、本当に良かった。ありがとう」
「僕は何もしていないよ」
ルークは安心したような表情を向けてきた。僕もつられて表情を緩ませると、ルークは唇が触れそうなくらい顔を近づけてきた。しかし、唇が触れ合う寸前でピタリと動きが止まり、すぐに離れていった。不思議に思ってルークの表情を覗いてみると、彼は眉を顰め、悔やむような表情で視線を落としていた。
どうして……、そんな顔をするの?
漠然とした不安を感じていると、領主様が部屋に戻ってきて、僕は慌てて意識を切り替えた。領主様の前で、表情を曇らせるわけにはいかない。その思いだけで、僕はナイトレイ家の執事さんに叩き込まれた、表情の作り方を必死に実践した。そのせいで、その後のルークと領主様の会話がほとんど頭に入ってこなかった。
それが、クイントス領の領主でもある、彼の父親を見た第一印象だった。グレーの髪色は遺伝していないが、顔立ちや雰囲気がそっくりだ。ルークの銀髪碧眼はどうやらお母さん譲りで、ルークより濃いその紺碧の瞳はルナシスさんに受け継がれている。
「私に聞きたいことがあるらしいな?」
そう言う領主様の声も、ルークに似ている気がする。ちらりとルークに目をやると、何かを恐れて躊躇っているような、言いようのない不安感が表情に現れていた。これまでルークの口から、家族に関する話を聞いたことがなかったが、今のこの様子を見れば父親との間に蟠りがあることは容易に想像できる。家と連絡は取り合っていると以前言っていたが、交流を続けていたのはルナシスさんで、領主様とはそうでなかったんだろう。
ルークは何度も口を開いては閉じを繰り返し、自分の中の何かと戦っているように見えた。
彼らの間に何があったのか、僕には分からない。けど───。
僕はルークの手をそっと握り、力を込めた。ルークが不安そうな表情で、僕に視線を向けると、僕は声を出さず「大丈夫」と唇を動かした。領主様の言葉には抑揚があまりないから素っ気なく聞こえるが、決して突き放そうとしているものではない。だったら、怖がる必要もない。
僕の言葉が伝わったのか、ルークは僕に優しく微笑み、再び領主様に真っ直ぐ視線を向けた。そして、胸の奥で燻っていたであろう想いを、ぽつりぽつりと言葉にした。ルークの言い分だけを聞けば、非は領主様にあるように聞こえる。しかし、ルークが作っていたエリクサーという薬がどういう物なのかを知っていたからこそ、領主様も処分するようなことをしたんだろう。双方、言葉が足りなかった。それが、二人の間に溝をつくったんだ。
「父さんの方こそ、すまなかった」
「…もう、いいよ」
短い会話ではあったけど、伝えたいことを伝え合って、胸のしこりは取れたんじゃないだろうか。二人の間に流れる雰囲気を見て、僕はそう感じた。
「父さん、紹介するよ。彼はユイ。シグルド司祭の教会で1年ほど前まで司祭補佐をしていたんだ」
霊園からお邸の応接室に移動し、領主様の正面に向かい合って座った早々、ルークは僕を紹介してくれた。お母さんの墓前ではそんな雰囲気ではなかったから別にいいかと思っていたが、畏まって紹介されるとやはり緊張する。
「シグルドから度々報告を受けていたが、君がそうか。はじめまして。ルクスの父でクイントス領の領主をしている、レグルス・クイントスだ」
「はじまして、ユイと申します。その節は、行く当てのない僕を領地の教会で受け入れてくださり、領主様にも心から感謝しております」
「そんなに緊張しなくてもいいよ。それに領主としての仕事は、ほとんどルナシスがこなしているから、今はただの隠居したおじさんだ」
緊張を隠すように落ち着いて話したつもりだったが、領主様にはお見通しだったようだ。
「早く爵位も譲りたいが、ルナシスの伴侶が現れて一緒に責務を担ってくれるまでは、少しでも娘の負担を軽くしてあげたくてね」
そう言って困ったように笑う領主様は、『お父さん』の顔をしていた。その笑顔もルークそっくりで、つい未来の彼を想像してしまう。領主様はしばらく僕のことをじっと見つめ、そのあとふっとルークに似た笑顔を向けてきた。
「ユイ君。これからも、ルクスをよろしく頼む」
「…はい」
その言葉に、どんな意味が含まれているのかは分からない。でも、そこにどんな意味があったとしても、ルークともう一度向き合うことを決めていた僕に否はなかった。
「では、そろそろ本題に入ろうか」
領主様が話題を変えると、ルークは真剣な顔つきになって、モーリス大司教様の話とアーティファクトについて話した。領主様はルークの話を黙って聞き、話が終わると「見せたいものがある」と言って、従者を連れて部屋を出ていった。
領主様が出て行って二人きりになると、ルークはソファに身体を預けるように凭れかかった。緊張の糸が切れたのか気が抜けたような息を吐き、少し疲れた表情をしている。
「よく頑張ったね」
「ユイがそばにいてくれて、本当に良かった。ありがとう」
「僕は何もしていないよ」
ルークは安心したような表情を向けてきた。僕もつられて表情を緩ませると、ルークは唇が触れそうなくらい顔を近づけてきた。しかし、唇が触れ合う寸前でピタリと動きが止まり、すぐに離れていった。不思議に思ってルークの表情を覗いてみると、彼は眉を顰め、悔やむような表情で視線を落としていた。
どうして……、そんな顔をするの?
漠然とした不安を感じていると、領主様が部屋に戻ってきて、僕は慌てて意識を切り替えた。領主様の前で、表情を曇らせるわけにはいかない。その思いだけで、僕はナイトレイ家の執事さんに叩き込まれた、表情の作り方を必死に実践した。そのせいで、その後のルークと領主様の会話がほとんど頭に入ってこなかった。
42
あなたにおすすめの小説
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。
キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。
しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。
迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。
手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。
これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。
──運命なんて、信じていなかった。
けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。
全8話。
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった
カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。
ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。
俺、いつ死んだの?!
死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。
男なのに悪役令嬢ってどういうこと?
乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。
ゆっくり更新していく予定です。
設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる