【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro

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最終章

94

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 ルークも歳を重ねたら、こんな感じになるのかな……。

 それが、クイントス領の領主でもある、彼の父親を見た第一印象だった。グレーの髪色は遺伝していないが、顔立ちや雰囲気がそっくりだ。ルークの銀髪碧眼はどうやらお母さん譲りで、ルークより濃いその紺碧の瞳はルナシスさんに受け継がれている。

「私に聞きたいことがあるらしいな?」

 そう言う領主様の声も、ルークに似ている気がする。ちらりとルークに目をやると、何かを恐れて躊躇っているような、言いようのない不安感が表情に現れていた。これまでルークの口から、家族に関する話を聞いたことがなかったが、今のこの様子を見れば父親との間にわだかまりがあることは容易に想像できる。家と連絡は取り合っていると以前言っていたが、交流を続けていたのはルナシスさんで、領主様とはそうでなかったんだろう。
 ルークは何度も口を開いては閉じを繰り返し、自分の中の何かと戦っているように見えた。

 彼らの間に何があったのか、僕には分からない。けど───。

 僕はルークの手をそっと握り、力を込めた。ルークが不安そうな表情で、僕に視線を向けると、僕は声を出さず「大丈夫」と唇を動かした。領主様の言葉には抑揚があまりないから素っ気なく聞こえるが、決して突き放そうとしているものではない。だったら、怖がる必要もない。
 僕の言葉が伝わったのか、ルークは僕に優しく微笑み、再び領主様に真っ直ぐ視線を向けた。そして、胸の奥で燻っていたであろう想いを、ぽつりぽつりと言葉にした。ルークの言い分だけを聞けば、非は領主様にあるように聞こえる。しかし、ルークが作っていたエリクサーという薬がどういう物なのかを知っていたからこそ、領主様も処分するようなことをしたんだろう。双方、言葉が足りなかった。それが、二人の間に溝をつくったんだ。

「父さんの方こそ、すまなかった」
「…もう、いいよ」

 短い会話ではあったけど、伝えたいことを伝え合って、胸のしこりは取れたんじゃないだろうか。二人の間に流れる雰囲気を見て、僕はそう感じた。



「父さん、紹介するよ。彼はユイ。シグルド司祭の教会で1年ほど前まで司祭補佐をしていたんだ」

 霊園からお邸の応接室に移動し、領主様の正面に向かい合って座った早々、ルークは僕を紹介してくれた。お母さんの墓前ではそんな雰囲気ではなかったから別にいいかと思っていたが、畏まって紹介されるとやはり緊張する。

「シグルドから度々報告を受けていたが、君がそうか。はじめまして。ルクスの父でクイントス領の領主をしている、レグルス・クイントスだ」
「はじまして、ユイと申します。その節は、行く当てのない僕を領地の教会で受け入れてくださり、領主様にも心から感謝しております」
「そんなに緊張しなくてもいいよ。それに領主としての仕事は、ほとんどルナシスがこなしているから、今はただの隠居したおじさんだ」

 緊張を隠すように落ち着いて話したつもりだったが、領主様にはお見通しだったようだ。

「早く爵位も譲りたいが、ルナシスの伴侶が現れて一緒に責務を担ってくれるまでは、少しでも娘の負担を軽くしてあげたくてね」

 そう言って困ったように笑う領主様は、『お父さん』の顔をしていた。その笑顔もルークそっくりで、つい未来の彼を想像してしまう。領主様はしばらく僕のことをじっと見つめ、そのあとふっとルークに似た笑顔を向けてきた。

「ユイ君。これからも、ルクスをよろしく頼む」
「…はい」

 その言葉に、どんな意味が含まれているのかは分からない。でも、そこにどんな意味があったとしても、ルークともう一度向き合うことを決めていた僕に否はなかった。

「では、そろそろ本題に入ろうか」

 領主様が話題を変えると、ルークは真剣な顔つきになって、モーリス大司教様の話とアーティファクトについて話した。領主様はルークの話を黙って聞き、話が終わると「見せたいものがある」と言って、従者を連れて部屋を出ていった。
 領主様が出て行って二人きりになると、ルークはソファに身体を預けるように凭れかかった。緊張の糸が切れたのか気が抜けたような息を吐き、少し疲れた表情をしている。

「よく頑張ったね」
「ユイがそばにいてくれて、本当に良かった。ありがとう」
「僕は何もしていないよ」

 ルークは安心したような表情を向けてきた。僕もつられて表情を緩ませると、ルークは唇が触れそうなくらい顔を近づけてきた。しかし、唇が触れ合う寸前でピタリと動きが止まり、すぐに離れていった。不思議に思ってルークの表情を覗いてみると、彼は眉を顰め、悔やむような表情で視線を落としていた。

 どうして……、そんな顔をするの?

 漠然とした不安を感じていると、領主様が部屋に戻ってきて、僕は慌てて意識を切り替えた。領主様の前で、表情を曇らせるわけにはいかない。その思いだけで、僕はナイトレイ家の執事さんに叩き込まれた、表情の作り方を必死に実践した。そのせいで、その後のルークと領主様の会話がほとんど頭に入ってこなかった。


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